20 / 42
第2章 世界的な異変
20、懐かしの味と緊急連絡
しおりを挟む
一口サイズの肉団子に茶色のソースが掛かっていて、とても良い香りだ。フォークに刺して口に運ぶと、ソースの強い香りが鼻腔をくすぐる。
「ん……これ、凄く美味しいです。このブラウンソースが少し独特ですね」
口の中で肉団子を味わってから感想を述べると、ノエルさんも私の言葉に同意するよう頷いてから口端を緩めた。
「これは子供が好きな味ですね」
「確かにそうですね。このソース、パンにつけても絶対に美味しいと思いませんか?」
パンにソースがジュワッと染み込んだら……美味しくないわけがないよね。
「想像だけで美味しそうです。最初から、肉団子サンドにしても良いかもしれませんね。……このソースも孤児院に卸してもらえるのでしょうか」
ノエルさんのその言葉が聞こえたのか、さっきの女性が私たちの注文の品を運びながら質問に答えてくれた。
「ソースは粉末状にすることに成功していて、孤児院ではお湯に溶いて煮詰めるだけで完成するんですよ」
「え、そうなのですか! それは凄いですね」
「この肉団子、とても美味しかったです」
「気に入っていただけて良かったです。感想をありがとうございます。ではこちら、ご注文の料理でございます」
テーブルに並べられた三つの料理は、どれもとても美味しそうな見た目と香りだ。
「まずはどれから食べますか?」
「やはりチーズ入りのハンバーグにしましょう。早く食べたくて気になってしまいますから」
「ふふっ、分かります。では半分に切り分けますね」
ナイフとフォークで半分に切ると、中からトロッとチーズが溢れ出してきた。そのチーズも上手く切り分けて、取り分け用のお皿に載せる。
「ノエルさん、どうぞ」
「ありがとうございます」
満を持してハンバーグを口に運ぶと……口の中に広がった懐かしい美味しさに、頬が緩んで自然と笑顔になってしまった。
このソースを付けなくても良いほどに味が濃いハンバーグ、これが美味しいのだ。胡椒系のスパイスが強めに効いていて、パンや芋などにもとても良く合った記憶がある。
「レイラさん、幸せそうですね」
「美味しいものを食べている時は幸せです」
「分かります。……ただレイラさんのその顔を見ているだけで、私は食べなくても幸せになれそうです」
「え、そんなに顔が緩んでますか?」
なんだか恥ずかしくて両手で頬を押さえると、ノエルさんは楽しそうな笑みを浮かべた。
「可愛らしいので気になさらなくても大丈夫ですよ」
「そう言われても……一度聞いてしまったら気になります」
少しだけ口を尖らせてそう伝えると、ノエルさんは笑顔で謝りながら牛肉の煮込み料理にナイフを入れた。
「すみません。こっちも食べて料理に意識を集中させましょう。……あっ、これ凄く柔らかいですよ」
「本当ですね。ほとんど力を入れていませんか?」
「はい。スッとナイフが入ります」
取り分けてもらった牛肉の煮込みを口に運ぶと、濃厚なソースと共に牛肉が口の中で溶けた。
「これ、凄く美味しいです! 高級な味がします」
「本当ですね。騎士団の詰所の食事に匹敵します。もしかしたら、こちらの方が少し勝っているかもしれません」
「騎士団の食事は美味しいのですか?」
「はい。王宮の厨房で働いていた方が作ってくださっていて、とても美味しい料理がたくさん食べられるのです。騎士団所属の治癒師になって一番嬉しかったことは食事ですね」
ノエルさんはそう言って苦笑を浮かべた。
でも王宮の厨房で働いていた人が作ってくれるご飯なんて、それが一番の楽しみになるのも仕方がないだろう。だって王族の方々が召し上がっている料理と似たものを食べられるってことだ。
それ、凄く羨ましい。私にもいつか食べる機会があったら嬉しいな。
それからも楽しく話をしながら料理を食べ進め、お腹が幸せで満たされたところで食堂を後にした。
「今日は一緒に来てくださってありがとうございました。とても美味しくて幸せでした」
「いえ、こちらこそ誘ってくださってありがとうございました。久しぶりに楽しい休日となりました」
「それなら良かったです。ではこの後は本屋に行きましょうか」
「そうですね――」
