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第二章 王都改革編

59、これからの予定 前編

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 南区の改造計画が大成功に終わり孤児院の運営も軌道に乗ってから、既に一ヶ月が過ぎた。俺はこの一ヶ月間は少しだけ余裕ができたので、ほとんどの時間を神聖語と魔法陣魔法の知識をまとめることに費やした。
 そしてその甲斐あって、先程ついに全ての知識をまとめ終えることができたのだ!

「フィリップ、ついに終わったんだ」
「うん! 本当に大変だった……」
「かなり時間かかってたもんね。お疲れ様」
「ありがとう。でもマティアスもお疲れ。俺がまとめた知識を端から書き写してくれたでしょ?」

 この一ヶ月間は俺とマティアスが知識をまとめてその複製を作る仕事、そしてファビアン様が降雨器の扱いについてや給水器設置に伴うトラブルの対処、また南区で起こったさまざまな問題の対処と仕事を分担をしたのだ。

 シリルは俺の空き時間に神聖語を教えて、それ以外の時間は給水器と降雨器の作成と、空間石を作れるように練習をしてくれている。空間石はまだ一つも成功してないけれど、最近はかなり成功に近づいてるようなので、あと数週間で作れるようになると思う。

「あっ、ファビアン様が帰ってきた」
「本当だ。ファビアン様、お疲れ様です」

 ファビアン様は毎日どこかしらに出掛けて問題の対処をしているので、かなり疲れている様子だ。俺達とはまた違った疲れが溜まってそう。

「もしかして、終わったのか?」
「はい。ついさっき神聖語と魔法陣魔法についての知識をまとめ終えました」
「複製は後一枚です」
「そうか……やっと終わったか」

 ファビアン様は疲れた様子でそう呟くと、自分の席に座って背もたれに寄りかかった。

「これからは問題への対処も三人でできるな。やっと少し楽になる」
「知識をまとめる時間を作ってくださって、ありがとうございました。これからは別の仕事にも着手できます」
「この辺で一度、これから先のことを話し合っておきますか?」

 確かにしばらく必死に駆け抜けてきたから、ここらで立ち止まって全体を俯瞰した方が良いかもしれない。目の前のことに一生懸命になりすぎると視野が狭くなる。
 俺がそう考えて肯定の意を示すと、ファビアン様も頷いてくれた。そして皆で執務室の端にあるソファーに移動し、話し合い開始だ。

「まず今までやってきたことの成果をまとめるが、一つ目は街全体を清掃したことによって衛生環境を改善させたこと。そして二つ目は畑の数を増やして魔道具で水不足を解消し、街全体としての収穫量を増やしたこと。三つ目は給水器設置によって清潔な飲み水の確保をできるようにし、川に水を汲みに行くという危険な行為をする者を減らしたこと。四つ目はスラム街を解体したこと。そして最後五つ目は孤児院を作り、親を亡くした子供達が生きていける道を作り出したこと」

 ファビアン様が指折り数えながら、今まで実行してきた政策を口にした。もう働き始めてから数ヶ月、とにかくがむしゃらにやってきたけど、こうして実際に成果を確認すると達成感がある。

「たった数ヶ月でここまでの成果が出せたのは誇るべきだと思う。フィリップ、マティアス、ありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
「ファビアン様がいなければ、絶対にここまでの成果は出せませんでした」

 俺達はお互いに褒め合って感謝し合って、最終的には顔を見合わせて同じタイミングで吹き出した。

「誰が欠けてもダメだったということですね」
「そうだな。三人の成果だ」
「皆で自信にしましょう」

 誇張でもなんでもなく、この三人でなければここまでの速さで達成するのは無理だっただろう。ファビアン様とマティアスとは……、何というか気が合うのだ。お互いに尊重し合えるけど気を使う必要はない、そんな関係が仕事を進める上ではとても有利に働いた。

