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第3章 黒山編
115、味見と夕食へ
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厨房に続いているのだろうドアをノックしてから、俺は控えめに声をかけた。
「すみません~」
迷惑にならないようにと抑えた声だったけど、料理人たちには聞こえたようだ。中から聞こえていた音が一瞬だけ収まり、すぐに声が聞こえてきた。
「はいっ、お待ちください!」
少し待つと、厨房の扉が内側から開く。開いてくれたのは若い男性……というよりも男の子と言った方が正しい年齢の子だ。多分、料理人見習いとかだろう。
「何かありましたでしょうか。ご要望があれば女将に……」
「あっ、違うんです。突然来てしまってすみません。実は従魔たちがパンのいい匂いに釣られてしまって、味見ができないかとここへ……」
邪魔をして申し訳ないと思いつつ伝えると、男の子は目をぱちぱちと瞬かせてからホッとしたように微笑んだ。
「分かりました。少しお待ちください!」
それから少し待っていると、男の子は大きな籠を持ってやってきてくれた。
「料理長が準備をしてくれました。夕食にもご提供するパンなのですが、それでよければ……ジャムやバターなども籠に入れてありますので」
焼きたてパンの香りとジャムやバターを見て、リルンの尻尾がこれでもかと振られる。それを見てフィーネがクスッと笑った。
「すみません。ありがとうございます。凄く喜んでるみたいです」
フィーネのその言葉に男の子はリルンに視線を向け、うずうずと手を動かした。やはり誰でも、もふもふは好きらしい。
ただこの子は料理人見習いなのだから、さすがにリルンを撫でるのはダメだろう。そう考えて毛並みを楽しむことは勧めなかった。
もし夜にでも会うことがあったら、その時には存分に撫でさせてあげたいな。そんなことを考えていると、さっそく皆はパンに夢中だ。
『うわぁ! これ木の実が入ったパンだよ!』
『このジャム、とても美味しそうだわ』
『やはり焼きたては良い香りじゃな』
『お前ら、我がここまで案内したのだからな!』
『あら、私たちも匂いを辿ることぐらいできるわ。それよりもリルン、私はこのジャムを食べたいの。良いわよね?』
『……まあ、別にそのジャムなら』
『じゃあ僕は木の実のパンね!』
『それならわしは、このドライフルーツ入りの……』
皆がわいわいと騒いで、好きなパンを手にしていく中、リルンが悲痛な叫び声を上げた。
『なぜ我が一番最後なんだ!?』
その叫びについ笑いそうになってしまい、俺は必死に耐えた。神獣たちの会話は男の子に聞こえていないのだから、さすがにここで笑ったら不自然だ。
「あ、あの、ありがとうございました。夕食を楽しみにしてます」
なんとかそう伝えると、男の子は笑顔で厨房に戻っていった。それを見送ったところで、思わずフィーネと顔を見合わせてしまう。そしてさっそくパンの味見をする皆のことを、呆れた表情で見つめた。
「さすがにこんな廊下で食べるのはどうなんだ?」
「私もそう思う。皆、移動するからちょっと食べるのやめて。確か中庭があったから、そこのベンチで食べよう」
俺たちの提案にリルンは不満そうながら従い、他の皆もすぐに頷いてくれる。
『……仕方がないな』
『はーい』
そうして移動した中庭は、思っていた何倍も綺麗な場所だった。全てが美しく整えられていて、足を踏み入れるのにも躊躇するほどだ。
しかし中庭には広々とした通路があり、歩けるようになっていた。
「さすが高級宿だな」
「本当だね……温泉もおしゃれなのかな」
「そっちは期待だな。夕食後に皆で行こう」
「うん。どの温泉にも皆が入って良いなんて、本当にありがたいよね。またスーちゃんとラトが私と一緒で良い?」
「もちろん。俺はデュラ爺とリルンと入るよ」
この前全部綺麗に洗ったばかりだし、今回はお湯で流すぐらいでもいいかな……いや、やっぱり頑張って洗うか。一緒に温泉に浸かる俺としても、綺麗なお湯に入りたい。
そんなことを考えていたら、皆がベンチを見つけたようだ。
『あそこで食べる?』
ラトの疑問にはフィーネが頷く。
「そうだね。あそこで皆で食べよう。慌てずにね」
