76 / 90
第3章 黒山編
103、美味しそうな夜ご飯
しおりを挟む
温泉を出て服を着て、デュラ爺とリルンの乾燥はリルンの風魔法に任せたところで、俺はラトと共に離れの中に戻った。
するとそこではフィーネがまったりとお茶を飲んでいて、スーちゃんもソファーの上で気持ちよさそうに寛いでいる。
「あっ、エリク。出たんだ」
「ああ、デュラ爺とリルンは外の小屋に行った。ラトは見ての通りだ」
ラトは体を拭いた布の中で、気持ちよさそうに寝てしまったのだ。仕方なく俺が抱いて連れ帰ってきた。
「ふふっ、ラトって本当に可愛いよね」
そう言ったフィーネがラトの頬を軽く突くと、ラトは僅かに顔を顰めて寝返りを打つ。
『うぅ……』
「起きないな」
「起きないね。夕食を頼んだから、多分良い匂いがしたら目を覚ますんじゃないのかな」
そんな会話をしながら俺は椅子に腰掛け、フィーネが準備してくれていた冷たいお茶を一気に飲み干した。この離れには、ソファーセットとテーブルセットの両方があるのだ。
「はぁ~、温泉って最高だなぁ」
「分かる。なんだか幸せな気分になるよね」
「本当にそう思う。……そういえば、夕食ってこの宿で出してもらえるのか?」
部屋を借りる時に、食事について話を聞くのを忘れていた気がする。そう思って問いかけると、フィーネは笑顔で告げた。
「宿の食堂で食べる形なんだって。でも追加でお金を払えば部屋に運んでもらえるらしくて、さっきそれを頼んでおいたよ」
「そうなのか、ありがとう。部屋で食べられるのはありがたいな」
「だよね。神獣たちの分も準備してもらえて、多分あと少しで運ばれてくると思う」
「おお、楽しみだ」
この宿はいつも泊まってるような宿や一軒家と比べると結構な高級宿だが、やっぱりその分だけ居心地が最高だと思う。
お金って大切だな……。
そんな当たり前のことを考えていたら、離れの窓が外から叩かれた。そちらに視線を向けると、カーテンを開け放っている窓から見えたのはリルンの顔だ。
「どうしたんだ?」
『腹が減ったぞ。夕食はまだなのか?』
リルンは食事が待ち切れないらしい。ラトにリルンに神獣たちは本当に自由だなと思いつつ、苦笑しながら口を開いた。
「もうすぐ運ばれてくるらしいから、もう少し待っててほしい」
『本当か! パンはあるんだろうな。なかったら買いに行くという約束だぞ』
「大丈夫だよ。さっき確認したら、焼きたてのパンがあるって」
フィーネが笑顔で伝えると、リルンの顔が分かりやすく緩んだ。
『そうか、楽しみだ』
そんなリルンに笑っていると、さっそく離れの扉がノックされる。
「失礼いたします。夕食をお持ちしました」
「あっ、ありがとうございます」
フィーネが答えると扉が開かれた。そして入ってきたのは大きなワゴンだ。凄くいい匂いが部屋中に充満する。
「美味しそうだな~」
「本当だね。運んでくださってありがとうございます」
「いえ、お金を払っていただきましたから当然です。こちらテーブルに並べますか?」
「じゃあ、お願いします」
「分かりました」
それからテーブルには全ての料理が並べられ、もう一つのお皿も乗らないほどにテーブルの上はいっぱいになった。
「こちらで全てです。もし追加の注文をしたければ、食堂まで伝えにきてください。食べ終わった後、食器類はワゴンに戻して廊下に置いていただけるとありがたいです」
「分かりました。そうしておきますね」
「ご協力感謝します」
宿の従業員さんが部屋を出ていったところで、俺とフィーネは笑顔で顔を見合わせる。
「美味そうだな」
「凄くね。並べてるのを見てたらお腹が空いちゃった」
「さっそく食べるか」
「うん。でもまずは、デュラ爺とリルンに料理を運んであげないと」
「そうだな」
そうして二人でデュラ爺とリルン用の食事を取り分けていると、体を拭いた布に埋もれたままソファーに寝かせておいたラトが、『うぅ……』と小さな声を発しながら身じろぎしたのが分かった。
