外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗

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第3章 黒山編

102、泡だらけの露天風呂

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 準備をして皆で露天風呂に入ると、そこはとても綺麗で雰囲気のある場所だった。手前に体を洗う場所があり、奥にある湯船……と言って正解なのか分からないけど、温泉は横に広い。

 温泉を形作るのは綺麗な岩で、さらにいくつもの植物や花が植えられていた。自然と温泉を共に楽しめる形だ。

 そんな温泉にぷかぷか浮かぶ一つの桶には、半分ほどに温泉の湯が入っていて、中には恍惚とした表情のラトがいた。

「ラト~」

 俺は苦笑しながらラトに声をかける。するとラトは薄目を開いて、小さな手を上げた。

『あっ、エリク来たんだ~。リルンとデュラ爺も。温泉最高に気持ちいいよ~』

 ラトの顔を見れば、気持ちいいのは一瞬で分かる。

「良かったな。フィーネから果実水を貰ってきたから飲むか?」
『あっ、飲む飲むー。リルン、風魔法でちょっとこの桶を端に寄せてくれない?』

 どこまでもまったりとして自分で動きたくないらしいラトは、移動までリルンに頼んだ。

『仕方がないな』
『エリクはそのお盆、こっちに持ってきてくれたら嬉しいなぁ~』
「はいはい」

 なんだかんだ全員がラトには甘いので要望通りに動き、ラトが果実水を飲んだことを確認してから、俺たちはまず体を洗うことにした。

 温泉に入る前は、体を清めるのがマナーだからな。

 ただリルンとデュラ爺、二人の体を洗うのはかなり重労働だろう。でも……やるしかないな。

「よしっ、二人とも、この機会に全身綺麗にするぞ!」
『むっ、このままではダメなのか?』
「温泉が汚れたら申し訳ないだろ」
『リルン、仕方がないことじゃ。エリク、頼んだぞ』
「任せとけ!」

 俺は気合を入れて桶を両手に持つと、まずは二人の体をお湯で濡らすことにした。

「二人ともそこに寝そべってくれ」

 洗いやすいよう横になってもらい、湯船と二人の下を何度も往復して湯をかけていく。

『気持ちいいな』
『本当じゃな』

 二人は気持ちよさそうに目を細めているが、俺は温泉にいるはずなのに、なぜか汗だくで重労働だ。

「思ってたよりも大変だった……」

 でもやり始めたら最後までやらないと。普段はあんまり水浴びもしない二人だから、意外と汚れは蓄積してるはずだ。

 気合いで二人の毛を濡らしたら、次は石鹸を手に取った。まずはリルンからと、石鹸を直接体に当てて泡立てていく。

「おおっ、めっちゃ泡立つぞ!」
『これは悪くないな』

 石鹸を置いてわしゃわしゃと両手で毛を洗うようにすると、俺もなんだか気持ちが良かった。

「リルンの毛、泡立ちがいいなぁ」
『ふんっ、当たり前だ』

 顔まで全部を洗ったら、いったんリルンには待機してもらって次はデュラ爺だ。デュラ爺も体はリルンと同じように洗ったけど、デュラ爺の方が毛が硬くて短めで、あまり泡立たない。

「結構毛質が違うんだな」

 そんなことを呟きながら顔まで洗い終え、最後にツノも綺麗にした。

「よしっ、完璧だ」

 達成感を覚えながら二人に視線を向けると、そこには全身泡だらけで前も見えてなさそうな二人がいる。

「ぶはっ……っ、ふ、二人とも、なんか可愛いな」

 思わず吹き出してしまうと、ラトの声も聞こえてきた。

『もこもこで可愛い!』

 そんな俺たちの感想に、リルンは不満げだ。デュラ爺はさすが大人で、甘んじてその感想を受け入れている。なんなら気持ちよくて寝そう……なのか?

『我は可愛いではなく、カッコいいのだ』
「はいはい、そうだな~」
『エリク、絶対に分かっていないな?』
「分かってるって」

 リルンとそんな会話をしながらまた桶にお湯を掬い、それを二人の体にかけた。まずは顔から、そして体の泡も丁寧に落としていく。

 流すのも予想以上に大変で時間が掛かったが――二人の丸洗い、終了だ!

 そこには水で濡れてへたっているが、心なしかさっきまでよりも輝いている二人がいた。

「完璧だな」
『まあ、悪くない』
『エリク、気持ち良かったぞ』
「それなら良かった。じゃあ二人は湯船に入っててくれ、俺も自分を洗ってすぐに行く」

 そうして二人を送り出し、俺も全身を綺麗にして……ついに温泉だ。

 三人以外誰もいないので、ど真ん中にざぶんと体を沈めると、その気持ちよさに思わず大きく息を吐き出してしまった。

「ふわぁ……」

 なんだこれ、気持ち良すぎる。温泉って最高だな。

『エリク、気持ちいいでしょ?』
「ああ、幸せになるな。……でもラトはそろそろ出た方がいいんじゃないか? 体調悪くなるぞ」
『ううん、もうちょっと大丈夫~。さっき果実水も飲んだからね。それよりもエリク、桶の温泉を入れ替えてくれない?』

 そう言われて桶に手を入れてみると、少しだけ冷えているように感じた。小さな桶の中の温泉の湯は、少しすると冷えてしまうみたいだ。

「分かった。じゃあラトはデュラ爺の頭の上な」

 近くにいたデュラ爺のところにラトを移動させ、桶のお湯を新しいものに入れ替えた。お湯をたっぷり入れようとしたら桶が沈んだので、ちょうどいい塩梅が大切らしい。

「はいラト、できたぞ」
『ありがと~』
 
 またラトを桶に入れると、顔がふにゃりと気持ちよさそうに崩れる。

『はぁ~、幸せ~』

 そんなラトに苦笑しつつ、俺もまた温泉に肩まで浸かった。

『温泉はやはり素晴らしいものじゃな』
『悪くないな』

 デュラ爺とリルンのそんな言葉に同意しながら、それからも皆でのんびりと温泉を楽しんだ。
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