ノエルさんが突然、真剣な表情になって大通りの先に視線を向けた。
「――レイラさん、もしかしたら本屋には行けないかもしれません」
そしてそう告げたので、私もノエルさんの視線の先を見てみると……そこにはこちらに走ってくる、騎士服姿の若い男性がいた。
「ノエルさん! すぐに会えて良かったです!」
「何かありましたか?」
「魔物討伐に行っていた部隊が呪いにやられました。呪われた者が約二十名、さらに負傷者多数です。一人酷い怪我をした騎士がいて、治癒員の方がノエルさんの治癒魔法でないと危ないかもしれないと」
呪い、久しぶりにその言葉を聞いた。呪いは基本的に一部の魔物が持つものだけど、この街の近くに呪いを持つ魔物がいるという話は聞いたことがなかった。
それなのに呪われた人がたくさんいるってことは、何かがあったのだろう。どこからか魔物が移動してきたのかな。
「呪いは厄介ですね……とりあえず王宮に戻りましょう。レイラさん、本日はありがとうございました。申し訳ありませんが、ここで失礼させていただきます」
「はい。こちらこそありがとうございました。私のことは気になさらず、王宮に向かってください」
「ありがとうございます。ただ今回は呪いですので、もしかしたらレイラさんたちに呪いに対する薬の調薬を頼むことになるかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「分かりました。ヴァレリアに伝えておきます」
ノエルさんは騎士の方と共に王宮に向かって足早に去っていき、それを見送ってから私も薬屋に帰るために足を進めた。
「ん……これ、凄く美味しいです。このブラウンソースが少し独特ですね」
口の中で肉団子を味わってから感想を述べると、ノエルさんも私の言葉に同意するよう頷いてから口端を緩めた。
「これは子供が好きな味ですね」
「確かにそうですね。このソース、パンにつけても絶対に美味しいと思いませんか?」
パンにソースがジュワッと染み込んだら……美味しくないわけがないよね。
「想像だけで美味しそうです。最初から、肉団子サンドにしても良いかもしれませんね。……このソースも孤児院に卸してもらえるのでしょうか」
ノエルさんのその言葉が聞こえたのか、さっきの女性が私たちの注文の品を運びながら質問に答えてくれた。
「ソースは粉末状にすることに成功していて、孤児院ではお湯に溶いて煮詰めるだけで完成するんですよ」
「え、そうなのですか! それは凄いですね」
「この肉団子、とても美味しかったです」
「気に入っていただけて良かったです。感想をありがとうございます。ではこちら、ご注文の料理でございます」
テーブルに並べられた三つの料理は、どれもとても美味しそうな見た目と香りだ。
「まずはどれから食べますか?」
「やはりチーズ入りのハンバーグにしましょう。早く食べたくて気になってしまいますから」
「ふふっ、分かります。では半分に切り分けますね」
ナイフとフォークで半分に切ると、中からトロッとチーズが溢れ出してきた。そのチーズも上手く切り分けて、取り分け用のお皿に載せる。
「ノエルさん、どうぞ」
「ありがとうございます」
満を持してハンバーグを口に運ぶと……口の中に広がった懐かしい美味しさに、頬が緩んで自然と笑顔になってしまった。
このソースを付けなくても良いほどに味が濃いハンバーグ、これが美味しいのだ。胡椒系のスパイスが強めに効いていて、パンや芋などにもとても良く合った記憶がある。
「レイラさん、幸せそうですね」
「美味しいものを食べている時は幸せです」
「分かります。……ただレイラさんのその顔を見ているだけで、私は食べなくても幸せになれそうです」
「え、そんなに顔が緩んでますか?」
なんだか恥ずかしくて両手で頬を押さえると、ノエルさんは楽しそうな笑みを浮かべた。
「可愛らしいので気になさらなくても大丈夫ですよ」
「そう言われても……一度聞いてしまったら気になります」
少しだけ口を尖らせてそう伝えると、ノエルさんは笑顔で謝りながら牛肉の煮込み料理にナイフを入れた。
「すみません。こっちも食べて料理に意識を集中させましょう。……あっ、これ凄く柔らかいですよ」
「本当ですね。ほとんど力を入れていませんか?」