そっとソファーに視線を向けると、我関せずとのんびりしているスーちゃんの横で、ラトが体をモゾモゾと動かしている。
その様子が可愛くて思わず見守っていると、ラトは突然飛び起きた。
『僕の木の実!!』
そう叫びながら素早く立ち上がったラトは、キョロキョロと部屋中を見回して、次第に困惑の表情を浮かべる。
『えっと……僕の木の実に、逃げられたのは……』
多分夢を見ていたのだろう。夢の中でも木の実がでてきて、しかも逃げられてるってところが面白い。
「ラト、目が覚めたか? 温泉から出て体を拭いてたら寝ちゃったんだ。もう夕食だぞ」
「目が覚めたならこっちに来てね。スーちゃんもそろそろご飯だよ」
フィーネのその言葉にラトは俺の肩へと瞬間移動をして、スーちゃんも身軽にソファーからテーブルに付いている椅子に移動した。
『うわぁぁ、本当だ! 豪華だね!』
『お腹が空いてきたわ』
瞳を輝かせてるのだろうラトに木の実の盛り合わせを指差すと、ラトの声量が倍になる。
『な、な、何それ!?』
俺の肩からテーブルに飛び降りたラトは、木の実の盛り合わせの前で感動に震えていた。その様子があまりにも可愛くて面白くて、思わず笑ってしまう。
「ははっ、ラト。もうちょっと落ち着かないとまた体力が切れるぞ」
『こんなの落ち着けないよ! フィーネとスーちゃん見て見て! デュラ爺とリルンも!』
皆に自慢したいのか全員にキラキラとした瞳を向けるラトに、フィーネは苦笑を浮かべ、スーちゃんは微妙な表情だ。
「良かったね」
『ラト、あなたも神獣なのだから、もう少し落ち着きなさいよ?』
窓から部屋の中を覗くリルンはラトよりも自分のパンに夢中らしく、デュラ爺はリルンの隣でラトを慈愛の眼差しで見つめている。
そんな中で二人の食事の取り分けが終わり、俺とフィーネは皿を外に運んだ。
するとそこではフィーネがまったりとお茶を飲んでいて、スーちゃんもソファーの上で気持ちよさそうに寛いでいる。
「あっ、エリク。出たんだ」
「ああ、デュラ爺とリルンは外の小屋に行った。ラトは見ての通りだ」
ラトは体を拭いた布の中で、気持ちよさそうに寝てしまったのだ。仕方なく俺が抱いて連れ帰ってきた。
「ふふっ、ラトって本当に可愛いよね」
そう言ったフィーネがラトの頬を軽く突くと、ラトは僅かに顔を顰めて寝返りを打つ。
『うぅ……』
「起きないな」
「起きないね。夕食を頼んだから、多分良い匂いがしたら目を覚ますんじゃないのかな」
そんな会話をしながら俺は椅子に腰掛け、フィーネが準備してくれていた冷たいお茶を一気に飲み干した。この離れには、ソファーセットとテーブルセットの両方があるのだ。
「はぁ~、温泉って最高だなぁ」
「分かる。なんだか幸せな気分になるよね」
「本当にそう思う。……そういえば、夕食ってこの宿で出してもらえるのか?」
部屋を借りる時に、食事について話を聞くのを忘れていた気がする。そう思って問いかけると、フィーネは笑顔で告げた。
「宿の食堂で食べる形なんだって。でも追加でお金を払えば部屋に運んでもらえるらしくて、さっきそれを頼んでおいたよ」
「そうなのか、ありがとう。部屋で食べられるのはありがたいな」
「だよね。神獣たちの分も準備してもらえて、多分あと少しで運ばれてくると思う」
「おお、楽しみだ」
この宿はいつも泊まってるような宿や一軒家と比べると結構な高級宿だが、やっぱりその分だけ居心地が最高だと思う。
お金って大切だな……。
そんな当たり前のことを考えていたら、離れの窓が外から叩かれた。そちらに視線を向けると、カーテンを開け放っている窓から見えたのはリルンの顔だ。
「どうしたんだ?」
『腹が減ったぞ。夕食はまだなのか?』
