外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗

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第3章 黒山編

113、救世主

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 リルンたちの戦いが無事勝利に終わり、俺たちが褒めてあげなくちゃなんて呑気な会話をしていると、呆然と戦いの様子を眺めていた兵士たちの方からどよめきが聞こえてきた。

「なっ、ど、どういうことだ……?」
「俺が今見たのは、夢か?」
「従魔四体で、サラマンダーを討伐した、ぞ?」

 次第にそのどよめきは熱量を帯びてきて、その場が熱気に包まれる。

「ぎ、犠牲者なしでサラマンダーを討伐できたぞ!」
「これは凄いことだ……!」
「全員無事に街へ帰れるぞ!」
「うぅ……っ」
「お前、子供が生まれたばっかりだったもんな! 良かったな!」

 大喜びで飛び回る人、嬉しさのあまり泣く人、とにかく驚きを露わにする人、まだ呆然としている人、様々な兵士たちの熱気がしばらくは収まらず、その熱気は比較的早くに俺たちへと向かった。

「あの従魔は救世主だ。お前たちは救世主だ!」
「街を救ってくれてありがとう!」
「本当にありがとう……!」

 俺たちはもみくちゃにされ、たくさんの兵士に手を握られ肩を叩かれ、とにかく感謝される。そんな状態にひたすら混乱していると……そこにリルンたちが戻ってきた。

『討伐してきたぞ』
『少し手こずったな』
『僕も活躍したよー!』
『サラマンダーの一匹ぐらい、楽勝だったわ』

 いつも通りのテンションでいる皆に、兵士たちの視線がギュインっと集まる。そして一気に讃えられた。

「お前たち、本当にありがとう!」
「助かった!」
「めちゃくちゃ強いんだな……!」

 そんな褒め言葉の数々に、リルンはふんっと視線を逸らしながらも尻尾はぶんぶんと振られていて、ラトはえへへと嬉しそうに頬を緩めている。
 デュラ爺はあまり変わらない表情だけど少し嬉しげで、スーちゃんはいつもよりわざとらしく顔を洗っていた。

 そんな皆の分かりやすい嬉しさを表す態度に、俺たちの頬は緩んでしまう。

「皆、可愛いな……」
「本当に可愛いよね。ラトなんてもう、これ以上ないってぐらい照れてるよ」

 短い手で頭を掻くようにして尻尾をピンッと立てているラトは、本当に可愛い。リルンもデュラ爺もスーちゃんも全員可愛すぎる。

 近くには倒されたサラマンダーがいることも忘れてひたすら和んでいると、突然兵士たちの声が小さくなった。そして自然と兵士たちが道を作り、そこから現れたのは……豪華な文官服のようなものを着たおじさんだ。

「君たちがサラマンダーを討伐してくれたのかな」

 優しそうだけど不思議と威厳がある男性の言葉に俺たちが頷くと、その男性は深く頭を下げた。

「ありがとう。この街を預かる代官として、皆を代表して礼を言わせてほしい。本当に助かった。君たちは我が街の救世主だ」

 救世主なんて大袈裟な……そう思いつつ、代官という凄い立場にいる人に頭を下げられている現状が居た堪れず、慌てて声をかける。

「あ、あの、たまたま近くにいただけですから」
「そうです。顔を上げてください。あの子たちも楽しんでサラマンダーを討伐してましたし……」

 フィーネが苦笑しつつ告げたその言葉に俺も苦笑しながら頷いたけど、楽しみながらという事実を軽く受け止めたのは俺たちだけだった。

「まさか、サラマンダーを楽しみながら討伐できるとは」

 代官がそう言って目を見開くと、それに続いて兵士も口を開く。

「どんだけ強いんだ……」
「でも、本当にヤバい戦いしてたよな」
「信じられないぐらい強かったな」
「楽しそうに見えたな」

 そんな言葉の数々を聞いた代官は、居住まいを正すと俺たちに告げた。

「これからこの街で起こったことを全て王宮に報告するのだが、その結果が出るまで街に滞在してもらえないだろうか。君たちには街一番の高級宿を貸し切らせてもらうし、不自由はさせない」
「それは、何か責められたり……」

 急にそんなことを言われては戸惑い、フィーネが恐る恐る問いかけると、代官は少し慌てたように手を横に振る。

「いや、街の救世主を責めるなんてとんでもない。王家から何かしらの礼が出るはずなんだ。そのため、街に留まってもらいたい」

 決定権は俺たちに預けてくれているけど、代官の瞳からは懇願が伝わってくるし、後ろにたくさんいる兵士たちからも期待の眼差しが向けられていた。

 そんな中で無理に断る勇気は俺になく、そもそもそこまでして断る理由もなく、俺はフィーネに視線を向けて問いかける。

「街にしばらくは滞在する、か?」

 するとフィーネも同じ気持ちだったのか、すぐに頷いてくれた。

「そうだね……そうしようか。急ぐ用事もないし」

 その返答を聞いた代官は、大袈裟に頭を下げる。

「ありがとう! それでは、さっそく街に戻ろう。しばらくは高級宿でゆっくりと休んでいてほしい」
「はい。ありがとうございます……」

 そうして俺たちは代官や一部の兵士と共に、温泉街に戻ることになった。
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