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第二章 王都改革編
68、石鹸の作り方
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次の日の朝。いつも通り執務室に向かうと、ちょうど冒険者から石鹸作りに使う素材が届いたところだった。昨日採取してきて、今日の朝早くに持ってきてくれたみたいだ。
「フィリップ、これで間違いないか?」
ファビアン様に木箱を示されたので覗き込むと、頼んだ素材が全て揃っている。
「はい。とても質が良いものを揃えてくれたみたいです」
「そうか。では冒険者への報酬を少し上乗せしておこう」
「よろしくお願いします。これらの素材は定期的に手に入れられるでしょうか?」
石鹸の素材は街のすぐ近く、冒険者が危険を冒さず採取に行ける場所で手に入れられることは確認してある。しかしどれだけの量が採取できるかは未知数だ。
「冒険者の話ではフィリップの予想通り、シールの実が他のものより心許ないらしい」
「やはりそうなのですね……ではシールの実を基準に、石鹸を作製してもらうことにしましょう。それから石鹸工房の畑で栽培することも考えたいです。シールの木は三年ほどで実をつけ始めますし、世話もそこまで必要ないので管理に苦労することはないと思います」
石鹸作りに必要なのはシールという木に生る実から取れる油、それからルコという木の幹や枝を細く割いて大量の水で数時間煮込んでできるルコ水、そしてオレンという木の葉っぱ、この三つだ。
「分かった。では栽培も考えて、冒険者に苗を採取できないか頼んでみよう」
「よろしくお願いします」
ファビアン様とそこまで話を終えたところで、執務室にマティアスとシリルが入ってきた。
「ファビアン様、フィリップ、おはようございます」
「皆様おはようございます」
「二人ともおはよう」
「あっ、もう素材来たんだ」
マティアスが木箱を覗き込んで、オレンの葉を一つ手に取った。そして裏表と確認してまた箱の中に戻す。
「凄く質が良いね」
「そうなんだ。王家で雇ってる冒険者は優秀だよね」
「会議室は押さえてあるけど、早速石鹸作りを始める?」
マティアスのその問いかけに俺とファビアン様が同時に頷き、シリルが「皆様に合わせます」と発言したので、俺達は木箱を抱えて四人で会議室に移動した。
会議室に入ってまずしたことは、木製のテーブルや椅子を全て端に寄せたことだ。そしてがらんとした部屋の中央に、石造りの低い台と木製の小さな椅子を設置する。これは俺個人の持ち物で、空間石の中から取り出した。
「なんでこんなもの持ってるの?」
「色々に便利かと思って、前に作ってもらったやつを収納してたんだ」
石造りのテーブルは、そこに直に魔法陣を描いて火を発現させ、調理台にすることができるので凄く便利なのだ。前世で重宝したからフィリップとしても手に入れておきたかった。
「マティアス、鍋とナイフ、木ベラと調理板は準備してくれた?」
「もちろん。ここにあるよ」
マティアスが部屋の隅に積まれていた荷物を指差したので、俺はそこに向かった。すると要望通りに大きな鍋が二つと人数分のナイフ、そして木べらが二本に調理板が一つ置かれていた。
俺はまず木製の大きな調理板を持ち上げて、端に寄せたテーブルの上に置く。
「ここがオレンの葉を細かく刻む場所ね」
「ではナイフを一本とオレンの葉を置いておきますね」
「ありがとう」
シリルが準備の続きを引き受けてくれたので、俺はまた荷物置き場に戻って今度は鍋を一つ手にした。
「マティアスも一つ運んでくれる? ファビアン様はナイフを三本持ってきてもらえますか」
「もちろん」
「分かった」
とりあえず鍋は床に置いてもらい、ナイフは三つある小さな椅子の横にそれぞれ並べた。そして最後に木ベラを取りに行って、素材が入った木箱も部屋の真ん中に移動させた。これで準備完了だ。
