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第3章 黒山編

103、美味しそうな夜ご飯

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 温泉を出て服を着て、デュラ爺とリルンの乾燥はリルンの風魔法に任せたところで、俺はラトと共に離れの中に戻った。

 するとそこではフィーネがまったりとお茶を飲んでいて、スーちゃんもソファーの上で気持ちよさそうに寛いでいる。

「あっ、エリク。出たんだ」
「ああ、デュラ爺とリルンは外の小屋に行った。ラトは見ての通りだ」

 ラトは体を拭いた布の中で、気持ちよさそうに寝てしまったのだ。仕方なく俺が抱いて連れ帰ってきた。

「ふふっ、ラトって本当に可愛いよね」

 そう言ったフィーネがラトの頬を軽く突くと、ラトは僅かに顔を顰めて寝返りを打つ。

『うぅ……』
「起きないな」
「起きないね。夕食を頼んだから、多分良い匂いがしたら目を覚ますんじゃないのかな」

 そんな会話をしながら俺は椅子に腰掛け、フィーネが準備してくれていた冷たいお茶を一気に飲み干した。この離れには、ソファーセットとテーブルセットの両方があるのだ。

「はぁ~、温泉って最高だなぁ」
「分かる。なんだか幸せな気分になるよね」
「本当にそう思う。……そういえば、夕食ってこの宿で出してもらえるのか?」

 部屋を借りる時に、食事について話を聞くのを忘れていた気がする。そう思って問いかけると、フィーネは笑顔で告げた。

「宿の食堂で食べる形なんだって。でも追加でお金を払えば部屋に運んでもらえるらしくて、さっきそれを頼んでおいたよ」
「そうなのか、ありがとう。部屋で食べられるのはありがたいな」
「だよね。神獣たちの分も準備してもらえて、多分あと少しで運ばれてくると思う」
「おお、楽しみだ」

 この宿はいつも泊まってるような宿や一軒家と比べると結構な高級宿だが、やっぱりその分だけ居心地が最高だと思う。

 お金って大切だな……。

 そんな当たり前のことを考えていたら、離れの窓が外から叩かれた。そちらに視線を向けると、カーテンを開け放っている窓から見えたのはリルンの顔だ。

「どうしたんだ?」
『腹が減ったぞ。夕食はまだなのか?』

 リルンは食事が待ち切れないらしい。ラトにリルンに神獣たちは本当に自由だなと思いつつ、苦笑しながら口を開いた。

「もうすぐ運ばれてくるらしいから、もう少し待っててほしい」
『本当か! パンはあるんだろうな。なかったら買いに行くという約束だぞ』
「大丈夫だよ。さっき確認したら、焼きたてのパンがあるって」

 フィーネが笑顔で伝えると、リルンの顔が分かりやすく緩んだ。

『そうか、楽しみだ』

 そんなリルンに笑っていると、さっそく離れの扉がノックされる。

「失礼いたします。夕食をお持ちしました」
「あっ、ありがとうございます」

 フィーネが答えると扉が開かれた。そして入ってきたのは大きなワゴンだ。凄くいい匂いが部屋中に充満する。

「美味しそうだな~」
「本当だね。運んでくださってありがとうございます」
「いえ、お金を払っていただきましたから当然です。こちらテーブルに並べますか?」
「じゃあ、お願いします」
「分かりました」

 それからテーブルには全ての料理が並べられ、もう一つのお皿も乗らないほどにテーブルの上はいっぱいになった。

「こちらで全てです。もし追加の注文をしたければ、食堂まで伝えにきてください。食べ終わった後、食器類はワゴンに戻して廊下に置いていただけるとありがたいです」
「分かりました。そうしておきますね」
「ご協力感謝します」

 宿の従業員さんが部屋を出ていったところで、俺とフィーネは笑顔で顔を見合わせる。

「美味そうだな」
「凄くね。並べてるのを見てたらお腹が空いちゃった」
「さっそく食べるか」
「うん。でもまずは、デュラ爺とリルンに料理を運んであげないと」
「そうだな」

 そうして二人でデュラ爺とリルン用の食事を取り分けていると、体を拭いた布に埋もれたままソファーに寝かせておいたラトが、『うぅ……』と小さな声を発しながら身じろぎしたのが分かった。

 そっとソファーに視線を向けると、我関せずとのんびりしているスーちゃんの横で、ラトが体をモゾモゾと動かしている。
 その様子が可愛くて思わず見守っていると、ラトは突然飛び起きた。

『僕の木の実!!』

 そう叫びながら素早く立ち上がったラトは、キョロキョロと部屋中を見回して、次第に困惑の表情を浮かべる。

『えっと……僕の木の実に、逃げられたのは……』

 多分夢を見ていたのだろう。夢の中でも木の実がでてきて、しかも逃げられてるってところが面白い。

「ラト、目が覚めたか? 温泉から出て体を拭いてたら寝ちゃったんだ。もう夕食だぞ」
「目が覚めたならこっちに来てね。スーちゃんもそろそろご飯だよ」

 フィーネのその言葉にラトは俺の肩へと瞬間移動をして、スーちゃんも身軽にソファーからテーブルに付いている椅子に移動した。

『うわぁぁ、本当だ! 豪華だね!』
『お腹が空いてきたわ』

 瞳を輝かせてるのだろうラトに木の実の盛り合わせを指差すと、ラトの声量が倍になる。

『な、な、何それ!?』

 俺の肩からテーブルに飛び降りたラトは、木の実の盛り合わせの前で感動に震えていた。その様子があまりにも可愛くて面白くて、思わず笑ってしまう。

「ははっ、ラト。もうちょっと落ち着かないとまた体力が切れるぞ」
『こんなの落ち着けないよ! フィーネとスーちゃん見て見て! デュラ爺とリルンも!』

 皆に自慢したいのか全員にキラキラとした瞳を向けるラトに、フィーネは苦笑を浮かべ、スーちゃんは微妙な表情だ。

「良かったね」
『ラト、あなたも神獣なのだから、もう少し落ち着きなさいよ?』

 窓から部屋の中を覗くリルンはラトよりも自分のパンに夢中らしく、デュラ爺はリルンの隣でラトを慈愛の眼差しで見つめている。

 そんな中で二人の食事の取り分けが終わり、俺とフィーネは皿を外に運んだ。
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