外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗

文字の大きさ
上 下
88 / 95
第3章 黒山編

115、味見と夕食へ

しおりを挟む
 厨房に続いているのだろうドアをノックしてから、俺は控えめに声をかけた。

「すみません~」

 迷惑にならないようにと抑えた声だったけど、料理人たちには聞こえたようだ。中から聞こえていた音が一瞬だけ収まり、すぐに声が聞こえてきた。

「はいっ、お待ちください!」

 少し待つと、厨房の扉が内側から開く。開いてくれたのは若い男性……というよりも男の子と言った方が正しい年齢の子だ。多分、料理人見習いとかだろう。

「何かありましたでしょうか。ご要望があれば女将に……」
「あっ、違うんです。突然来てしまってすみません。実は従魔たちがパンのいい匂いに釣られてしまって、味見ができないかとここへ……」

 邪魔をして申し訳ないと思いつつ伝えると、男の子は目をぱちぱちと瞬かせてからホッとしたように微笑んだ。

「分かりました。少しお待ちください!」

 それから少し待っていると、男の子は大きな籠を持ってやってきてくれた。

「料理長が準備をしてくれました。夕食にもご提供するパンなのですが、それでよければ……ジャムやバターなども籠に入れてありますので」

 焼きたてパンの香りとジャムやバターを見て、リルンの尻尾がこれでもかと振られる。それを見てフィーネがクスッと笑った。

「すみません。ありがとうございます。凄く喜んでるみたいです」

 フィーネのその言葉に男の子はリルンに視線を向け、うずうずと手を動かした。やはり誰でも、もふもふは好きらしい。

 ただこの子は料理人見習いなのだから、さすがにリルンを撫でるのはダメだろう。そう考えて毛並みを楽しむことは勧めなかった。

 もし夜にでも会うことがあったら、その時には存分に撫でさせてあげたいな。そんなことを考えていると、さっそく皆はパンに夢中だ。

『うわぁ! これ木の実が入ったパンだよ!』
『このジャム、とても美味しそうだわ』
『やはり焼きたては良い香りじゃな』
『お前ら、我がここまで案内したのだからな!』
『あら、私たちも匂いを辿ることぐらいできるわ。それよりもリルン、私はこのジャムを食べたいの。良いわよね?』
『……まあ、別にそのジャムなら』
『じゃあ僕は木の実のパンね!』
『それならわしは、このドライフルーツ入りの……』

 皆がわいわいと騒いで、好きなパンを手にしていく中、リルンが悲痛な叫び声を上げた。

『なぜ我が一番最後なんだ!?』

 その叫びについ笑いそうになってしまい、俺は必死に耐えた。神獣たちの会話は男の子に聞こえていないのだから、さすがにここで笑ったら不自然だ。

「あ、あの、ありがとうございました。夕食を楽しみにしてます」

 なんとかそう伝えると、男の子は笑顔で厨房に戻っていった。それを見送ったところで、思わずフィーネと顔を見合わせてしまう。そしてさっそくパンの味見をする皆のことを、呆れた表情で見つめた。

「さすがにこんな廊下で食べるのはどうなんだ?」
「私もそう思う。皆、移動するからちょっと食べるのやめて。確か中庭があったから、そこのベンチで食べよう」

 俺たちの提案にリルンは不満そうながら従い、他の皆もすぐに頷いてくれる。

『……仕方がないな』
『はーい』

 そうして移動した中庭は、思っていた何倍も綺麗な場所だった。全てが美しく整えられていて、足を踏み入れるのにも躊躇するほどだ。

 しかし中庭には広々とした通路があり、歩けるようになっていた。

「さすが高級宿だな」
「本当だね……温泉もおしゃれなのかな」
「そっちは期待だな。夕食後に皆で行こう」
「うん。どの温泉にも皆が入って良いなんて、本当にありがたいよね。またスーちゃんとラトが私と一緒で良い?」
「もちろん。俺はデュラ爺とリルンと入るよ」

 この前全部綺麗に洗ったばかりだし、今回はお湯で流すぐらいでもいいかな……いや、やっぱり頑張って洗うか。一緒に温泉に浸かる俺としても、綺麗なお湯に入りたい。

 そんなことを考えていたら、皆がベンチを見つけたようだ。

『あそこで食べる?』

 ラトの疑問にはフィーネが頷く。

「そうだね。あそこで皆で食べよう。慌てずにね」

 それからの俺たちはパンの味見を堪能して、まだ食べ足りないリルンをなんとか抑えながら、さらに宿の探検を進めた。

 そしてついに、夕食の時間だ。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。