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第二章 王都改革編

47、南区の改造

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 平民街は綺麗で住みやすい街になり、水は森に行かなくても安全に確保できるようになった。着実に俺達が頑張っている成果が反映されていて、最近は仕事が楽しくて仕方がない。もちろん大変なことは多いけど、目に見える成果が出て人から感謝されると、もっと頑張ろうと思える。

 俺がティータビア様から知識を得たということはかなり広まったけれど、感謝されることはあっても必要以上に敬われることはあまりない。今のそんな雰囲気も気持ちが良くて好きだ。教会関係者は例外だけどね……それは仕方がないと割り切っている。教会の中でも一部の人達だけだし。

 教会へは週に一度、短時間だけど訪れて祈りを捧げている。でも毎回案内してくれるのがウジェーヌ大司教様で、最近は行くのが少し憂鬱だ。ティナと話すこともできないし、大司教様はもうやめてと言いたくなるほど敬って持ち上げてくるし。たまに俺に対して祈ってることもあるんだよね……さすがに止めて欲しい。

「フィリップ、準備は良いか?」
「はい。いつでも行けます」

 今日はついに南区改造計画を実行する日なのだ。スラム街に住んでいた住民は、全員西区と東区にとりあえず引っ越ししてもらっている。
 これからはそのままそこに定住する人もいるし、また南区に戻る人もいる。というのも南区を全部畑にするのではなくて、一部の建物は残したり新しく建物を建てたりして、畑メインの住宅地にする予定なのだ。西区と東区から南区に毎日通うのも大変だし、近くに住んでいた方が色々と便利だろうから。

 それから南区にはいくつか孤児院も作る予定となっている。国営で身寄りのない子供が成人まで過ごすことができる場所だ。しかし国にも何十人もの子供達を国庫で育てる余裕はないので、孤児院専用の畑を作って子供達にも働いてもらい、その売上と作物でできる限り生活してもらう。どうしても足りない時だけ援助をする。
 それでも住む場所と仕事が与えられるだけで、助かる子供はたくさんいるだろう。

「瓦礫撤去に雇った冒険者と騎士達は既に現地にいるので、向かうのは私達だけだ。シリルは行くのか?」
「はい。私の魔法陣魔法を見たいということなので、今日だけは連れて行こうかと思っています」
「分かった。では行こう」

 俺達は王家の馬車に乗り込み、通い慣れた平民街に向かった。今日は貴族街から遠回りして行くのではなく、王宮から直に南区に繋がっている門を開けてもらう。
 今までは治安も悪かったことから完全に閉じられていたけれど、これからは各地区に繋がる門も有効活用していこうということになったのだ。

「この門が開くのは初めて見るな」
「せっかくあるのですから、有効活用しなければ経費が無駄です。これからは使っていきましょう」
「そうだな」

 南区と王宮を繋ぐ門を通ると、南区の中心にある一番の大通りに出た。この大通りなら馬車が通れるので、今日は馬車のまま来ている。

「人気がなくなりましたね……」
「隠れ住んでいる者などはいないのですか?」
「騎士達が全ての建物を確認したので大丈夫だ。さらにこれから建物を壊すと根気よく通達したからな、残っている酔狂な者はいないだろう」

 本当に誰もいないんだな……普通の街なら人がいなくなったことで寂れた雰囲気が出るのだろうけど、この街は人がいない方がどんよりと沈んだ空気が薄くなった気がする。
 道の端に座り込んでる痩せこけた人や、着る服もないような薄汚れた人がいないからかな。それだけで全然違う。

「早く取り壊したいですね」

 俺は思わずそう口にしていた。ここには負の感情がこびりついている気がして、早く生まれ変わらせてあげたいと思ったのだ。

「そうだな。よろしく頼む」
「もちろんです」

 それから馬車は進めるところまで進み、道幅が狭くなったところで馬車を降りて徒歩で目的の場所に向かった。南区の取り壊しはほぼ全域に及ぶので、一番端から順にやっていく予定だ。今日は城壁と西区との境の壁、両方に接しているところからとなっている。

「待たせたな」

 現場に着くと合計十数人ほどの騎士と冒険者が待機してくれていた。半数以上が手には空間石を持っていて、瓦礫を撤去してくれる予定の人達だと分かる。残りの籠を持っている人達は、瓦礫でいっぱいになった空間石を街の外に運び、中身を空にする役目を果たしてくれるのだろう。

「準備は完了しておりますので、後はフィリップ様のご都合で始められます」
「だそうだ。フィリップ、すぐにできるか?」
「もちろんです。ではこの建物から行きますので、皆さんは遠くに下がっていてください」

 俺は皆が避難している間に、一番端にある建物に近づき構造を確認した。普通の二階建て一般住宅みたいだ。この柱とこっちの柱、それからこの壁を崩せばいけるかな?
 前の世界では攻撃魔法で建物の取り壊しを行うのは当たり前だったので、その関係の本を読んで少しは知識がある。

「とりあえずやってみて、ダメだったらまた考えれば良いか」

 周りに誰もいないのでそんな言葉をポツリと呟き、俺も皆がいる場所まで下がった。そして魔法陣を描いてさっき当たりを付けた場所を崩していく。

「やっば……」

 誰かのそんな呟きが耳に入った。確かにいつ見ても凄い迫力だ。石造の重厚な建物は、何発かの攻撃魔法で完全に崩れて瓦礫の山と化した。瓦礫の大きさはパッと見た感じ問題なさそうだ。

「フィリップ、攻撃魔法とはここまでの威力が出せるのか……」
「はい。しかし今の攻撃はそこまで強いものではありません。建物は支えになっている場所をいくつか崩してしまえば、自ら崩れてくれますから」
「それにしても、衝撃的な光景だよ」

 ファビアン様の後にマティアスも呆然と呟き、この場にいる全員が瓦礫の山をただ見つめ続けている。しかしそんな空間に一人の声が響いた。

「フィリップ様、素晴らしいです。カッコいいです!」

 シリルだ。いつもはおとなしくて控えめなのに、今はかなり興奮している。意外にも攻撃魔法が好きだったのか。

「ありがとう。でもシリルもできると思うよ?」
「本当ですか!」
「うん。ニルス、紙とペン持ってる?」
「こちらに」

 俺はニルスからその二つを受け取り、近くに放置されていた台の上で魔法陣を描いた。そしてその紙をフィリップに手渡す。

「こんな感じでここに入れる言葉と……それからここ。この二箇所を変えて攻撃の方向を決めるんだ。それさえできればシリルでも問題なく使えるよ」
 
 まだ神聖語は教え始めたばかりだからと戦力に入れてなかったけど、実践しながら教えれば建物の破壊だけならできるようになるかもしれない。

「ファビアン様、シリルに教えながらやっても良いでしょうか? 可能性はありますし、成功すれば効率が倍になります」
「もちろん構わない。しかしいくつかの建物を壊してからにしてくれるか? 先程の調子では瓦礫の除去の方が時間がかかりそうだからな」
「分かりました」

 それから俺はさらに五つの建物を取り壊し、一番最初に壊した建物の瓦礫除去が始まるのを見届けたところで、七つめの建物にシリルと共に向かった。
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