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第3章 黒山編
98、船旅終了
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次の日の朝。朝日が昇るのとほぼ同時に目覚めた俺たちは、朝ご飯に軽く木の実やパンを食べて、街に帰る準備を進めた。
デュラ爺の植物魔法によって植物船まで下ろしてもらい、船に戻る。
その間にラトがデュラ爺の動かす蔦に乗り、スリルを味わいたがったので、デュラ爺はラトに蔦を巻き付けるような形でしっかり固定すると、水面ギリギリから一気に急上昇させたり水面を素早く移動させたりと、ラトの要望に応えていた。
ラトはよくあれを楽しめるよな……大興奮のラトの声が聞こえてくるたび、遠い目になってしまう。俺は昨日、本当に死んだかと思ったぐらい怖かったのに。
というか今思うと、昨日は海に落ちかけて、倒れてくる壁の下敷きになりかけて、二回も死の恐怖を味わってるって凄くないか?
「もうちょっと平和に生きたいな……」
思わずそんな言葉を呟いていると、楽しそうに笑っているラトに声を掛けられた。
『エリクも一緒にやろう!?』
「……いや、俺はいいよ。ラトが満足するまで楽しんでくれ」
『そうなの? でも一緒にやったら楽しいよ……?』
ラトはちょっとだけ落ち込んだ声音で、可愛い眼差しを向けてくる。俺はそんなラトにグッと心臓を鷲掴みにされ、思わず頷きかけて……なんとか首を横に振った。
「い、いや、俺はやめておく」
『そっかぁ~。じゃあデュラ爺、もう一回お願い!』
『分かった。ではいくぞ』
『うん!』
ラトが遊びを再開してから、大きく息を吐き出した。
頑張った、よく断った俺。可愛いラトに釣られて頷いたりなんかしたら、今頃大きく後悔していたはずだ。
内心で自分を褒めていたら、フィーネに声を掛けられた。
「エリク、ちょっと手伝ってくれる?」
フィーネは船の片付けをしているようだ。確かに返す時には綺麗に返すべきだな。
「もちろん」
それから俺たちは船の片付けをしてラトとデュラ爺を待ち、皆が船に戻ってきたところで街に向けて出航した。
しばらく魚釣りのようなものを楽しみながら風に吹かれていると、デルダード王国の首都である港街が見えてきた。
時間は日が一番高い時間を少し過ぎた頃という微妙なものだったので、港に人は少ないように見える。
ただ俺たちの船が沖に見えたからか、ちらほらと人が集まってきてくれているのが遠目に映った。
「リルン、最後はゆっくり慎重にな」
「港にぶつけたりしないようにね」
『分かっている。もうこの船の扱いは完璧だから問題ない』
そう言って船首に立つリルンは、かなり頼もしかった。リルンはこの数日で完璧に船の扱い方を身につけたようで、今日の帰りなんて凄く快適な船旅だったのだ。
もうあのスピード狂のリルンはいない。
「また船に乗る機会を作ってあげたほうがいいかな」
フィーネに小声で問いかけると、生き生きとしたリルンを見てから、フィーネは苦笑しつつ頷く。
「そうだね……あんなに楽しそうなリルンは、パンを食べてる時以外で初めて見たかも」
「だよな」
「定期的に海がある国を巡って、あとは広い湖とかで小さな船もありかな」
「確かに。湖はまた違った楽しさがありそうだ」
湖なら基本的に波がないし、俺たちも乗っていてより快適だろう。海ほど怖い魔物もいないはずだから、ちょっとは泳ぐこともできるかもしれない。
いや、それより先に温泉だったな。
大量の水に入るというところから、黒山にある温泉のことを思い出した。温泉って従魔でも入れるんだろうか。貸切みたいなところがあったらいいけど。
「帰ってきましたー!」
色々と考えていたら、隣のフィーネが大きく手を振って声を張った。そこで陸に視線を向けると、アルフさんが待機してくれているのが見える。
「あっ、来てくれたんだな」
「ありがたいよね」
船はかなり陸に近づいていて、もう動きはゆっくりだ。危なげなく陸に近づいていき……すぐに船は停止した。
『着いたぞ。船を固定してくれ』
「分かった。リルン、ありがとな」
「快適な船旅だったよ」
俺とフィーネがそう伝えると、リルンはドヤ顔でふふんっと鼻息を荒くする。そんなリルンが可愛くて思わず抱きつきたくなったが、そんなことをしたら嫌がられるのは明白なので、なんとか思い留まった。
事前に教えてもらっていた通りに船を固定して、港に下りる。
「アルフさん、ただいま戻りました」
「無事のご帰還、本当に良かったです。予想以上に早くて驚きました」
「リルンが張り切ったんです」
フィーネが苦笑しつつ告げた言葉に、アルフさんは朱鉄島からの帰りを思い出したのだろう。苦笑しながら納得するように頷いてくれた。
「では船は受け取りますね」
「はい、よろしくお願いします。あっ、もし傷などがあれば言ってください」
「分かりました。確認しておきます」
「ありがとうございます。あ、そうだ。実は大量にお土産があって……」
それから俺とフィーネは、船から下ろした大量の魚を港に集まる皆さんに配った。あまりにも量が多くて、絶対に自分たちだけでは消費できないと思ったのだ。
俺たちには分からなかったが、予想外に希少な魚も混じっていたようで、港は大盛り上がりとなった。あれよあれよという間にその場で試食会が始まり、そのままバーベキューのような賑わいを見せ――
その日は終始楽しく、港で時間を過ごした。
デュラ爺の植物魔法によって植物船まで下ろしてもらい、船に戻る。
その間にラトがデュラ爺の動かす蔦に乗り、スリルを味わいたがったので、デュラ爺はラトに蔦を巻き付けるような形でしっかり固定すると、水面ギリギリから一気に急上昇させたり水面を素早く移動させたりと、ラトの要望に応えていた。
ラトはよくあれを楽しめるよな……大興奮のラトの声が聞こえてくるたび、遠い目になってしまう。俺は昨日、本当に死んだかと思ったぐらい怖かったのに。
というか今思うと、昨日は海に落ちかけて、倒れてくる壁の下敷きになりかけて、二回も死の恐怖を味わってるって凄くないか?
