外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗

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第3章 黒山編

93、洞窟到着と水晶華

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 リルンから声を掛けられて思ったよりも近くにあった陸地に視線を向けると、確かに洞窟のようなものが見えた。
 完全に海側へと開かれている洞窟で、陸地側から入るのは相当に大変だろう作りだ。

「あの洞窟の中に水晶華があるのか……」
「すぐに着いちゃったね。でも、どうやって中に入ろうか」

 リルンが船を止めたのは、洞窟まで数百メートルはある場所だ。この辺は陸地に近づくと海底が浅く岩場になり、船は近づけないらしい。

「船が停泊できる場所を見つけるか?」
「それとも、泳いで向かう?」

 フィーネが悪戯な笑みを浮かべて、大胆な提案をした。泳いでいくのは――

「さすがに無理じゃないか?」
「ふふっ、だよね。泳いだら気持ちよさそうなんだけど」
「フィーネって泳げるんだ」
「うん、湖では結構泳いだりしたこともあるんだ。エリクは?」
「俺はほとんど経験ないよ。溺れる未来しか見えない」

 海は波があって湖よりも泳ぐのは大変って聞くし、何よりも陸地に近いとはいえ、魔物が危険だろう。泳ぐための装備も何もないし。

 フィーネも泳ぐというのは冗談のようで二人で新たな案を考えていると、スーちゃんが船の手すりの上に身軽に降り立った。そして優雅にこちらを振り返ると、少し自慢げに告げる。

「しょうがないわね。私が採ってきてあげるわ」
「スーちゃんが? でもどうやって……」
「そこかしこに足場となる岩があるじゃない。これなら簡単に洞窟まで行けるわ」

 スーちゃんはそう告げると、タッと手すりを蹴って宙に飛び出してしまった。
 そんなスーちゃんをハラハラしながら見守っていると、宙を三回まで連続で蹴ることができる空中歩行を駆使して、小さな海面に飛び出す岩場を辿るように洞窟へ向かっていく。

「スーちゃん、凄いな」
「身軽だね……でも大丈夫かな。洞窟の中に魔物がいたりしない?」

 俺が呆然と見送り、フィーネが心配そうに眉根を寄せている間に、スーちゃんは洞窟の入り口に降り立った。そしてこちらを少しだけ振り返ると、躊躇いなく洞窟に入っていく。

 大丈夫なんだろうか。スーちゃんが弱いと思ってるわけじゃないけど、リルンやデュラ爺より攻撃力という面では弱いだろうし、体も小さいし……。

 そうして不安がグルグルと脳内を巡っている間に、スーちゃんは洞窟の中から戻ってきた。その足取りはしっかりとしていて、怪我などをしている様子はないようだ。

「スーちゃん、大丈夫か!」

 思わず叫んでしまうと、スーちゃんは答えることなく、行きと同じように岩場を辿ってくる。船上に戻ってきたスーちゃんの口には、ガラスで作られたような綺麗な花が咥えられていた。

『エリク、手を出しなさい』

 そう声を掛けられ、俺は我に返ったように両手を差し出す。するとスーちゃんは、手の上に水晶華を置いた。

 水晶華は――変質しない。

『ほら、これが水晶華よ。ちゃんと鑑定もしたんだから、感謝しなさい?』
「スーちゃん……ありがとう! スーちゃんは凄いな!」
「本当に凄いね。スーちゃん、助かったよ。ありがとう」

 俺はテンション高く、フィーネは穏やかに感謝を伝えた。するとそれを聞いたスーちゃんは、恥ずかしそうにそっぽを向く。

『べ、別に、できることをやっただけよ。まだたくさんあったから採ってくるわ』

 照れ隠しなのかすぐに洞窟へと戻ってしまったスーちゃんは、また一輪の水晶華を咥えて戻ってくる。洞窟に入って遅くても数分後には出てくるから、水晶華は海側からだとすぐの場所に咲いているみたいだ。

『どのぐらい必要なの?』
 
 五つ目を採取してきたところでスーちゃんに問いかけられ、俺は悩みつつデュラ爺から聞いていたスキル封じの石を錬金する工程を思い出した。

 確か水晶華は、一度の錬金に一つ使うんだ。

 錬金の工程はデュラ爺が細部まで知らなかったことから、何度も失敗して正解を模索していく作業になると思う。
 そうなると、できる限り多くの水晶華が欲しい。

「洞窟の中には全部でどのぐらいの花が咲いてるんだ?」
『そうね……千ほどかしら。もう数えられないわよ』
「そんなに咲いてるのか!」

 想像の何倍も多かった。それは咲いてる光景を見てみたいし、スーちゃんにだけ採取を頼むのは酷だな。全部を採取しないにしても、多めに採っておきたい。

 となると――船はここに固定しておいて、またデュラ爺の植物船かな。

「デュラ爺、植物船を使って皆で洞窟に移動できるか? 千もあるならその半分は採取したいから、スーちゃん一人に頼むのはさすがに悪いから」
『そうじゃな……前回作った植物船は異空間に収納してある。さすがにまだ枯れてないじゃろうし、リルンに動かしてもらえば向こうまでは行けるはずじゃ』
 
 おおっ、良かった。それならさっそく……と思ったところで、デュラ爺が言葉を続けた。

『ただわしは採取されて時間が経った植物は、もう動かせない。向こうに着いても海面から洞窟の入り口までは結構な高さがあるぞ。洞窟の周囲は岩場で、ちょうど良さそうな植物がないしな……』

 そう言って考え込んでしまったデュラ爺に、俺も洞窟に視線を向けた。確かにどうやってあの高さまで登るのかは問題だ。

 よじ登るのは無理があるし、リルンに植物船ごと風魔法で上に飛ばしてもらうのは……論外だ。

「あっ、向こうで鉢植えの植物を使えばいいんじゃないか?」

 ふと思いついて提案すると、デュラ爺も頷いてくれた。

『確かにありじゃな。蔦に座ってもらうような形で上に持ち上げることはできる。ただ植物船が安定しないため、相当揺れると思うが我慢してくれ』

 揺れるのか……まあ仕方ないな。

「分かった。皆もそれでいいか?」

 話がまとまったところで皆を見回すと、誰からも反論はなかった。しかしスーちゃんが少しだけ拗ねたように、「私が行く必要なかったわね」と呟いている。

 そんなスーちゃんを俺は思わず抱き上げた。

「そんなことないよ。スーちゃんが先に洞窟に行ってくれたから、確実に水晶華があることを確認できたんだ。それに安全性もな」

 その言葉を聞いたスーちゃんは照れたように顔を背けると、少し強い声音で告げる。

『そ、それなら良かったわっ。と、というかね、早く下ろしなさいよ!』
「ははっ、分かったよ」

 そうして皆で洞窟へと向かうことになり、もう乗りたくないと思っていた植物船に全員で乗り込んだ。
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