81 / 90
第3章 黒山編
108、巨大な滑り台
しおりを挟む
サラマンダーが向かっている山の麓に俺たちもすぐ向かうため、フィーネが提案したのはデュラ爺の植物魔法を使った滑り台作戦だった。
俺の必死な抵抗も虚しく、神獣たちが次々と賛成していく。
『それ楽しそう!』
『確かに一本道ならば早いな』
『私もそれで良いわ』
『うむ。わしも問題はない。植物魔法を使えばすぐに作れるじゃろう』
そんな神獣たちの返答に、フィーネは笑みを深めた。
「じゃあ、さっそく行こうか。エリクも頑張ってね」
「……分かった」
ここで俺だけ怖くて無理だなんて言えないため、俺は頷くしかなかった。正直、俺一人でも歩いて麓まで降りたいけど、そうなるとこの山の中に一人で残ることになる。
歩くのに問題はないとしても、魔物に襲われたら終了だ。俺に選択肢はない。
「大丈夫、怖くない、一瞬で終わる、目を瞑ってればすぐだ、皆も大丈夫なんだから大丈夫、絶対に大丈夫……」
自分に言い聞かせるように呪文のような言葉を唱えていると、さっそくデュラ爺が麓に視線を向けて、植物魔法を発動させた。
すると近くのツル、木の枝、葉などが一斉に動いて、みるみるうちに滑り台が作られていく。土台は木の枝とツルで、俺たちが滑るところには葉が綺麗に敷き詰められているようだ。
『こんなもんかの』
「凄いよデュラ爺!」
フィーネの褒め言葉に、デュラ爺は満更でもなさそうな表情でさらに張り切った。
『さすがに麓までここから作るわけにはいかんからの。わしが滑り降りながら続きの滑り台も作成していく。したがって、わしが先頭を行こう』
「分かった。じゃあ魔物が襲ってきた時のために、一応デュラ爺の近くにはリルンにいてもらって、私たちはその後ろでスーちゃんとラトといるよ。皆はそれで良い?」
滑りながら続きを作っていくって、ちょっと判断ミスしたら山に投げ出されることにならないのか……!?
俺はそう思ったけど、他の皆は全く気にしてないらしい。
『大丈夫! 僕はエリクの肩の上にいようかなぁ』
『私も問題ないわ。フィーネの膝の上を貸しなさい』
「ふふっ、了解」
すぐに俺以外の皆は賛同して、フィーネの視線が俺に向いた。
「エリクもそれで大丈夫?」
「……うん、頑張るよ」
俺は覚悟を決めて頷くと、楽しそうに瞳を輝かせているラトに手を伸ばす。するとラトは俺の手のひらの上に飛び乗り、ルンルンとした楽しげな足取りで肩まで移動した。
『じゃあ、さっそく行こー!』
元気いっぱいなラトの声掛けで、まずはデュラ爺が滑り台に乗る。かなり急勾配な滑り台で、見てるだけでも相当な速さで滑り落ちていく中、さっそく次のリルンが飛び込んだ。
続けてフィーネが太ももの上にスーちゃんを乗せて楽しそうに滑り始め、俺も意を決して滑り台に体を預けた。
するとその瞬間、ヒュッと内臓が持ち上がるような感覚と共に、信じられないほどの速度で体が落ちていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あまりにも怖すぎて、思いっきり叫んでしまった。植物で作られた滑り台なので、たまに切れた葉っぱや小さな枝が体に当たり、もうめちゃくちゃだ。
それに長い! 長すぎる!
俺はぎゅっと目を瞑りながら、必死でラトに伝えた。
「ラト!! バリアして!!」
飛んでくる葉っぱや小さな枝を防いでくれ。そんな思いで伝えた言葉だったけど――ラトには正確に伝わらなかった。
『了解!』
楽しげにそう答えたラトは、俺のお尻の下にバリアを作ったのだ。するとその瞬間、落下速度がぐんっと上がる。
「うわぁぁぁぉぉぁぁぁぁぁっっ!!!」
俺はさらに叫ぶ羽目になった。
『凄い! 楽しいね!! 早くなったよ!!』
楽しげに笑っているラトに、初めてちょっとだけ怒りを覚えたのは内緒だ。
でも仕方ないだろう。だって、もう死にそうだ。誰か助けてくれ……っ、もう止めてくれっ!!
それから体感にして数十分、実際には数分で山の麓まで滑り降りた。滑り台から降りた俺は、その場にへたり込んでしまう。
「もう無理、動けない、辛すぎた……」
マジで人生で一番辛い数分間だった。俺が心からそう思っているのに、フィーネは余裕そうで意外と楽しかったなんて言ってるし、スーちゃんは優雅に毛繕いをしてるし、デュラ爺とリルンはいつも通りで、ラトなんてもう一回とせがんでいる。
いや、これ俺がおかしいんじゃないよな? 皆がおかしいんだよな? 誰か常識人がいてくれないと困る……!
