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第二章 王都改革編

77、下水道工事

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 執務室に戻ると三人でソファーに集まり、下水道についての話し合いを開始した。

「下水道の工事はまだ始めてないんだよな?」
「はい。製氷器を作ってお金が入るまでと延期していました。しかしそろそろお金も十分に溜まってきたので、公共事業として始めても良いと思います」
「ただすぐに利益が出るものではないので、あまり急がず少しずつにしましょう。雇う人数も今のところは少なくしたいです」

 下水道の工事は急ピッチで進めたいのなら素人も多く雇うべきだけど、それだとかなりの資金が必要だし、工事が終わった後に大量の失業者が生まれてしまう。
 そうなった時にまた次の公共事業を興せるか今はまだ分からないので、リスクは背負わない方が良い。

「結局建築工房に依頼するのか?」
「私はそれが良いと思います」
「僕も同意見です。一応建築工房をいくつか候補として選んでいるのですが、まだ話を持って行った工房はありません」

 いくつの建築工房に頼むのかも難しいところだ。それぞれの地域ごとにお願いするのが良いのか、一つの工房に絞った方が上手くいくのか。

「急がずに計画を進めるのならば、頼むのは一つの工房だけにするか?」
「そうですね……その方が意思疎通は上手くいくでしょうし、リスクも減らせると思います」

 増やしてしまったものを減らすのは大変だけど、途中から人手を増やすのはそこまで難しくないだろう。

「ではとりあえず一つの工房に頼むことにしませんか? そして人手が足りなかったらその工房で人を雇ってもらうか、または他の工房に声をかけてもらうか。その時に話し合いをするという決まりにしましょう」
「確かにそれが無難かもしれんな」

 マティアスの提案にファビアン様と俺が頷き、今の段階では一つの工房に絞ることに決まった。それが決まったら次はどの工房にするかだ。

「僕としてはこの三つをおすすめしたいです。評判や仕事の正確さ、また工房長の人柄から判断しています」
「分かった。ではこの三つの中からどこにするのか決めよう」

 俺とファビアン様はマティアスの判断を疑うようなことはしない。今までマティアスが選んだ取引相手は、皆とても気持ちよく働いてくれているからだ。マティアスは人を見る目がかなりあると思っている。
 父親が宰相だし、将来的にマティアスが宰相になるのならファビアン様の大きな助けになるだろう。そうなった時に俺はどんな役職にいるのだろうか……その辺のことも考え始めないとかな。

「それぞれの特徴を教えてくれる?」
「もちろん。一つ目の工房はとにかく工房長の人柄が良くて仕事も丁寧です。しかし人数が三人しかいない小さな工房なので、今回の仕事ではそこがネックになるかと思います。二つ目はそこそこ大きな工房で仕事も丁寧なのですが、工房長が若すぎるというのが問題です。職人の間ではやはり若い者は舐められるという部分があるので、この工房が主体となり他の工房にも仕事を回す……というのは難しいかもしれません。最後三つ目ですが、ここは腕が良くて人数も一番と言っても良いほどの大きな工房です。しかし工房長が仕事一筋で無口な壮年の男性で、周りと円滑なコミュニケーションを取るのが難しいようです」

 ……これはマティアスが悩むのも分かる。どの工房も一長一短だ。

「選ぶのが難しいな……今回の仕事で何を一番に求めるのか、そこに重点を置いて考えよう。私としてはかなりの長期間、同じものを作り続けるという根性が必要だと思っている。またその際に手抜きを考えないような、自分の腕にプライドを持っているという点も重視したい」
「確かにそれも大切ですが……僕は街の人ともコミュニケーションを取りながらする仕事になると思うので、やはり愛想の良さを重視したいです」

 既に二人の間で意見が分かれている。こうなるのも仕方がないよね……二人の意見はどちらも大切なのだ。その上でどこを重視するかになるんだけど難しい。いっそのこと重視する点じゃなくて、あまり必要じゃない能力から考えた方が良いかもしれない。