それからの俺たちはパンの味見を堪能して、まだ食べ足りないリルンをなんとか抑えながら、さらに宿の探検を進めた。
そしてついに、夕食の時間だ。
「すみません~」
迷惑にならないようにと抑えた声だったけど、料理人たちには聞こえたようだ。中から聞こえていた音が一瞬だけ収まり、すぐに声が聞こえてきた。
「はいっ、お待ちください!」
少し待つと、厨房の扉が内側から開く。開いてくれたのは若い男性……というよりも男の子と言った方が正しい年齢の子だ。多分、料理人見習いとかだろう。
「何かありましたでしょうか。ご要望があれば女将に……」
「あっ、違うんです。突然来てしまってすみません。実は従魔たちがパンのいい匂いに釣られてしまって、味見ができないかとここへ……」
邪魔をして申し訳ないと思いつつ伝えると、男の子は目をぱちぱちと瞬かせてからホッとしたように微笑んだ。
「分かりました。少しお待ちください!」
それから少し待っていると、男の子は大きな籠を持ってやってきてくれた。
「料理長が準備をしてくれました。夕食にもご提供するパンなのですが、それでよければ……ジャムやバターなども籠に入れてありますので」
焼きたてパンの香りとジャムやバターを見て、リルンの尻尾がこれでもかと振られる。それを見てフィーネがクスッと笑った。
「すみません。ありがとうございます。凄く喜んでるみたいです」
フィーネのその言葉に男の子はリルンに視線を向け、うずうずと手を動かした。やはり誰でも、もふもふは好きらしい。
ただこの子は料理人見習いなのだから、さすがにリルンを撫でるのはダメだろう。そう考えて毛並みを楽しむことは勧めなかった。
もし夜にでも会うことがあったら、その時には存分に撫でさせてあげたいな。そんなことを考えていると、さっそく皆はパンに夢中だ。
『うわぁ! これ木の実が入ったパンだよ!』
『このジャム、とても美味しそうだわ』
『やはり焼きたては良い香りじゃな』
『お前ら、我がここまで案内したのだからな!』
『あら、私たちも匂いを辿ることぐらいできるわ。それよりもリルン、私はこのジャムを食べたいの。良いわよね?』
『……まあ、別にそのジャムなら』
『じゃあ僕は木の実のパンね!』
『それならわしは、このドライフルーツ入りの……』
皆がわいわいと騒いで、好きなパンを手にしていく中、リルンが悲痛な叫び声を上げた。
『なぜ我が一番最後なんだ!?』
その叫びについ笑いそうになってしまい、俺は必死に耐えた。神獣たちの会話は男の子に聞こえていないのだから、さすがにここで笑ったら不自然だ。
「あ、あの、ありがとうございました。夕食を楽しみにしてます」
なんとかそう伝えると、男の子は笑顔で厨房に戻っていった。それを見送ったところで、思わずフィーネと顔を見合わせてしまう。そしてさっそくパンの味見をする皆のことを、呆れた表情で見つめた。
「さすがにこんな廊下で食べるのはどうなんだ?」
「私もそう思う。皆、移動するからちょっと食べるのやめて。確か中庭があったから、そこのベンチで食べよう」
俺たちの提案にリルンは不満そうながら従い、他の皆もすぐに頷いてくれる。
『……仕方がないな』
『はーい』
そうして移動した中庭は、思っていた何倍も綺麗な場所だった。全てが美しく整えられていて、足を踏み入れるのにも躊躇するほどだ。
しかし中庭には広々とした通路があり、歩けるようになっていた。
「さすが高級宿だな」
「本当だね……温泉もおしゃれなのかな」
「そっちは期待だな。夕食後に皆で行こう」
「うん。どの温泉にも皆が入って良いなんて、本当にありがたいよね。またスーちゃんとラトが私と一緒で良い?」
「もちろん。俺はデュラ爺とリルンと入るよ」
この前全部綺麗に洗ったばかりだし、今回はお湯で流すぐらいでもいいかな……いや、やっぱり頑張って洗うか。一緒に温泉に浸かる俺としても、綺麗なお湯に入りたい。
そんなことを考えていたら、皆がベンチを見つけたようだ。
『あそこで食べる?』
ラトの疑問にはフィーネが頷く。
「そうだね。あそこで皆で食べよう。慌てずにね」
それからの俺たちはパンの味見を堪能して、まだ食べ足りないリルンをなんとか抑えながら、さらに宿の探検を進めた。
そしてついに、夕食の時間だ。
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