「もうちょっと平和に生きたいな……」
思わずそんな言葉を呟いていると、楽しそうに笑っているラトに声を掛けられた。
『エリクも一緒にやろう!?』
「……いや、俺はいいよ。ラトが満足するまで楽しんでくれ」
『そうなの? でも一緒にやったら楽しいよ……?』
ラトはちょっとだけ落ち込んだ声音で、可愛い眼差しを向けてくる。俺はそんなラトにグッと心臓を鷲掴みにされ、思わず頷きかけて……なんとか首を横に振った。
「い、いや、俺はやめておく」
『そっかぁ~。じゃあデュラ爺、もう一回お願い!』
『分かった。ではいくぞ』
『うん!』
ラトが遊びを再開してから、大きく息を吐き出した。
頑張った、よく断った俺。可愛いラトに釣られて頷いたりなんかしたら、今頃大きく後悔していたはずだ。
内心で自分を褒めていたら、フィーネに声を掛けられた。
「エリク、ちょっと手伝ってくれる?」
フィーネは船の片付けをしているようだ。確かに返す時には綺麗に返すべきだな。
「もちろん」
それから俺たちは船の片付けをしてラトとデュラ爺を待ち、皆が船に戻ってきたところで街に向けて出航した。
しばらく魚釣りのようなものを楽しみながら風に吹かれていると、デルダード王国の首都である港街が見えてきた。
時間は日が一番高い時間を少し過ぎた頃という微妙なものだったので、港に人は少ないように見える。
ただ俺たちの船が沖に見えたからか、ちらほらと人が集まってきてくれているのが遠目に映った。
「リルン、最後はゆっくり慎重にな」
「港にぶつけたりしないようにね」
『分かっている。もうこの船の扱いは完璧だから問題ない』
そう言って船首に立つリルンは、かなり頼もしかった。リルンはこの数日で完璧に船の扱い方を身につけたようで、今日の帰りなんて凄く快適な船旅だったのだ。
もうあのスピード狂のリルンはいない。
「また船に乗る機会を作ってあげたほうがいいかな」
フィーネに小声で問いかけると、生き生きとしたリルンを見てから、フィーネは苦笑しつつ頷く。
「そうだね……あんなに楽しそうなリルンは、パンを食べてる時以外で初めて見たかも」
「だよな」
「定期的に海がある国を巡って、あとは広い湖とかで小さな船もありかな」
「確かに。湖はまた違った楽しさがありそうだ」
湖なら基本的に波がないし、俺たちも乗っていてより快適だろう。海ほど怖い魔物もいないはずだから、ちょっとは泳ぐこともできるかもしれない。
いや、それより先に温泉だったな。
大量の水に入るというところから、黒山にある温泉のことを思い出した。温泉って従魔でも入れるんだろうか。貸切みたいなところがあったらいいけど。
「帰ってきましたー!」
色々と考えていたら、隣のフィーネが大きく手を振って声を張った。そこで陸に視線を向けると、アルフさんが待機してくれているのが見える。
「あっ、来てくれたんだな」
「ありがたいよね」
船はかなり陸に近づいていて、もう動きはゆっくりだ。危なげなく陸に近づいていき……すぐに船は停止した。
『着いたぞ。船を固定してくれ』
「分かった。リルン、ありがとな」
「快適な船旅だったよ」
俺とフィーネがそう伝えると、リルンはドヤ顔でふふんっと鼻息を荒くする。そんなリルンが可愛くて思わず抱きつきたくなったが、そんなことをしたら嫌がられるのは明白なので、なんとか思い留まった。
事前に教えてもらっていた通りに船を固定して、港に下りる。
「アルフさん、ただいま戻りました」
「無事のご帰還、本当に良かったです。予想以上に早くて驚きました」
「リルンが張り切ったんです」
フィーネが苦笑しつつ告げた言葉に、アルフさんは朱鉄島からの帰りを思い出したのだろう。苦笑しながら納得するように頷いてくれた。
「では船は受け取りますね」
「はい、よろしくお願いします。あっ、もし傷などがあれば言ってください」
「分かりました。確認しておきます」
「ありがとうございます。あ、そうだ。実は大量にお土産があって……」
それから俺とフィーネは、船から下ろした大量の魚を港に集まる皆さんに配った。あまりにも量が多くて、絶対に自分たちだけでは消費できないと思ったのだ。
俺たちには分からなかったが、予想外に希少な魚も混じっていたようで、港は大盛り上がりとなった。あれよあれよという間にその場で試食会が始まり、そのままバーベキューのような賑わいを見せ――
その日は終始楽しく、港で時間を過ごした。
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