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第二章 王都改革編
67、弟妹との時間
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製氷器のお披露目をした次の日。俺達はどれだけの注文が入ったのか、昨日の予約表を確認していた。
「凄い数ですね……」
「昨日集まっていた家は、ほとんど全員が予約したのではないですか?」
「ああ、いくつか当主と夫人が来ておらず子息子女だけが顔を出していた家のみ、独断では予約できないと辞退したと聞いている。それ以外の家は全てが予約をしたようだ」
お披露目は成功どころじゃない、これ以上ない結果だ。これならすぐにでも資金が集まって、石鹸工房を設置できるだろう。
「工房のことについても早急に進めないとですね」
「ああ、実は石鹸作りに必要な材料を冒険者に頼んでいて、明日届く予定なのだ。まずは王宮で一度作ってみるべきかと思ってな」
確かにまだこの国で作ってみたことはないし、試してからじゃないと工房のことを進められないか。
「だからフィリップ、明日の製氷器作製は休みとして、こちらに参加してくれないか?」
「もちろんです」
「フィリップ、石鹸作りって室内でやるの? 外の方が良い?」
「直射日光が当たってるとやりにくいから、室内の方が良いと思う」
「分かった。じゃあ会議室を一つ押さえておくね」
「ありがとう。よろしくね」
そうして俺達は明日の予定を決めて、いつも通りに仕事をこなした。
仕事が終わって屋敷に戻り、エントランスから中に入ると、遠くからマルガレーテとローベルトの楽しそうな声が聞こえてくる。
「二人は何をしてるのかな?」
「方向的には……厨房でしょうか」
俺の疑問にニルスが答えてくれて、フレディも交えて三人で視線を合わせてから、示し合わせたように厨房に進行方向を変更した。この二人は俺のやりたいことを言わずとも分かってくれるから嬉しい。
厨房に近づくと二人の声がはっきりと聞こえてきて、クロードが二人を落ち着かせようとしているのが分かる。
「二人ともどうしたの?」
ニルスが開けてくれたドアから中に顔を出してそう声をかけると、二人がこちらを振り返りパァッと顔を明るくした。二人とも本当に可愛いなぁ。
「あにうえ! ぼくがこおり作ったの!」
「私も作りました!」
二人が俺の下に駆けてきて手を引っ張ったので、そのまま逆らわずに厨房の奥へと向かうと、そこには製氷器があった。母上は真っ先に購入してたけど、それが届いたのか。
「製氷器が届いたんだね」
「うん! あにうえが作ったんだよね?」
ローベルトが尊敬の眼差しで俺のことを見上げてくる。本当に真っ直ぐで良い子に育ってるよ……このまま元気に成長して欲しいな。
「そうだよ」
「あにうえすごい!」
「さすがお兄様です!」
「ふふっ、ありがとう。二人でも氷が作れた?」
俺のその問いかけに、二人は大きく頷いてそれぞれが作った氷を見せてくれた。当たり前にどっちも同じ形で、今まで俺が何度も見てきた製氷器で作った氷だけど、二人が一生懸命に紹介してくれるのが可愛くて、いつも見てる氷よりも愛着が湧いてくる。
「良かったね。じゃあこの氷を食材のところに持って行ってあげようか」
本当はこれから夜で寒くなるから氷はいらないと思うけど、さすがに使い道がないとは言えなかった。今は夜が寒くなるとは言っても比較的暖かい季節だし、氷があれば少しは食材の保存に役立つだろう。
「うん、もっていってあげふ!」
ローベルトは元気に手を挙げながらそう宣言したけど、最後の最後で噛んじゃったみたいだ。少しだけ恥ずかしそうに手で口を抑えている。
俺はそんなローベルトが可愛くて可愛くて、思わず膝立ちになってぎゅっと抱きしめた。
「噛んじゃった? ローベルトは可愛いなぁ」
「うん、ちょっと舌いたい……」
「お兄様、ローベルトばかりずるいです!」
「ごめんごめん、マルガレーテもおいで」
手を広げて少し拗ねた様子のマルガレーテを呼ぶと、マルガレーテは一気に満面の笑みを浮かべて俺のところに飛び込んできた。
二人がこうして俺に甘えてくれるのも小さな頃だけなのだろうから、堪能しておかないと。
それからしばらく三人で戯れて、従者とメイドに木の板に乗せた氷を持ってもらい、クロードの先導で食料保存庫に向かった。
「クロード、製氷器はこれからどんなふうに使うの?」
「基本的には食料保存庫で使わせていただく予定です。気温が上がり始める頃、日が昇る時間帯に毎日氷を作って食料保存庫を冷やし始めます。そして定期的に氷を入れ替えて、氷が溶けた水は畑に使用します」
「それぼくがやる! ぼくが作るよ!」