「もう一度手順を説明するけど、まずは一つの鍋に半分くらい水を入れて、沸騰させながら細かく割いたルコの木を入れていくんだ。ルコの木は水が見えなくなるほど大量に、そして入れ終わったら木ベラで押し付けるように混ぜながら、最低でも一時間は煮込み続ける。煮込み終わったらルコの木を取り出して、残った液をルコ水って言うよ。これが石鹸作りに必要なものなんだ」
前世ではルコ水じゃなくて他の作り方もたくさんあったけど、それはこの国では難易度が高いもので選べない。ただルコ水を使って作る石鹸は見た目が微妙というだけで、洗浄効果はかなり高いから問題ないと思う。見た目が泥水みたいな色だから……前世では人気がなかったというだけだ。
「そしてルコ水を作ってる間に、もう一つの鍋にシールの実から油を取っていく。シールの実は外側の分厚い皮にナイフで切れ込みを入れて剥くと、内皮に包まれた大量の油が出てくるんだ。この内皮を破けば油は簡単に取れるよ。注意点としては、外皮を剥くときに内皮を傷つけないようにすることかな。油が溢れたら勿体ないから」
シールの実から採れるシール油は簡単に手に入れられるけど、料理には一切使われていない。その理由はその香りにある。シールの油はとにかく……花の良い香りを凝縮して凝縮しまくった匂いがするのだ。
こうして聞くだけだと良い香りじゃないかと思うかもしれないけど、あそこまでキツいと逆に臭く感じてしまう。だから料理に使ったら最後、どんな食材もその香りになってしまうので使われていない。
しかしそんな香りもルコ水と混ぜ合わせることで、何故か軽くなる。ちょうど微かに花の香りが漂ってくるかな、程度になるのだ。だからシールの油は石鹸の素材に最適で、前世でも幅広く使われていた。
「シールの油は鍋の半分より少し少ない程度まで溜まったら、火にかけてサラサラになるまで熱し続けるんだ。そして木ベラで混ぜて抵抗がないほどにまで粘り気がなくなったら、そこにルコ水を入れる。ルコ水は鍋の半分に作った分を全部入れてね。そしてその二つを一緒に熱しながら十分ほど混ぜ合わせて、最後に刻んだオレンの葉を好みで入れたら完成。後は容器に流し込んで、冷やして固まれば石鹸の出来上がりだよ」
俺はそうして説明をしつつ、空間石から石鹸を作る型となる木製の容器を取り出した。
「一応これが石鹸の型となる容器なんだけど、別にこの形にこだわりはないから、実際に工房では変えても良いと思う。これは俺が木工工房に頼んだやつだから」
製氷器を頼んでいる工房が王宮に来たときに、思い出して頼んでおいたのだ。ただの四角い箱に見えるかもしれないけど、容器の底が裏側から押すと上に押し出されるという優れものだ。これで石鹸を型から取り出すのが容易になると思う。
「こんな形にしたんだ」
「うん。これが一番シンプルで良いかなと思って」
おしゃれな形や手に持ちやすい形など、そんなものを追求している余裕はないのでただの長方形だ。でもなんだかんだ、これが一番使い心地が良かったりするんだよね。
「確かにそうだね。……ねぇフィリップ、この容器にどうやって鍋で作った液体を入れるの?」
マティアスが会議室を見回してそう口にしたところで、俺は一つの器具を準備し忘れていたことに気づいた。
「一つ忘れてた。レードルがあると便利なんだ」
「それって……スープをよそう時のやつだよね?」
「そう。あれの注ぎ口があるタイプが一番なんだけど、厨房で借りられるかな? 俺ちょっと行ってくるね」
自分のミスだから自分でと思って会議室を出ようとしたら、部屋の扉に手をかけたところでシリルに止められた。
「フィリップ様は石鹸作りにいなくてはならないので、私が借りてきますよ」
そしてそう言ってにこやかな笑みを浮かべてくれる。
「良いの?」
「はい。先に作業を始めていてください」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
