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第3章 黒山編

94、洞窟へ

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 植物魔法が適応されるのは採取前の植物、または採取からあまり時間が経っていない植物のみに限定されるので、植物船の入り口はもうデュラ爺の魔法では開けられなかった。
 そこで上部を物理的にこじ開けて、入口を作る。

 結構な高さなので怖かったけど植物船の中に飛び降りると、海の上で不安定な足場に着地は失敗し、派手に転がった。

「うぅ……」

 呻きながらフィーネが降りてくる場所を空けると、フィーネはリルンの背中に乗って身軽に降りてきた。

「俺もそれが良かった……!」
『エリクの様子を見て思いついたのだから、仕方ないだろう? 最近は鍛錬もサボり気味であるし、少しは鍛えた方が良いぞ』

 リルンにそう言われてしまうと、何も言い返せずに言葉が詰まる。確かに神獣の皆があまりにも強すぎて、俺が鍛錬する必要性を感じなくなってるんだよな……でも身の安全のためにも、もう少しは頑張ったほうがいいのかも。

 そんなことを考えているうちに全員が乗り込み、リルンによって植物船が動かされた。洞窟まではすぐそこなので、一瞬で洞窟の真下にある海面に到着する。

『次はわしの出番じゃな』

 デュラ爺はまず一つの植物を取り出すと、植物船を近くの岩場に固定した。それからもう一つの鉢を取り出し、そこに植えられた蔦植物で座れる場所を作ってくれる。そこに座ると蔦が上に伸びていき、洞窟の入り口まで運んでくれるそうだ。

『どちらから行く?』

 その問いかけに、俺はフィーネに視線を向けた。

「どうする? あっ、リルンも蔦に乗っていくか?」

 スーちゃんは自力で登れるだろうしラトも瞬間移動がある。あとはリルンだと思って問いかけると、リルンはふんっと荒い鼻息で自慢げに告げた。

『いや、我はこの場所からなら、洞窟の入り口まで登るなど造作もない』
 
 そう言ったリルンは身軽にいくつかの岩が突き出した場所を足場にして、ひょいひょいっと登ってしまった。スーちゃんもその後に続き、ラトは瞬間移動でリルンの背中に着地する。

「やっぱり神獣は凄いな……デュラ爺もここからなら登れるのか?」
『そうじゃな。わしにも可能だろう』
「じゃあ俺たちだけだな。フィーネ、先に行くか?」
「ううん、エリクが先で良いよ。頑張って」

 笑顔で応援してくれるフィーネはとても可愛らしいけど、付き合いが長くなってきた俺には分かる。
 フィーネはさっきの経験から最初の方が危険だと思って、さりげなく俺に押し付けてるだけだ。

 ただフィーネの笑顔に弱い俺は、それを指摘することもなく、喜んで先に行くんだけど……。

「分かった。じゃあデュラ爺、よろしくな」
『任せておけ』

 デュラ爺が作ってくれた場所に腰掛けて蔦を強く握ると、さっそく蔦は上に向かって動き出した。不安定な植物船の上でやっているので、ふらふらと蔦が左右に揺れる。

「うわっ、……っ、おお……」

 なにこれ、怖っ。上に上がっていけば行くほどバランスが悪くなるからか、蔦の揺れが酷くなる。

 でもあと少しだけ。もうちょっとで地面に手が届く。

 そう思った瞬間、突然手が届きそうだった地面が遠ざかった。

「え……っ」

 何が起きたのか分からないけど、確実に落ちてる! このままだと海に落ちるのか? 岩場にぶつかったりしないよな? 海の中に魔物は? というか俺泳げない……!

 内心で大混乱していると、青い海が目前まで近づいたところで、倒れていた蔦が動きを止めた。鼻先が海にぶつかる寸前から、少しずつ体が上に戻っていく。

「死ぬかと、思った……」

 心臓がバクバクと動いていて、破裂するんじゃないかと心配になる程だ。無意識に息も止めていたのか、全力で走った後のように息が荒い。

『エリク、すまないな。植物船がひっくり返りそうになったのじゃ。固定を増やしたからもう心配はいらない』
「そうか、それなら良かった……」

 俺は一気に疲労感を覚えながら蔦に強く掴まり、今度こそ無事に洞窟の入り口に着地することができた。

 それからフィーネは俺の時の失敗を教訓とし、無事に洞窟の入り口まで登ってくることができた。最後にデュラ爺が意外にも身軽に駆け上がってきて、全員が上陸成功だ。

『エリクのビューンってやつ、楽しそうだったね!』

 ラトは俺が死を覚悟したあれを見て、楽しそうだと思ったらしい。ラトって小さくて可愛いくせに、スリルが好きなんだよな。

『では帰りにラトも体験するか?』
『本当!? やりたい!』

 小さな手を持ち上げたラトは満面の笑みだ。リルンの背中からデュラ爺の背中に飛び移り、嬉しそうに尻尾をピンっと立てた。

 ラトに一緒にやろうと誘われても絶対に断ろう。可愛い笑顔で見つめられても絶対にだ。未来の俺、頑張れ。

 そう自分に言い聞かせながら、一足先に洞窟の中へと向かっていたスーちゃんとリルン、そしてフィーネを追いかけた。
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