クロードの説明を聞いていたローベルトが、元気いっぱいに毎朝の氷作りに立候補した。しかしクロードは優しく首を横に振る。
「ローベルト様、ありがとうございます。しかしローベルト様は成長のために睡眠をとられることも大切です。早朝の氷は私達にお任せください」
「……ぼくは、いらない?」
クロードのその言葉に、ローベルトが瞳を潤ませて少しだけ俯いた。するとクロードは体をかがめてローベルトに視線を合わせる。
「いえ、ローベルト様には、昼間に追加で作る時の氷をお任せしても良いでしょうか?」
「ほんとう!?」
「はい。お手伝いいただけると助かります」
ローベルトはクロードのその言葉に、さっきまでの落ち込んでいた表情を一変させて、満面の笑みを浮かべた。
クロードって子供の扱い分かってるな……ローベルトが笑顔に戻ってくれて良かった。
「ローベルト、大切な仕事だよ。ちゃんとできる?」
「うん! ぼくがんばる!」
「そっか。じゃあよろしくね」
やる気満々のローベルトを皆で微笑ましい気持ちで見つめて、温かい気持ちになりながら食料庫へと向かった。
食料庫に入ると既に氷で冷やされていたようで、中はひんやりと涼しくなっていた。
「もう冷やしてたんだ」
「はい。製氷器が昼過ぎに届きましたので、どれほど冷えるのか試してみようかと思いまして……かなり良い室温になっていますね」
「この中にあったものって全部そのままなの?」
「いえ、常温保存で良いものや湿度に弱いものは、別に常温での保存室を作りそこへ置いてあります」
確かに何でもかんでも冷蔵すれば良いってものではないか。どうしても氷で冷やすと湿度が高くなるし。
「きゃっ!」
「マルガレーテ、どうしたの!?」
マルガレーテの叫び声が聞こえてそちらを振り返ると、氷の溶けた水が溜まった桶の前で、濡れた手を振っているマルガレーテがいた。
「お兄様……冷たくておどろいてしまって」
「そっか、怪我をしたんじゃなくて良かった」
ニルスが差し出してくれた布を受け取り、マルガレーテの手を拭いてあげる。
「ありがとうございます」
お礼を言いながらにっこりと笑ったマルガレーテが天使だ……本当に俺の弟妹は二人とも可愛すぎる。
それからはクロードと食料保存以外の氷の使い道、例えば氷を直接飲み物に入れて冷やすなど、そんなことを話しながら二人と戯れて、癒しの時間を過ごした。
二人と触れ合うだけで仕事の疲れは全て吹き飛ぶ。本当にこの二人は俺の原動力だ。マルガレーテとローベルトの将来のためにも、この国を良くしないとだな。
「凄い数ですね……」
「昨日集まっていた家は、ほとんど全員が予約したのではないですか?」
「ああ、いくつか当主と夫人が来ておらず子息子女だけが顔を出していた家のみ、独断では予約できないと辞退したと聞いている。それ以外の家は全てが予約をしたようだ」
お披露目は成功どころじゃない、これ以上ない結果だ。これならすぐにでも資金が集まって、石鹸工房を設置できるだろう。
「工房のことについても早急に進めないとですね」
「ああ、実は石鹸作りに必要な材料を冒険者に頼んでいて、明日届く予定なのだ。まずは王宮で一度作ってみるべきかと思ってな」
確かにまだこの国で作ってみたことはないし、試してからじゃないと工房のことを進められないか。
「だからフィリップ、明日の製氷器作製は休みとして、こちらに参加してくれないか?」
「もちろんです」
「フィリップ、石鹸作りって室内でやるの? 外の方が良い?」
「直射日光が当たってるとやりにくいから、室内の方が良いと思う」
「分かった。じゃあ会議室を一つ押さえておくね」
「ありがとう。よろしくね」
そうして俺達は明日の予定を決めて、いつも通りに仕事をこなした。
仕事が終わって屋敷に戻り、エントランスから中に入ると、遠くからマルガレーテとローベルトの楽しそうな声が聞こえてくる。
「二人は何をしてるのかな?」
「方向的には……厨房でしょうか」
俺の疑問にニルスが答えてくれて、フレディも交えて三人で視線を合わせてから、示し合わせたように厨房に進行方向を変更した。この二人は俺のやりたいことを言わずとも分かってくれるから嬉しい。
厨房に近づくと二人の声がはっきりと聞こえてきて、クロードが二人を落ち着かせようとしているのが分かる。
「二人ともどうしたの?」
ニルスが開けてくれたドアから中に顔を出してそう声をかけると、二人がこちらを振り返りパァッと顔を明るくした。二人とも本当に可愛いなぁ。
「あにうえ! ぼくがこおり作ったの!」
「私も作りました!」
二人が俺の下に駆けてきて手を引っ張ったので、そのまま逆らわずに厨房の奥へと向かうと、そこには製氷器があった。母上は真っ先に購入してたけど、それが届いたのか。
「製氷器が届いたんだね」