「しかしまだ終わりではありませんから、これからもよろしくお願いします」

 マティアス様のその言葉に俺とファビアン様が頷き、もう一度笑い合った。そして早速これから先の話しだ。

「私の意見としては、次に優先すべきなのは製氷器の普及ではないかと思うのだがどうだろう。これは各家庭にという話ではなく、まずは解体場や魔物素材を扱う商家が対象だ。あとはもちろん貴族家もだな」
「ということは、公共のものとして設置するのではなく、売りに出すということでしょうか?」

 マティアスのそんな質問に、ファビアン様はしっかりと頷いた。確かにいつまでも国民に無償で奉仕をしていたら、近いうちに国が回らなくなるだろう。

「そうだ。給水器は国民全員にすぐ必要なもので、それがなければ多くの者が命を落とす危険があったために無料で開放した。しかしこれからは、国としてもお金が循環するように仕向けていく必要があるだろう。フィリップ、そうだよな?」
「はい。仰る通りです」

 経済の話は知識としてまとめる時に一度話しただけなのに、あれだけで理解してくれてるのが凄い。やっぱりファビアン様って頭が良いな。

「この国の現状は貨幣制度が導入されてはいますが、それが上手く機能していません。もちろん貴族や商家、一部裕福な者達は当たり前のようにお金を使いますが、そうでない貧しい者達は物々交換をしていることも多いです。物々交換では経済的な発展はあまり望めませんので、まずはとにかく何事もお金でやり取りをする、ということを徹底させたいと思っています」

 マティアスも俺の話を聞いて頷きながらメモを取っているので、理解してくれてるみたいだ。この二人って本当に優秀だ。

「今のこの国はまずお金を稼げない、だからお金を使わないという悪循環ですので、まずはお金を稼げるようにするというのが最初にやるべきことです。そしてそのためには、市中にお金を流さないといけません。多分今の現状では裕福な者達がお金を独占していて、王家でも貨幣の製造量は少ないですよね?」
「そうだな……貨幣製造はかかる費用と人材の観点から、十年ほど前からかなり減らしているのだ。硬貨を鋳造できる者は、騎士達の剣や調理器具、建物に使う金具などの製造に回ってもらっている」

 お金を作ってる余裕すらないって……本当にこの国は何を聞いても滅亡寸前としか思えない現状だった。よくここまで持ち直したよ……まだ持ち直したと言えるほどではないかもしれないけど。

「その人達にまた貨幣製造に戻ってもらうことはできますか?」
「それはできるかもしれないが……そこまで製造量を増やすことはできない。そもそも金属が手に入らないのだ。鉱山は比較的近くにあるのだが、魔物の脅威があって殆ど採掘できていない」

 また魔物の影響か……やっぱり魔法陣魔法を使える人が増えてくれないと何もできないな。でも貨幣製造量は、できる限り早めに増やしたい。

「では少しずつでも良いので、無理のない範囲で貨幣製造量を増やしましょう。そしてまずは富裕層にお金を使ってもらうように仕向けて、そのお金を市中に循環させるような計画を考えたいです」

 ……こういう話になると、俺が経済の専門家じゃなくて本から得た知識しかないのが痛い。でもその代わりに魔法陣魔法に関する知識が潤沢で、この国のために役立ってるのだから文句を言うのは違うけど。全ての分野に精通してる人なんていないのだから。

 そもそも一度出来上がった社会が魔物の影響で滅亡寸前になった場合の復興方法なんて、どんな本にも載っていなかった。……大変だけど、いろんな知識を寄せ集めて自分で最適解を探すしかないってことだ。

「じゃあとりあえず鍛治師を何人か呼び戻して、今ある鉱石で貨幣を作ってもらうね」
「うん、よろしくね」
「それで……富裕層にお金を使わせて市中に循環とは、具体的にどのようにする?」

 ファビアン様のその疑問に、俺は頭をフル回転させて口を開いた。
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