リルンは食事が待ち切れないらしい。ラトにリルンに神獣たちは本当に自由だなと思いつつ、苦笑しながら口を開いた。
「もうすぐ運ばれてくるらしいから、もう少し待っててほしい」
『本当か! パンはあるんだろうな。なかったら買いに行くという約束だぞ』
「大丈夫だよ。さっき確認したら、焼きたてのパンがあるって」
フィーネが笑顔で伝えると、リルンの顔が分かりやすく緩んだ。
『そうか、楽しみだ』
そんなリルンに笑っていると、さっそく離れの扉がノックされる。
「失礼いたします。夕食をお持ちしました」
「あっ、ありがとうございます」
フィーネが答えると扉が開かれた。そして入ってきたのは大きなワゴンだ。凄くいい匂いが部屋中に充満する。
「美味しそうだな~」
「本当だね。運んでくださってありがとうございます」
「いえ、お金を払っていただきましたから当然です。こちらテーブルに並べますか?」
「じゃあ、お願いします」
「分かりました」
それからテーブルには全ての料理が並べられ、もう一つのお皿も乗らないほどにテーブルの上はいっぱいになった。
「こちらで全てです。もし追加の注文をしたければ、食堂まで伝えにきてください。食べ終わった後、食器類はワゴンに戻して廊下に置いていただけるとありがたいです」
「分かりました。そうしておきますね」
「ご協力感謝します」
宿の従業員さんが部屋を出ていったところで、俺とフィーネは笑顔で顔を見合わせる。
「美味そうだな」
「凄くね。並べてるのを見てたらお腹が空いちゃった」
「さっそく食べるか」
「うん。でもまずは、デュラ爺とリルンに料理を運んであげないと」
「そうだな」
そうして二人でデュラ爺とリルン用の食事を取り分けていると、体を拭いた布に埋もれたままソファーに寝かせておいたラトが、『うぅ……』と小さな声を発しながら身じろぎしたのが分かった。
そっとソファーに視線を向けると、我関せずとのんびりしているスーちゃんの横で、ラトが体をモゾモゾと動かしている。
その様子が可愛くて思わず見守っていると、ラトは突然飛び起きた。
『僕の木の実!!』
そう叫びながら素早く立ち上がったラトは、キョロキョロと部屋中を見回して、次第に困惑の表情を浮かべる。
『えっと……僕の木の実に、逃げられたのは……』
多分夢を見ていたのだろう。夢の中でも木の実がでてきて、しかも逃げられてるってところが面白い。
「ラト、目が覚めたか? 温泉から出て体を拭いてたら寝ちゃったんだ。もう夕食だぞ」
「目が覚めたならこっちに来てね。スーちゃんもそろそろご飯だよ」
フィーネのその言葉にラトは俺の肩へと瞬間移動をして、スーちゃんも身軽にソファーからテーブルに付いている椅子に移動した。
『うわぁぁ、本当だ! 豪華だね!』
『お腹が空いてきたわ』
瞳を輝かせてるのだろうラトに木の実の盛り合わせを指差すと、ラトの声量が倍になる。
『な、な、何それ!?』
俺の肩からテーブルに飛び降りたラトは、木の実の盛り合わせの前で感動に震えていた。その様子があまりにも可愛くて面白くて、思わず笑ってしまう。
「ははっ、ラト。もうちょっと落ち着かないとまた体力が切れるぞ」
『こんなの落ち着けないよ! フィーネとスーちゃん見て見て! デュラ爺とリルンも!』
皆に自慢したいのか全員にキラキラとした瞳を向けるラトに、フィーネは苦笑を浮かべ、スーちゃんは微妙な表情だ。
「良かったね」
『ラト、あなたも神獣なのだから、もう少し落ち着きなさいよ?』
窓から部屋の中を覗くリルンはラトよりも自分のパンに夢中らしく、デュラ爺はリルンの隣でラトを慈愛の眼差しで見つめている。
そんな中で二人の食事の取り分けが終わり、俺とフィーネは皿を外に運んだ。
143
お気に入りに追加
2,138
あなたにおすすめの小説
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。