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第3章 黒山編

108、巨大な滑り台

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 サラマンダーが向かっている山の麓に俺たちもすぐ向かうため、フィーネが提案したのはデュラ爺の植物魔法を使った滑り台作戦だった。

 俺の必死な抵抗も虚しく、神獣たちが次々と賛成していく。

『それ楽しそう!』
『確かに一本道ならば早いな』
『私もそれで良いわ』
『うむ。わしも問題はない。植物魔法を使えばすぐに作れるじゃろう』

 そんな神獣たちの返答に、フィーネは笑みを深めた。

「じゃあ、さっそく行こうか。エリクも頑張ってね」
「……分かった」

 ここで俺だけ怖くて無理だなんて言えないため、俺は頷くしかなかった。正直、俺一人でも歩いて麓まで降りたいけど、そうなるとこの山の中に一人で残ることになる。

 歩くのに問題はないとしても、魔物に襲われたら終了だ。俺に選択肢はない。

「大丈夫、怖くない、一瞬で終わる、目を瞑ってればすぐだ、皆も大丈夫なんだから大丈夫、絶対に大丈夫……」

 自分に言い聞かせるように呪文のような言葉を唱えていると、さっそくデュラ爺が麓に視線を向けて、植物魔法を発動させた。

 すると近くのツル、木の枝、葉などが一斉に動いて、みるみるうちに滑り台が作られていく。土台は木の枝とツルで、俺たちが滑るところには葉が綺麗に敷き詰められているようだ。

『こんなもんかの』
「凄いよデュラ爺!」

 フィーネの褒め言葉に、デュラ爺は満更でもなさそうな表情でさらに張り切った。

『さすがに麓までここから作るわけにはいかんからの。わしが滑り降りながら続きの滑り台も作成していく。したがって、わしが先頭を行こう』
「分かった。じゃあ魔物が襲ってきた時のために、一応デュラ爺の近くにはリルンにいてもらって、私たちはその後ろでスーちゃんとラトといるよ。皆はそれで良い?」

 滑りながら続きを作っていくって、ちょっと判断ミスしたら山に投げ出されることにならないのか……!?
 
 俺はそう思ったけど、他の皆は全く気にしてないらしい。

『大丈夫! 僕はエリクの肩の上にいようかなぁ』
『私も問題ないわ。フィーネの膝の上を貸しなさい』
「ふふっ、了解」

 すぐに俺以外の皆は賛同して、フィーネの視線が俺に向いた。

「エリクもそれで大丈夫?」
「……うん、頑張るよ」

 俺は覚悟を決めて頷くと、楽しそうに瞳を輝かせているラトに手を伸ばす。するとラトは俺の手のひらの上に飛び乗り、ルンルンとした楽しげな足取りで肩まで移動した。

『じゃあ、さっそく行こー!』

 元気いっぱいなラトの声掛けで、まずはデュラ爺が滑り台に乗る。かなり急勾配な滑り台で、見てるだけでも相当な速さで滑り落ちていく中、さっそく次のリルンが飛び込んだ。

 続けてフィーネが太ももの上にスーちゃんを乗せて楽しそうに滑り始め、俺も意を決して滑り台に体を預けた。

 するとその瞬間、ヒュッと内臓が持ち上がるような感覚と共に、信じられないほどの速度で体が落ちていく。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 あまりにも怖すぎて、思いっきり叫んでしまった。植物で作られた滑り台なので、たまに切れた葉っぱや小さな枝が体に当たり、もうめちゃくちゃだ。

 それに長い! 長すぎる!

 俺はぎゅっと目を瞑りながら、必死でラトに伝えた。

「ラト!! バリアして!!」

 飛んでくる葉っぱや小さな枝を防いでくれ。そんな思いで伝えた言葉だったけど――ラトには正確に伝わらなかった。

『了解!』

 楽しげにそう答えたラトは、俺のお尻の下にバリアを作ったのだ。するとその瞬間、落下速度がぐんっと上がる。

「うわぁぁぁぉぉぁぁぁぁぁっっ!!!」

 俺はさらに叫ぶ羽目になった。

『凄い! 楽しいね!! 早くなったよ!!』

 楽しげに笑っているラトに、初めてちょっとだけ怒りを覚えたのは内緒だ。

 でも仕方ないだろう。だって、もう死にそうだ。誰か助けてくれ……っ、もう止めてくれっ!!


 それから体感にして数十分、実際には数分で山の麓まで滑り降りた。滑り台から降りた俺は、その場にへたり込んでしまう。

「もう無理、動けない、辛すぎた……」

 マジで人生で一番辛い数分間だった。俺が心からそう思っているのに、フィーネは余裕そうで意外と楽しかったなんて言ってるし、スーちゃんは優雅に毛繕いをしてるし、デュラ爺とリルンはいつも通りで、ラトなんてもう一回とせがんでいる。

 いや、これ俺がおかしいんじゃないよな? 皆がおかしいんだよな? 誰か常識人がいてくれないと困る……!

 物理的な疲れと、俺の辛さを理解してもらえそうにないことへの精神的な疲れを感じていると、ゴウっと炎が燃え盛るような音が響いた。

 そうだ、サラマンダーから色んな人たちを守るために麓に来たんだ。

「エリク、もう動ける?」

 フィーネが心配そうに声をかけてくれて、俺は震える足に力を入れて立ち上がる。

「ああ、大丈夫だ。サラマンダーのところに行こう」

 そうして俺たちは全員で、サラマンダーがいる場所に向かって駆け出した。
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