確かに石鹸作りの詳細を知っているのは俺なので、効率を考えたらシリルに頼んだ方が良いと思い、ここは素直にお願いすることにした。
そしてシリルの好意を無駄にしないためにも、早速作業を開始する。
「フィリップ、これで間違いないか?」
ファビアン様に木箱を示されたので覗き込むと、頼んだ素材が全て揃っている。
「はい。とても質が良いものを揃えてくれたみたいです」
「そうか。では冒険者への報酬を少し上乗せしておこう」
「よろしくお願いします。これらの素材は定期的に手に入れられるでしょうか?」
石鹸の素材は街のすぐ近く、冒険者が危険を冒さず採取に行ける場所で手に入れられることは確認してある。しかしどれだけの量が採取できるかは未知数だ。
「冒険者の話ではフィリップの予想通り、シールの実が他のものより心許ないらしい」
「やはりそうなのですね……ではシールの実を基準に、石鹸を作製してもらうことにしましょう。それから石鹸工房の畑で栽培することも考えたいです。シールの木は三年ほどで実をつけ始めますし、世話もそこまで必要ないので管理に苦労することはないと思います」
石鹸作りに必要なのはシールという木に生る実から取れる油、それからルコという木の幹や枝を細く割いて大量の水で数時間煮込んでできるルコ水、そしてオレンという木の葉っぱ、この三つだ。
「分かった。では栽培も考えて、冒険者に苗を採取できないか頼んでみよう」
「よろしくお願いします」
ファビアン様とそこまで話を終えたところで、執務室にマティアスとシリルが入ってきた。
「ファビアン様、フィリップ、おはようございます」
「皆様おはようございます」
「二人ともおはよう」
「あっ、もう素材来たんだ」
マティアスが木箱を覗き込んで、オレンの葉を一つ手に取った。そして裏表と確認してまた箱の中に戻す。
「凄く質が良いね」
「そうなんだ。王家で雇ってる冒険者は優秀だよね」
「会議室は押さえてあるけど、早速石鹸作りを始める?」
マティアスのその問いかけに俺とファビアン様が同時に頷き、シリルが「皆様に合わせます」と発言したので、俺達は木箱を抱えて四人で会議室に移動した。
会議室に入ってまずしたことは、木製のテーブルや椅子を全て端に寄せたことだ。そしてがらんとした部屋の中央に、石造りの低い台と木製の小さな椅子を設置する。これは俺個人の持ち物で、空間石の中から取り出した。
「なんでこんなもの持ってるの?」
「色々に便利かと思って、前に作ってもらったやつを収納してたんだ」
石造りのテーブルは、そこに直に魔法陣を描いて火を発現させ、調理台にすることができるので凄く便利なのだ。前世で重宝したからフィリップとしても手に入れておきたかった。
「マティアス、鍋とナイフ、木ベラと調理板は準備してくれた?」
「もちろん。ここにあるよ」
マティアスが部屋の隅に積まれていた荷物を指差したので、俺はそこに向かった。すると要望通りに大きな鍋が二つと人数分のナイフ、そして木べらが二本に調理板が一つ置かれていた。
俺はまず木製の大きな調理板を持ち上げて、端に寄せたテーブルの上に置く。
「ここがオレンの葉を細かく刻む場所ね」
「ではナイフを一本とオレンの葉を置いておきますね」
「ありがとう」
シリルが準備の続きを引き受けてくれたので、俺はまた荷物置き場に戻って今度は鍋を一つ手にした。
「マティアスも一つ運んでくれる? ファビアン様はナイフを三本持ってきてもらえますか」
「もちろん」
「分かった」
とりあえず鍋は床に置いてもらい、ナイフは三つある小さな椅子の横にそれぞれ並べた。そして最後に木ベラを取りに行って、素材が入った木箱も部屋の真ん中に移動させた。これで準備完了だ。
「もう一度手順を説明するけど、まずは一つの鍋に半分くらい水を入れて、沸騰させながら細かく割いたルコの木を入れていくんだ。ルコの木は水が見えなくなるほど大量に、そして入れ終わったら木ベラで押し付けるように混ぜながら、最低でも一時間は煮込み続ける。煮込み終わったらルコの木を取り出して、残った液をルコ水って言うよ。これが石鹸作りに必要なものなんだ」
