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第3章 黒山編
100、小悪魔フィーネ
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離れを皆で見て回っていると、俺は信じられない事実に気づいた。
「え、待って。ちょっと待って……!」
俺がそう叫びながらフィーネに視線を向けると、フィーネはニコニコと笑みを浮かべている。
これ、絶対に気付いてて言わなかったやつじゃん! というか俺、なんでこんな基本的なことに気づかなかったんだ!
「ごめんフィーネ、離れって一部屋しかないんだな……」
そう、一部屋しかないのだ。当然ベッドは隣り合ってるし、露天風呂も一つしかない。
「ふふっ、やっと気付いた。絶対エリク忘れてるなって思ってたの」
「それなら言ってくれれば良かったのに……! ごめん、俺だけ本館の方に部屋を借りてくるよ。離れはフィーネが皆と泊まってくれ……」
そう言いながら俺が離れから出ようとしたら、フィーネに腕を掴まれた。
「ごめんごめん、エリクだけ追い出すことなんてしないよ。エリクなら信頼できるし、一緒に離れでも良いよ」
フィーネからのその言葉に、俺はうぐぅ……と思わず変な声を出してしまう。フィーネからの信頼は嬉しいけど、正直フィーネはかなり可愛いのだ。
――俺が自分を信頼できない。
でもせっかく信頼して提案してくれてるのに、断るのも躊躇われる。
どうしようかと悩んでいると、ラトに声を掛けられた。
『エリクも一緒に泊まろう!』
そのラトが凄く可愛くて、俺は気づいたら頷いていた。
「……分かった」
頷いてから後悔しても、もう遅い。できれば早めに純黒玉を見つけよう……。
「じゃあ、さっそく休もうか。あっ、露天風呂はさすがに別れて入ろうね?」
フィーネに顔を覗き込まれながら、そんな言葉をかけられた。俺はその言葉に顔に熱が集まるのを感じ、それを誤魔化すように食い気味に頷く。
「も、もちろん! 別々で!」
なんだかフィーネに遊ばれてる気がするな……ここはちゃんと余裕を見せないと。フィーネのいい仲間として。
深呼吸をして浮き立つ心を押さえてから、ゆっくりと口を開いた。
「――俺がデュラ爺とリルンと入るよ。フィーネはスーちゃんとラトと入ったらいいんじゃないか?」
「確かにそうだね。じゃあラト、スーちゃん、一緒に入ろうか」
『うん!』
『分かったわ。のんびりしましょう』
それからはさっそく温泉を楽しもうということで、まずはフィーネたちが露天風呂に向かった。その間にリルンとデュラ爺は外の小屋で待機していて、俺は一人で離れの中だ。
椅子に腰掛けて大きく息を吐き出し、雑念を吹き飛ばそうと目を閉じたのに……さっきまでのやりとりを思い出してしまった。そして今まさに、フィーネがすぐそこで温泉に入っていることも。
「はぁ、フィーネが俺を揶揄うから……」
前よりも打ち解けたと考えると嬉しいけど、確実に心労は増えた。
一緒に旅をしてる仲間の女性に揶揄われてるなんて、以前の俺が聞いたら羨ましい以外の感情が湧いてこなかっただろうけど……実際にその立場になると、意外と辛い。
フィーネって、俺のことどう思ってるんだろうな。正直俺は可愛いフィーネとずっと一緒に冒険者として活動していたら、自然と好意を抱いていた。
いや、これ好意を持たないほうがおかしいよな?
それをほとんど悟られないように振る舞えてる俺、かなり頑張ってると思う。
好意を伝えたらフィーネはどう反応してくれるのか。受け入れてもらえたら最高だけど、そんなつもりじゃなかったとか……断られたら絶望だ。これからの旅にも確実に影響が出る。
そう考えたら、絶対に今の関係を維持する方がいい。うん、そうだ。それがいい。まだ知り合ってから長い時間は経ってないし。
「頑張れ俺」
もっと違うことを考えよう。今日の夜ご飯、明日からの探索。そうだ、スキル封じの石を錬金する時のことを考えるべきかも知れない。
そろそろ必要な素材集めも佳境だし、今から脳内でシミュレーションしておくのは大切だ。絶対に失敗できない、成功させないといけない錬金なんだから。
素材全てを使っても成功できなかったら……それこそ絶望だ。
そう考えた俺は、デュラ爺とリルンがいる外の小屋に向かった。すると部屋の中にいるよりも露天風呂からの音が大きく聞こえてきたけど、雑念は振り払って気にしないようにする。
「デュラ爺、ちょっといいか?」
大欠伸をしているリルンと、目を瞑っていたデュラ爺を見たら、なんだか心が落ち着いた。やっぱり一人でいるのは良くないな。
『ん、なんじゃ?』
「ここまでに集めた素材を出してもらいたくて来たんだ。どうやって処理をするのか、考えておこうと思ってな」
『そういうことか、もちろんじゃ。なんの素材にする?』
「そうだな……朱鉄で」
『了解した』
デュラ爺はすぐに小さめの朱鉄を取り出してくれて、俺はそれを手に取った。
「え、待って。ちょっと待って……!」
俺がそう叫びながらフィーネに視線を向けると、フィーネはニコニコと笑みを浮かべている。
これ、絶対に気付いてて言わなかったやつじゃん! というか俺、なんでこんな基本的なことに気づかなかったんだ!
