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第二章 王都改革編

44、空間石作製

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 シリルは初めて入った魔道具作製部屋に、興味津々な様子だ。棚や机の上に乱雑に置かれた様々な素材を楽しそうに眺めている。

「あんまり綺麗にしてなくてごめん。最近忙しくて」
「いえ、大丈夫です。たくさんのものが見られてとても楽しいです」
「それなら良かったよ。ちなみに部屋の真ん中にある大きなテーブルが、材料を広げたり魔道具作製以外をしたい時に使う机で、壁に向かって設置されてる机が魔道具作製に使う机ね。俺は作業机って呼んでる」

 シリルに簡単な説明をしつつ、さすがに散らかりすぎている机の上を簡単に片付けていく。そして作業机にシリル用の椅子を設置して、二人で使えるように整える。

 幸いこの部屋の作業机は三人でも使えそうなほど横に長いので、隣でシリルが作業をしていても全く問題はない。ただこれ以上増えたら無理だから、早めに魔道具師のための部屋を作るべきかな。

「ここがシリルの席ね」
「ありがとうございます。この板はなんでしょうか?」
「それは固定板だよ。魔鉱石を固定するために使うんだ」
「便利なものがあるのですね……」

 魔道具作製に必要な固定板、鉄ペン、ノミ、金槌、ヤスリ、刷毛などを次々と渡していく。全部シリルのために追加注文したのだ。

「とりあえずこれだけあれば魔道具は作れる。全部シリルのだから、この木箱に仕舞って管理してね」
「はい。ありがとうございます」
「よしっ、じゃあ早速魔道具の作り方を教えるよ」

 それから一時間ほどかけて、俺は丁寧に魔道具の作り方を伝授した。シリルは熱心にメモを取っていたので、成功するかどうかは別にして作り方は完璧だと思う。

「かなり工程が多くて、それに繊細な仕事ですね」
「そうなんだよ。……正直なところね、俺はあんまり好きな作業じゃない」

 思わずそんな本音を溢すと、シリルは苦笑しつつ頼もしい言葉を口にしてくれた。

「では私ができるだけ早く魔道具を作れるようになって、フィリップ様の負担を減らしますね」

 シリルが本当に良い弟子すぎる……! そんなこと言われたら嬉しくて感動の涙が浮かんできそうだ。それに俺も頑張ろうと意欲が湧いてくる。

「ありがとう。期待してるね」

 内心では感情がぐるぐると渦巻いて騒がしかったけれど、それを抑え込んでなんとかいつも通りの笑顔を浮かべた。子爵家だって表情管理が必要な場面はあったんだ、今こそ経験を活かすとき。

「精一杯頑張ります」
「じゃあ早速シリルは魔道具を作ってみてくれる? この紙に描かれてるのが降雨器の魔法陣なんだ。発動させられるかの確認はそこの窓から外に向かってやっても良いし、実際に外に出てやっても良いよ。発動できそうだったら、降雨器を作ってみて」

 シリルは降雨器の魔法陣が描かれた紙を嬉しそうに見詰め、大きく頷いてくれた。

「それからこれは本当に申し訳ないんだけど、魔法陣を描いてる時や彫ってる時は、集中力を切らせたくないから話しかけないでもらえるとありがたいんだ。もちろん俺もシリルがその作業をしてる時は、声をかけないように気をつける」
「確かに魔法陣を描いてる時に声をかけられると、かなりの確率で失敗します。気をつけますね」
「よろしくね。注意事項はこれぐらいかな……お互い頑張ろうか」
「かしこまりました!」

 シリルはとりあえず外で降雨器の魔法陣を練習するらしく出て行ったので、俺は一人で空間石の魔法陣を紙に描いている。魔力ではなく普通にインクでだ。
 この魔法陣は前世のものから変更する必要がないのでその点では楽だけど、とにかく複雑なので何回か練習しないと失敗する予感しかしない。

 俺は何度も練習して習得した魔法陣を殊更丁寧に描いていく。神聖語をたくさん書き込むから文字の大きさを小さくして、しかし形は崩さないように……
 それから数分の時間をかけて魔法陣を描ききった。改めて確認してみても問題はなさそうだ。これなら魔道具作製に移っても大丈夫かな。

 空間石作製の難易度が高い理由は魔法陣が複雑だからという理由もあるけれど、一番は魔法陣が発動するかどうか魔道具を作ってからじゃないと確認できないという点にある。
 他の一般的な魔法陣は魔法陣だけでも発動可能だけど、空間付与と転移だけは魔道具という形、つまり魔鉱石に刻まれた状態でしか発動できないのだ。よって給水器の時には魔鉱石に魔力で魔法陣を描いた段階で発動するのか確認したけど、空間石でそれはできない。

 魔道具を作り終わって発動させる時の緊張感は、今思い出しただけでも心拍数が上がるほどだ。もちろん他の魔道具だって彫る工程で失敗したら発動しないんだけど、その前段階で確認できるかできないかは結構な違いがある。主に気持ち的な問題で。

 ふぅ……でもそんなこと考えたって俺が作るしかないんだよね、頑張るかな。そう気合を入れて、改めて先程描いた魔法陣に視線を戻す。
 この魔法陣はハインツが作れる最大性能の魔法陣だった。これを今のフィリップの体で作れるのかどうか……魔力量的に厳しい可能性が高いかな。

 少しだけ収納量を減らして必要魔力量を減らすようにしておこう。あと使用者制限は付けたほうが良いかな……でもこれは南区改造計画で使うし、ないほうが便利か。
 悪用されないためにもできれば付けたいんだけど、今回は利便性を重視しよう。そしてちゃんと王家管理を徹底してもらおう。

 俺はそんなことを考えつつ別の紙に少し変更した魔法陣を描き、それを作業机の見やすい場所に置いた。そして魔鉱石を机に持ってきて、できる限り小さく軽くなるように削り出していく。
 空間石は基本的にずっと持ち歩くものなので、どれだけ軽く小さくできるのかがその人の腕前の良さを示すものだと言われていた。魔法陣が複雑だから大きくすれば描きやすくて楽なんだけど、やっぱり使いやすさも追求したい。

 ちょうど良い大きさに削り出したらヤスリで形を整えて、魔力で魔法陣を描いた。そして一番重要な鉄ペンで彫っていく作業だ。俺は今までで一番と言っても良いほどに集中して作業を進めた。シリルが部屋の中に入ってきたことにも気づかなかったほどだ。


 ――それから数時間後、ついに空間石を作り終えた。あとはこれが使えれば完成となる。
 俺は大きく息を吐き出して、緊張しながら空間石に魔力を注いだ。すると、空間石から数センチ上空に魔法陣が浮かび上がる…………成功だっ!!

 やった、マジで良かった。これで失敗だったら本気で泣くところだ。はぁ……安心したら突然疲れが襲ってきた。

「フィリップ様、大丈夫ですか?」

 俺が背もたれに深く寄りかかったからか、シリルが心配そうに声をかけてくれた。シリルの方を見てみると、すでに魔道具作製は終わっているようで、今は魔法陣を描く練習中らしい。
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