「はい。スッとナイフが入ります」
取り分けてもらった牛肉の煮込みを口に運ぶと、濃厚なソースと共に牛肉が口の中で溶けた。
「これ、凄く美味しいです! 高級な味がします」
「本当ですね。騎士団の詰所の食事に匹敵します。もしかしたら、こちらの方が少し勝っているかもしれません」
「騎士団の食事は美味しいのですか?」
「はい。王宮の厨房で働いていた方が作ってくださっていて、とても美味しい料理がたくさん食べられるのです。騎士団所属の治癒師になって一番嬉しかったことは食事ですね」
ノエルさんはそう言って苦笑を浮かべた。
でも王宮の厨房で働いていた人が作ってくれるご飯なんて、それが一番の楽しみになるのも仕方がないだろう。だって王族の方々が召し上がっている料理と似たものを食べられるってことだ。
それ、凄く羨ましい。私にもいつか食べる機会があったら嬉しいな。
それからも楽しく話をしながら料理を食べ進め、お腹が幸せで満たされたところで食堂を後にした。
「今日は一緒に来てくださってありがとうございました。とても美味しくて幸せでした」
「いえ、こちらこそ誘ってくださってありがとうございました。久しぶりに楽しい休日となりました」
「それなら良かったです。ではこの後は本屋に行きましょうか」
「そうですね――」
ノエルさんが突然、真剣な表情になって大通りの先に視線を向けた。
「――レイラさん、もしかしたら本屋には行けないかもしれません」
そしてそう告げたので、私もノエルさんの視線の先を見てみると……そこにはこちらに走ってくる、騎士服姿の若い男性がいた。
「ノエルさん! すぐに会えて良かったです!」
「何かありましたか?」
「魔物討伐に行っていた部隊が呪いにやられました。呪われた者が約二十名、さらに負傷者多数です。一人酷い怪我をした騎士がいて、治癒員の方がノエルさんの治癒魔法でないと危ないかもしれないと」
呪い、久しぶりにその言葉を聞いた。呪いは基本的に一部の魔物が持つものだけど、この街の近くに呪いを持つ魔物がいるという話は聞いたことがなかった。
それなのに呪われた人がたくさんいるってことは、何かがあったのだろう。どこからか魔物が移動してきたのかな。
「呪いは厄介ですね……とりあえず王宮に戻りましょう。レイラさん、本日はありがとうございました。申し訳ありませんが、ここで失礼させていただきます」
「はい。こちらこそありがとうございました。私のことは気になさらず、王宮に向かってください」
「ありがとうございます。ただ今回は呪いですので、もしかしたらレイラさんたちに呪いに対する薬の調薬を頼むことになるかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「分かりました。ヴァレリアに伝えておきます」
ノエルさんは騎士の方と共に王宮に向かって足早に去っていき、それを見送ってから私も薬屋に帰るために足を進めた。
32
お気に入りに追加
596
あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女の世界救済後
菜花
ファンタジー
村娘メリアは天変地異が立て続けに起きる世界で突如女神の声を聴く。『貴方が世界を救う』 中二心を疼かせながら天変地異の原因となる呪物を浄化する旅に出たのだが――。カクヨム様でも投稿しています。 8/6その後の話を追加。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。
まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」
ええよく言われますわ…。
でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。
この国では、13歳になると学校へ入学する。
そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。
☆この国での世界観です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる