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第3章 黒山編

101、朱鉄と露天風呂へ

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 デュラ爺から朱鉄を受け取り、二人の近くで短い草が生えていた地面に腰掛けた。

『なんだ、ここにいるのか?』

 するとそんな俺に、リルンが少しだけ邪魔者扱いするような声音でそう告げる。しかし俺は気にせずに頷いた。

「ああ、一人じゃ……寂しいんだ」

 煩悩に悩まされてとはさすがに言えず、そう伝えると、リルンには顔を顰められてしまった。

「なんだよリルン、そんな顔するなって~」

 多分ツンデレだろうリルンにギュッと抱きつくと、前脚で退けられそうになるが、腕に力を入れてリルンから離れないようにする。

『エリク、今日は随分と面倒くさいぞ?』
「嬉しいだろ?」
『全くそんなことはない。鬱陶しい』

 そうは言ってるけど、リルンが俺を退けようとする前脚に力は入ってない……ん? 意外と入ってるな。ちょ、ちょっと待って。力入れすぎじゃない!? 痛いって!

 リルンに前脚をグイグイと押し付けられ、俺の肩が悲鳴を上げている。

「ちょっとリルン、酷くないか!?」
『エリクが悪い』
「今日は一人でいたくない気分なんだっ」

 そんな押し問答を繰り返し、前脚がめり込む痛みに耐えていると……デュラ爺が声を掛けてくれた。

『リルン、良いではないか。皆でいた方が楽しいじゃろう?』
「さすがデュラ爺……! ありがとな」
『礼には及ばない。ここにいるならば、植物で椅子を作ろう』

 そう言ったデュラ爺が、近くに生えていた植物から小さな丸椅子を作り出してくれたところで、リルンの前脚から力が抜ける。

『まあ、好きにしろ』

 リルンからも許しをもらったところで、俺はさっそく丸椅子に腰掛けてみた。

「おおっ、座り心地がいいな」

 座面がとても柔らかくて、何よりも俺にぴったりと合っている。さすがデュラ爺、精度もいいんだな。

『それならば良かった。また何かあれば言ってくれて構わない』

 そんな優しいデュラ爺に感謝を伝えつつ、俺はやっと朱鉄の観察に移った。入手してからしっかりと見たのは初めてなので、まずはその材質から確認していく。

 見たところの材質はつるりとしているというよりも、ざらっとしてる感じだな。触ってみてもざらざらとした感触があり、ヤスリになりそうな感じだ。

 少し爪で擦ってみると、それだけで薄い傷が付いた。

 硬さもなさそうだな。鉄って名前だけど、この素材の段階では脆いみたいだ。粉状にして使うか、水に溶かすか、長時間水に浸けておくのも試そう。

 あとは、熱することでの変化も見たいな。もしかしたら硬い金属に変化するのかもしれない。

『何か分かりそうなのか?』

 真剣に朱鉄と向き合っていたら、大欠伸をしたリルンがそう聞いてきた。

「この素材の性質はいくつか分かったな。ただ様々な条件で負荷をかけてみたい」

 あっ、そうだ。デュラ爺の使い道がない異空間に収納してもらうのもありかもしれない。特に高温で熱したりするのは、設備を準備するのがまず大変だ。
 それがいらないとなれば、一気に検証は楽になる。

「デュラ爺、頼みたいことがあるんだけど……」

 それからデュラ爺に相談したり、なんだかんだ興味深そうなリルンと話したりしていると、フィーネの声が聞こえてきた。

「あれ、エリクー? 露天風呂空いたよ~」

 離れの部屋の中から聞こえて来た声に、俺も声を張って返答する。

「分かった! すぐ行くー!」

 そう返すと、離れからフィーネが顔を出した。フィーネの腕の中には満足そうに顔を洗うスーちゃんがいて、露天風呂が最高だと一目で分かる。

「二人のところにいたんだね。ラトが温泉を気に入っちゃって、まだ一人で入ってるから、早めに行ってあげてくれる?」

 ラト、そんなに気に入ったのか。一人で温泉にぷかぷか浮かぶラトを想像すると、ほっこりした。

 ラトのおかげでフィーネと同じ部屋に泊まるなんて……という煩悩は消し去ることができ、大感謝だ。

 やっぱり可愛いは最強だな。

「すぐ行くよ」
「ありがとう。脱水になるといけないから、果実水を飲ませてあげて」

 フィーネはそう言って、ついさっき準備したのだろう果実水を渡してくれた。ラト用の小さなコップとピッチャーが、お盆に乗せられている。

「分かった、準備ありがとな。じゃあデュラ爺、リルン、行こうか」
『うむ、早く行くぞ』
『もちろんじゃ』
「ゆっくりしてきてね~」

 そうして俺たちは笑顔のフィーネに見送られ、一人でまったりと楽しんでいるのだろうラトが待つ、露天風呂に向かった。
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