「ごめんフィーネ、離れって一部屋しかないんだな……」
そう、一部屋しかないのだ。当然ベッドは隣り合ってるし、露天風呂も一つしかない。
「ふふっ、やっと気付いた。絶対エリク忘れてるなって思ってたの」
「それなら言ってくれれば良かったのに……! ごめん、俺だけ本館の方に部屋を借りてくるよ。離れはフィーネが皆と泊まってくれ……」
そう言いながら俺が離れから出ようとしたら、フィーネに腕を掴まれた。
「ごめんごめん、エリクだけ追い出すことなんてしないよ。エリクなら信頼できるし、一緒に離れでも良いよ」
フィーネからのその言葉に、俺はうぐぅ……と思わず変な声を出してしまう。フィーネからの信頼は嬉しいけど、正直フィーネはかなり可愛いのだ。
――俺が自分を信頼できない。
でもせっかく信頼して提案してくれてるのに、断るのも躊躇われる。
どうしようかと悩んでいると、ラトに声を掛けられた。
『エリクも一緒に泊まろう!』
そのラトが凄く可愛くて、俺は気づいたら頷いていた。
「……分かった」
頷いてから後悔しても、もう遅い。できれば早めに純黒玉を見つけよう……。
「じゃあ、さっそく休もうか。あっ、露天風呂はさすがに別れて入ろうね?」
フィーネに顔を覗き込まれながら、そんな言葉をかけられた。俺はその言葉に顔に熱が集まるのを感じ、それを誤魔化すように食い気味に頷く。
「も、もちろん! 別々で!」
なんだかフィーネに遊ばれてる気がするな……ここはちゃんと余裕を見せないと。フィーネのいい仲間として。
深呼吸をして浮き立つ心を押さえてから、ゆっくりと口を開いた。
「――俺がデュラ爺とリルンと入るよ。フィーネはスーちゃんとラトと入ったらいいんじゃないか?」
「確かにそうだね。じゃあラト、スーちゃん、一緒に入ろうか」
『うん!』
『分かったわ。のんびりしましょう』
それからはさっそく温泉を楽しもうということで、まずはフィーネたちが露天風呂に向かった。その間にリルンとデュラ爺は外の小屋で待機していて、俺は一人で離れの中だ。
椅子に腰掛けて大きく息を吐き出し、雑念を吹き飛ばそうと目を閉じたのに……さっきまでのやりとりを思い出してしまった。そして今まさに、フィーネがすぐそこで温泉に入っていることも。
「はぁ、フィーネが俺を揶揄うから……」
前よりも打ち解けたと考えると嬉しいけど、確実に心労は増えた。
一緒に旅をしてる仲間の女性に揶揄われてるなんて、以前の俺が聞いたら羨ましい以外の感情が湧いてこなかっただろうけど……実際にその立場になると、意外と辛い。
フィーネって、俺のことどう思ってるんだろうな。正直俺は可愛いフィーネとずっと一緒に冒険者として活動していたら、自然と好意を抱いていた。
いや、これ好意を持たないほうがおかしいよな?
それをほとんど悟られないように振る舞えてる俺、かなり頑張ってると思う。
好意を伝えたらフィーネはどう反応してくれるのか。受け入れてもらえたら最高だけど、そんなつもりじゃなかったとか……断られたら絶望だ。これからの旅にも確実に影響が出る。
そう考えたら、絶対に今の関係を維持する方がいい。うん、そうだ。それがいい。まだ知り合ってから長い時間は経ってないし。
「頑張れ俺」
もっと違うことを考えよう。今日の夜ご飯、明日からの探索。そうだ、スキル封じの石を錬金する時のことを考えるべきかも知れない。
そろそろ必要な素材集めも佳境だし、今から脳内でシミュレーションしておくのは大切だ。絶対に失敗できない、成功させないといけない錬金なんだから。
素材全てを使っても成功できなかったら……それこそ絶望だ。
そう考えた俺は、デュラ爺とリルンがいる外の小屋に向かった。すると部屋の中にいるよりも露天風呂からの音が大きく聞こえてきたけど、雑念は振り払って気にしないようにする。
「デュラ爺、ちょっといいか?」
大欠伸をしているリルンと、目を瞑っていたデュラ爺を見たら、なんだか心が落ち着いた。やっぱり一人でいるのは良くないな。
『ん、なんじゃ?』
「ここまでに集めた素材を出してもらいたくて来たんだ。どうやって処理をするのか、考えておこうと思ってな」
『そういうことか、もちろんじゃ。なんの素材にする?』
「そうだな……朱鉄で」
『了解した』
デュラ爺はすぐに小さめの朱鉄を取り出してくれて、俺はそれを手に取った。
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