「うん! あにうえが作ったんだよね?」
ローベルトが尊敬の眼差しで俺のことを見上げてくる。本当に真っ直ぐで良い子に育ってるよ……このまま元気に成長して欲しいな。
「そうだよ」
「あにうえすごい!」
「さすがお兄様です!」
「ふふっ、ありがとう。二人でも氷が作れた?」
俺のその問いかけに、二人は大きく頷いてそれぞれが作った氷を見せてくれた。当たり前にどっちも同じ形で、今まで俺が何度も見てきた製氷器で作った氷だけど、二人が一生懸命に紹介してくれるのが可愛くて、いつも見てる氷よりも愛着が湧いてくる。
「良かったね。じゃあこの氷を食材のところに持って行ってあげようか」
本当はこれから夜で寒くなるから氷はいらないと思うけど、さすがに使い道がないとは言えなかった。今は夜が寒くなるとは言っても比較的暖かい季節だし、氷があれば少しは食材の保存に役立つだろう。
「うん、もっていってあげふ!」
ローベルトは元気に手を挙げながらそう宣言したけど、最後の最後で噛んじゃったみたいだ。少しだけ恥ずかしそうに手で口を抑えている。
俺はそんなローベルトが可愛くて可愛くて、思わず膝立ちになってぎゅっと抱きしめた。
「噛んじゃった? ローベルトは可愛いなぁ」
「うん、ちょっと舌いたい……」
「お兄様、ローベルトばかりずるいです!」
「ごめんごめん、マルガレーテもおいで」
手を広げて少し拗ねた様子のマルガレーテを呼ぶと、マルガレーテは一気に満面の笑みを浮かべて俺のところに飛び込んできた。
二人がこうして俺に甘えてくれるのも小さな頃だけなのだろうから、堪能しておかないと。
それからしばらく三人で戯れて、従者とメイドに木の板に乗せた氷を持ってもらい、クロードの先導で食料保存庫に向かった。
「クロード、製氷器はこれからどんなふうに使うの?」
「基本的には食料保存庫で使わせていただく予定です。気温が上がり始める頃、日が昇る時間帯に毎日氷を作って食料保存庫を冷やし始めます。そして定期的に氷を入れ替えて、氷が溶けた水は畑に使用します」
「それぼくがやる! ぼくが作るよ!」
クロードの説明を聞いていたローベルトが、元気いっぱいに毎朝の氷作りに立候補した。しかしクロードは優しく首を横に振る。
「ローベルト様、ありがとうございます。しかしローベルト様は成長のために睡眠をとられることも大切です。早朝の氷は私達にお任せください」
「……ぼくは、いらない?」
クロードのその言葉に、ローベルトが瞳を潤ませて少しだけ俯いた。するとクロードは体をかがめてローベルトに視線を合わせる。
「いえ、ローベルト様には、昼間に追加で作る時の氷をお任せしても良いでしょうか?」
「ほんとう!?」
「はい。お手伝いいただけると助かります」
ローベルトはクロードのその言葉に、さっきまでの落ち込んでいた表情を一変させて、満面の笑みを浮かべた。
クロードって子供の扱い分かってるな……ローベルトが笑顔に戻ってくれて良かった。
「ローベルト、大切な仕事だよ。ちゃんとできる?」
「うん! ぼくがんばる!」
「そっか。じゃあよろしくね」
やる気満々のローベルトを皆で微笑ましい気持ちで見つめて、温かい気持ちになりながら食料庫へと向かった。
食料庫に入ると既に氷で冷やされていたようで、中はひんやりと涼しくなっていた。
「もう冷やしてたんだ」
「はい。製氷器が昼過ぎに届きましたので、どれほど冷えるのか試してみようかと思いまして……かなり良い室温になっていますね」
「この中にあったものって全部そのままなの?」
「いえ、常温保存で良いものや湿度に弱いものは、別に常温での保存室を作りそこへ置いてあります」
確かに何でもかんでも冷蔵すれば良いってものではないか。どうしても氷で冷やすと湿度が高くなるし。
「きゃっ!」
「マルガレーテ、どうしたの!?」
マルガレーテの叫び声が聞こえてそちらを振り返ると、氷の溶けた水が溜まった桶の前で、濡れた手を振っているマルガレーテがいた。
「お兄様……冷たくておどろいてしまって」
「そっか、怪我をしたんじゃなくて良かった」
ニルスが差し出してくれた布を受け取り、マルガレーテの手を拭いてあげる。
「ありがとうございます」
お礼を言いながらにっこりと笑ったマルガレーテが天使だ……本当に俺の弟妹は二人とも可愛すぎる。
それからはクロードと食料保存以外の氷の使い道、例えば氷を直接飲み物に入れて冷やすなど、そんなことを話しながら二人と戯れて、癒しの時間を過ごした。
二人と触れ合うだけで仕事の疲れは全て吹き飛ぶ。本当にこの二人は俺の原動力だ。マルガレーテとローベルトの将来のためにも、この国を良くしないとだな。
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