「今回の仕事は長期的な計画になるので、他の工房との調整はあまり考えなくて良いと思います。さらに建築の技術も一般的なものであれば問題ありません。下水道の工事はそこまで難易度が高いものではないですし、一度慣れてしまえば同じことの繰り返しですから。……そうして不要な能力を考えて、改めて三つの工房を見てみませんか?」

 俺のその提案に二人の視線が斜め上を向く。もう一度三つの工房の特徴を吟味しているのだろう。
 俺としては二つ目の工房を押したいかな……悪い点は工房長が若いゆえの他の工房との関係性のみだったし、そこが問題なくなれば一番良いだろう。腕が良くて性格も良い、そこそこ大きな工房で人数もいる、完璧だ。

 それに若い人の方が俺達がやり取りしやすいというのもある。やはり年齢差が少ない方が話も合うのだ。

「私は二つ目の工房が良いと思う」
「僕も同じ意見です」

 おっ、意見が一致した。これは二つ目の工房で決まりかな。二人が俺にも意見を求めるように視線を向けてきたので、俺は肯定の意を示すために頷いて口を開いた。

「私も同じです」
「じゃあ二つ目の工房にしましょう。今度話を持っていき、受けてもらえたら正式に決定とします」

 マティアスがその旨を紙に書き記して、工房選びはとりあえず終わりとなった。そして話は次の段階に移る。

「工房に仕事内容をある程度は説明できるようにしたほうが良いと思うので、どこから工事を始めてもらうかなども決めておきませんか?」
「確かにそうだな。私としてはまず、各地区を結びつけるように大きな下水道を作ってもらいたいと思っている。そしてそれが終わったら、次はその大きな下水道に繋がるような細い下水道を、各家ごとに作っていけば良いと思う。というのも主要な下水道さえ完成すれば、それを排泄物集積場代わりに使うこともできるだろう?」

 確かに主要な下水道の始点に井戸のような感じで汚物を捨てられる入り口を作って、そこに水で汚物を押し流すような魔道具を作って設置すれば、下水道を使って排泄物集積場に汚物を溜めることができる。
 排泄物集積場の場所を下水の終点、今の段階ではまだ街の外には無理だから街の城壁付近に作れば、汚物を街の外に処理するのも楽になるだろう。

 というか今気づいたけど、集められた汚物を回収して街の外に捨てに行く仕事をしている人がいるのだ。その人達が危険を冒す必要をなくすためにも、街の外まで下水道を繋げてしまった方が良いのだろうか?

 ……難しいところだな。工事となると毎日長時間、街の外にいることになる。でも汚物を捨てに行くだけならほんの少しの時間だけだ。周囲の安全を確認して、魔物がいないと分かってから捨てに行けばほとんど危険はない。

 やっぱり街の外の建設はもう少し後かな。騎士達が魔法陣魔法を問題なく扱えるようになり、魔物に対して負けないようになってからにしよう。

「主要な下水道をまず作ってもらったら、簡易のもので良いので下水道の始点に汚物を捨てる場所を、そして終点に排泄物集積場を作りませんか? 下水道が完成したら取り壊すものなので、数年持てば良い程度の質で」
「それはありだね。せっかく作ったものを使わずに置いておくだけなんて勿体ないし」
「そうだな……私も良い提案だと思う」
 
 二人ともが賛同してくれたことで、下水道工事の予定がどんどん決まっていく。主要な下水道を作り、始点と終点に捨てる場所と集積場、さらにその後は各家に繋がる細い下水道、街の外に繋がる下水道、そして下水処理施設を建設するところまで大まかに予定を組み終わった。

「今の段階ではこの程度で良いと思います。これで工房に話を持っていってみますね」
「ありがとう。よろしくね」
「頼んだぞ」

 そうして下水道に関する事業も本格的に動き出し、話し合いは終わった。
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