前世ではルコ水じゃなくて他の作り方もたくさんあったけど、それはこの国では難易度が高いもので選べない。ただルコ水を使って作る石鹸は見た目が微妙というだけで、洗浄効果はかなり高いから問題ないと思う。見た目が泥水みたいな色だから……前世では人気がなかったというだけだ。
「そしてルコ水を作ってる間に、もう一つの鍋にシールの実から油を取っていく。シールの実は外側の分厚い皮にナイフで切れ込みを入れて剥くと、内皮に包まれた大量の油が出てくるんだ。この内皮を破けば油は簡単に取れるよ。注意点としては、外皮を剥くときに内皮を傷つけないようにすることかな。油が溢れたら勿体ないから」
シールの実から採れるシール油は簡単に手に入れられるけど、料理には一切使われていない。その理由はその香りにある。シールの油はとにかく……花の良い香りを凝縮して凝縮しまくった匂いがするのだ。
こうして聞くだけだと良い香りじゃないかと思うかもしれないけど、あそこまでキツいと逆に臭く感じてしまう。だから料理に使ったら最後、どんな食材もその香りになってしまうので使われていない。
しかしそんな香りもルコ水と混ぜ合わせることで、何故か軽くなる。ちょうど微かに花の香りが漂ってくるかな、程度になるのだ。だからシールの油は石鹸の素材に最適で、前世でも幅広く使われていた。
「シールの油は鍋の半分より少し少ない程度まで溜まったら、火にかけてサラサラになるまで熱し続けるんだ。そして木ベラで混ぜて抵抗がないほどにまで粘り気がなくなったら、そこにルコ水を入れる。ルコ水は鍋の半分に作った分を全部入れてね。そしてその二つを一緒に熱しながら十分ほど混ぜ合わせて、最後に刻んだオレンの葉を好みで入れたら完成。後は容器に流し込んで、冷やして固まれば石鹸の出来上がりだよ」
俺はそうして説明をしつつ、空間石から石鹸を作る型となる木製の容器を取り出した。
「一応これが石鹸の型となる容器なんだけど、別にこの形にこだわりはないから、実際に工房では変えても良いと思う。これは俺が木工工房に頼んだやつだから」
製氷器を頼んでいる工房が王宮に来たときに、思い出して頼んでおいたのだ。ただの四角い箱に見えるかもしれないけど、容器の底が裏側から押すと上に押し出されるという優れものだ。これで石鹸を型から取り出すのが容易になると思う。
「こんな形にしたんだ」
「うん。これが一番シンプルで良いかなと思って」
おしゃれな形や手に持ちやすい形など、そんなものを追求している余裕はないのでただの長方形だ。でもなんだかんだ、これが一番使い心地が良かったりするんだよね。
「確かにそうだね。……ねぇフィリップ、この容器にどうやって鍋で作った液体を入れるの?」
マティアスが会議室を見回してそう口にしたところで、俺は一つの器具を準備し忘れていたことに気づいた。
「一つ忘れてた。レードルがあると便利なんだ」
「それって……スープをよそう時のやつだよね?」
「そう。あれの注ぎ口があるタイプが一番なんだけど、厨房で借りられるかな? 俺ちょっと行ってくるね」
自分のミスだから自分でと思って会議室を出ようとしたら、部屋の扉に手をかけたところでシリルに止められた。
「フィリップ様は石鹸作りにいなくてはならないので、私が借りてきますよ」
そしてそう言ってにこやかな笑みを浮かべてくれる。
「良いの?」
「はい。先に作業を始めていてください」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
確かに石鹸作りの詳細を知っているのは俺なので、効率を考えたらシリルに頼んだ方が良いと思い、ここは素直にお願いすることにした。
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