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第二章 王都改革編

65、製氷器販売

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 三人で壇上に登ると、皆の視線は俺達というよりも、その後ろで製氷器を運んでくれている従者達に向いた。製氷器がどんなものなのか気になるのだろう。

「皆の者、待たせたな。これより王家の魔道具工房から売りに出す予定の、製氷器について説明をしたいと思う」

 ファビアン様が口を開くと、やっと視線は俺達の方に向く。やっぱり王太子殿下の影響力は強い。

「説明はこちらにいるフィリップが行う。フィリップは宰相補佐だが魔道具師でもあるので、様々な疑問にも答えてくれるだろう。ではフィリップ、よろしく頼むぞ」
「かしこまりました」

 俺はついさっきまでこの場所で授業をしていたので緊張することもなく、一歩前に出て集まっている皆を見回した。

「また私の顔で変わり映えしないと思われるかもしれませんが、もう少しお付き合いいただければと思います。よろしくお願いいたします」

 そんな冗談を口にできるほどには落ち着いている。やっぱり人前で話すのって慣れが大切だ。

「皆さんも気になっていると思うのですが、こちらが製氷器です。引き出しのタイプになっています。マティアス、ちょっと手伝ってくれる?」
「もちろん」

 大人が一人で使えるほどの大きさにしてあるので、俺達は二人がかりでないと扱うのが大変なのだ。

「子供は二人でならば安全に扱えます。大人は女性でも一人で問題なくお使いいただけると思います。また後ほど何名かに試していただきますので、その時に確認してください」

 そんな説明をしつつ、まだ軽い引き出しの中身を皆に見せる。

「中が見えるでしょうか? 今はまだ何も入っていません。しかしこの箱の上部にある魔法陣に魔力を注ぐと、この引き出しの中に大きな氷が作り出されます。ではやってみますね」

 引き出しを元に戻してマティアスに魔力を注いでもらうと……魔法陣が一瞬だけ光を放ち、ゴトッと箱の中から音がした。

「音が聞こえたでしょうか? 氷ができたみたいです」

 氷が入って重い引き出しはさすがに俺とマティアスで持ち上げるのは難しいので、従者に助けてもらい引き出しを皆に見えるように持ち上げる。
 実際に使うときは引き出しを持ち上げる必要はないので、大人一人でも扱えるので問題はない。

「おおっ、本当に一瞬で氷ができているぞ」
「しかも魔力を注いだのはフィリップ様ではなくマティアス様だ。マティアス様も魔法陣魔法が使えるのだろうか」

 その疑問の声が聞こえたのか、マティアスが苦笑しつつ口を開く。

「僕は魔法陣魔法をまだ使えません。練習はしているのですが、いまだに一度も発動に成功していないのです。しかしそんな僕でも魔道具は簡単に使うことができます」

 この事実は平民の間では周知の事実だけど、貴族は自分で給水器に魔力を込める必要もないので、知らない人がいるみたいだ。一部の人達が驚きの表情を浮かべている。

「製氷器は魔道具の中では必要な魔力が多い方ですが、それでもこの街で発動できない人は数えられる程度だと思います。そうですね……親指の先ほどの魔力量があれば、誰でも問題なく発動できるかと」

 マティアスの言葉を少し補足して、製氷器の性能を説明する。ほとんどの人は興味を持ってくれているみたいだ。

「製氷器があれば傷みやすい野菜や肉などが、今までよりも長く保存できるようになります。屋敷に一つあればとても役に立つと思いますので、是非お買い求めください。では、ここからは質問に答えていきます。質問がある方はいらっしゃいますか?」

 俺のその問いかけに、前の方にいた壮年の男性が口を開いた。確かこの人は……侯爵家の現当主、だと思う。
 貴族の中には顔と名前が一致してない人も多いのだ。これからは貴族の家名と当主、嫡男ぐらいまでは名前を覚えるべきだよね。面倒くさいなと思って後回しにしてたけど、これからは少しずつやっていこう。

 でもこの世界は絵師がほとんどいないから、何度も会ってない人だと顔が分からなくても失礼に当たらないというのは、凄くありがたい。

「一つ疑問なのですが、先ほど教えてもらった魔法陣魔法を使えるようになれば、自分で氷が作れるようになるのでしょうか? もしそうならば魔道具は必要ないのではないかと思うのですが……」

 確かにそれは当然の疑問か……、でも魔道具の利点はたくさんある。

「まず初めに、魔法陣魔法を使えるようになるにはかなりの努力が必要です。その上で才能がある人のみ扱えるようになるので、学べば全員ができるようになるわけではありません。さらに氷を作り出すには魔法陣が複雑で魔力が多く必要なため、魔力量の関係で作り出せない人も多いです。……先ほどは説明しなかったかもしれませんが、魔法陣魔法で何かの現象を起こす時には、魔法陣を描く魔力と発動させる魔力が必要です。しかし魔道具の時は発動させる魔力のみで良いので、魔力の節約になります」

 ここまでの話を聞いた時点で、さっきまで迷っていた人達も購入に傾いたのが分かる。前世であれだけ魔道具が発展したのは、それだけの利点があるからなのだ。

「また皆様は魔力が多く自分で氷を作り出すことができるかもしれませんが、使用人の中でできる人は少ないでしょう。いない可能性も高いです。したがってご自分で毎日氷を作り出すという仕事を避けたい場合は、魔道具の購入をお勧めします。また皆様は魔物から民を守ることも仕事の一つです。そのために魔力を温存しておくことも大切だと思います」

 魔道具の一番の利点、それは誰にでも発動可能という点だ。魔法陣魔法を学ばなくても、魔法陣魔法を使うだけの魔力がなくても、最低限の魔力さえあれば誰でも簡単に発動ができる。これは本当に凄いことなのだ。

「確かにそう聞くと……魔道具の方が遥かに利点が多いですね」

 質問をしてくれた男性はそう呟くと、難しい顔で考え込んでしまった。そこで俺は全体を見回してまた質問を募る。すると次に口を開いたのは、前の方にいる綺麗な女性だ。

「製氷器に対する質問とは違いますが、魔法陣魔法はどの程度の割合で使いこなせるようになるのでしょう?」
「そうですね……私が得た知識では、発動できる人は国民の一割ほどです。魔力量が足りずに発動できない人が八割ほど、それから残り二割のうち半分近くは才能がなく、途中で挫折するそうです」
「では今ここに集まっている方々のうち、半数は使いこなせないということですの?」
「はい。さらに一割の発動できる人達の中でも、難しい魔法陣はできないという方もいらっしゃいます。なのでどんな魔法陣も描けるという方は……もう少し少なくなるかと」

 魔法陣魔法はかなり難易度が高い技術なのだ。だからこそ魔道具というものが開発されたのだし、それが広まった。

「分かりました。魔法陣魔法を自分で操ることは当てにせずに、魔道具を使った方が良いということね」
「その認識で良いと思います」

 それからさらに三人の質問に答えて、疑問点がなくなったところで、何人かの貴族達に実際に製氷器を使ってもらうことにした。
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