物理的な疲れと、俺の辛さを理解してもらえそうにないことへの精神的な疲れを感じていると、ゴウっと炎が燃え盛るような音が響いた。
そうだ、サラマンダーから色んな人たちを守るために麓に来たんだ。
「エリク、もう動ける?」
フィーネが心配そうに声をかけてくれて、俺は震える足に力を入れて立ち上がる。
「ああ、大丈夫だ。サラマンダーのところに行こう」
そうして俺たちは全員で、サラマンダーがいる場所に向かって駆け出した。
俺の必死な抵抗も虚しく、神獣たちが次々と賛成していく。
『それ楽しそう!』
『確かに一本道ならば早いな』
『私もそれで良いわ』
『うむ。わしも問題はない。植物魔法を使えばすぐに作れるじゃろう』
そんな神獣たちの返答に、フィーネは笑みを深めた。
「じゃあ、さっそく行こうか。エリクも頑張ってね」
「……分かった」
ここで俺だけ怖くて無理だなんて言えないため、俺は頷くしかなかった。正直、俺一人でも歩いて麓まで降りたいけど、そうなるとこの山の中に一人で残ることになる。
歩くのに問題はないとしても、魔物に襲われたら終了だ。俺に選択肢はない。
「大丈夫、怖くない、一瞬で終わる、目を瞑ってればすぐだ、皆も大丈夫なんだから大丈夫、絶対に大丈夫……」
自分に言い聞かせるように呪文のような言葉を唱えていると、さっそくデュラ爺が麓に視線を向けて、植物魔法を発動させた。
すると近くのツル、木の枝、葉などが一斉に動いて、みるみるうちに滑り台が作られていく。土台は木の枝とツルで、俺たちが滑るところには葉が綺麗に敷き詰められているようだ。
『こんなもんかの』
「凄いよデュラ爺!」
フィーネの褒め言葉に、デュラ爺は満更でもなさそうな表情でさらに張り切った。
『さすがに麓までここから作るわけにはいかんからの。わしが滑り降りながら続きの滑り台も作成していく。したがって、わしが先頭を行こう』
「分かった。じゃあ魔物が襲ってきた時のために、一応デュラ爺の近くにはリルンにいてもらって、私たちはその後ろでスーちゃんとラトといるよ。皆はそれで良い?」
滑りながら続きを作っていくって、ちょっと判断ミスしたら山に投げ出されることにならないのか……!?
俺はそう思ったけど、他の皆は全く気にしてないらしい。
『大丈夫! 僕はエリクの肩の上にいようかなぁ』
『私も問題ないわ。フィーネの膝の上を貸しなさい』
「ふふっ、了解」
すぐに俺以外の皆は賛同して、フィーネの視線が俺に向いた。
「エリクもそれで大丈夫?」
「……うん、頑張るよ」
俺は覚悟を決めて頷くと、楽しそうに瞳を輝かせているラトに手を伸ばす。するとラトは俺の手のひらの上に飛び乗り、ルンルンとした楽しげな足取りで肩まで移動した。
『じゃあ、さっそく行こー!』
元気いっぱいなラトの声掛けで、まずはデュラ爺が滑り台に乗る。かなり急勾配な滑り台で、見てるだけでも相当な速さで滑り落ちていく中、さっそく次のリルンが飛び込んだ。
続けてフィーネが太ももの上にスーちゃんを乗せて楽しそうに滑り始め、俺も意を決して滑り台に体を預けた。
するとその瞬間、ヒュッと内臓が持ち上がるような感覚と共に、信じられないほどの速度で体が落ちていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あまりにも怖すぎて、思いっきり叫んでしまった。植物で作られた滑り台なので、たまに切れた葉っぱや小さな枝が体に当たり、もうめちゃくちゃだ。
それに長い! 長すぎる!
俺はぎゅっと目を瞑りながら、必死でラトに伝えた。
「ラト!! バリアして!!」
飛んでくる葉っぱや小さな枝を防いでくれ。そんな思いで伝えた言葉だったけど――ラトには正確に伝わらなかった。
『了解!』
楽しげにそう答えたラトは、俺のお尻の下にバリアを作ったのだ。するとその瞬間、落下速度がぐんっと上がる。
「うわぁぁぁぉぉぁぁぁぁぁっっ!!!」
俺はさらに叫ぶ羽目になった。
『凄い! 楽しいね!! 早くなったよ!!』
楽しげに笑っているラトに、初めてちょっとだけ怒りを覚えたのは内緒だ。
でも仕方ないだろう。だって、もう死にそうだ。誰か助けてくれ……っ、もう止めてくれっ!!
それから体感にして数十分、実際には数分で山の麓まで滑り降りた。滑り台から降りた俺は、その場にへたり込んでしまう。
「もう無理、動けない、辛すぎた……」
マジで人生で一番辛い数分間だった。俺が心からそう思っているのに、フィーネは余裕そうで意外と楽しかったなんて言ってるし、スーちゃんは優雅に毛繕いをしてるし、デュラ爺とリルンはいつも通りで、ラトなんてもう一回とせがんでいる。
いや、これ俺がおかしいんじゃないよな? 皆がおかしいんだよな? 誰か常識人がいてくれないと困る……!
物理的な疲れと、俺の辛さを理解してもらえそうにないことへの精神的な疲れを感じていると、ゴウっと炎が燃え盛るような音が響いた。
そうだ、サラマンダーから色んな人たちを守るために麓に来たんだ。
「エリク、もう動ける?」
フィーネが心配そうに声をかけてくれて、俺は震える足に力を入れて立ち上がる。
「ああ、大丈夫だ。サラマンダーのところに行こう」
そうして俺たちは全員で、サラマンダーがいる場所に向かって駆け出した。
142
お気に入りに追加
2,138
あなたにおすすめの小説
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。