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第3章 黒山編
92、また海上へ
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船が港から離れ、港へと見送りに来てくれた人たちのこともほとんど目視できなくなった頃、リルンが船首にドヤ顔で降り立つと、興奮気味の声音で告げた。
『速度を上げるぞ!』
大きな船を動かすのがよほど楽しいのか、ノリノリなリルンに凄く悪い予感がする。
「リルン、あんまり飛ばすなよ」
「速度は抑えてね」
「急ぐ必要はないからな」
「船はゆっくり進むのが良いところでもあるんだよ?」
無謀な運転はさせないようにとフィーネと二人で必死に声をかけると、リルンは楽しげな瞳の輝きはそのままに、しかし素直に頷いてくれた。
『分かっている。我に任せておけばいい』
船首からこちらを振り返りながらそう言ったリルンを、疑いたい気持ちは必死に抑えつつ、信じることにした。
するとそれからの船旅は、意外にも快適だった。リルンは速度を出すことよりも、これほどの大きさの船を自在に動かせることに興味が移ったらしい。
船の進行方向を頻繁に変えるのは控えめにして欲しいけど、速度は怖さを感じるほどじゃない。いや、それでも船にしては信じられないほどの速度だと思うけど。
風が気持ちいい……というよりも、ずっと風に当たってると疲れてちょっと痛い。でも景色を楽しむ余裕はギリギリある、ぐらいな感じだ。
近づけばフィーネとの会話も全然できる。
「リルン、凄く楽しそうだね」
船首からカッコよく船の行き先を見つめているリルンを見て、フィーネは優しい笑顔を浮かべた。
「本当だな。リルン、船にハマるかも」
「ふふっ、確かにあり得るね。スキル封じの石を無事に錬金できた後の予定は決めてないけど、海とか大きな湖を目指すのもありかもね」
「それ、楽しそうだな。スーちゃんも魚が好きだし。ただラトの木の実は多めに確保しておかないと」
船上ではさすがに、ラトの木の実を手に入れる方法がないからな。まあ、そんなに長期間の船旅なんてしないだろうけど。
「そうだね。リルン、あんまり沖に出すぎないでねー!」
フィーネがリルンに声を掛けると、こちらをチラッと振り返ったリルンは頷いて、また楽しそうに進行方向を変えた。
陸地に近すぎる場所を大きな船で行くのは危ないらしいけど、陸から離れすぎても、大回りになりすぎるのだ。
「そういえば、洞窟までってどのぐらいかかるんだ?」
ちゃんと聞いてなかったなと疑問を口にすると、それには近くにいたデュラ爺が答えてくれた。
『この調子なら、あと三時間ほどで着くじゃろうな』
「おっ、そんなに近いのか」
『いや、それほど近くない。リルンが飛ばしておるからじゃ。先ほどまでいた港街から陸地で向かえば、何日もかかったじゃろう』
「そうなのか……じゃあ、リルンに感謝だな」
「それに、船を借りられて良かったね」
フィーネの言葉に大きく頷く。船は借りたいと思って借りられるものじゃないだろうし、本当に幸運だった。
ただ三時間か、何もしないで過ごすには長いな。船は大きいからかあんまり揺れないし、強めの風だけを我慢すれば何かできそうだ。
せっかく船の上にいるから、ここでしかできないことでも――そう考えて悩んでいたら、デュラ爺とラト、さらにスーちゃんが植物を使って何かを始めた。
面白そうなので俺とフィーネも向かってみると、植物を使った釣り……のようなものをするらしい。デュラ爺が蔦を海に垂らして魚を掴みに行くらしいから、それを釣りというのかは分からないけど。
「楽しそうだな」
『エリクとフィーネも一緒にしよ!』
『美味しい魚を取るわよ』
ラトとスーちゃんはやる気満々だ。デュラ爺はそんな二人に優しい笑みを向けながら、言われた通りに蔦を海に下ろしている。
デュラ爺……名前の通り皆のいいお爺ちゃんだ。ラトなんてデュラ爺の頭の上で楽しそうにはしゃいでいた。
「魚を蔦で掴むなんてできるのか?」
魚は素早いイメージだし、手で持つとぬるぬると滑るだろう。そんな印象から問いかけると、デュラ爺はまだ海に下ろしていない蔦を動かし、実践してくれた。
俺たちの目の前で意思を持つように動いた蔦は、先端が複雑に編まれるような形で小さな網になり、その網が魚を捕らえるような動きをした直後、今度は魚を捕らえて離さないような形に変わる。
『こんな感じじゃ』
「デュラ爺、凄いね!」
フィーネが笑顔で褒めると、デュラ爺は嬉しかったのかいくつもの植物を異空間から取り出し、次々と蔦を海の中に沈めていった。
『よし、目指せ大漁じゃ』
『頑張ろー!』
『美味しい魚を確保よ』
それから釣り……みたいな魚取りを皆で楽しんでいると、あっという間に目的地である海岸の洞窟近くに到着した。
『速度を上げるぞ!』
大きな船を動かすのがよほど楽しいのか、ノリノリなリルンに凄く悪い予感がする。
「リルン、あんまり飛ばすなよ」
「速度は抑えてね」
「急ぐ必要はないからな」
「船はゆっくり進むのが良いところでもあるんだよ?」
無謀な運転はさせないようにとフィーネと二人で必死に声をかけると、リルンは楽しげな瞳の輝きはそのままに、しかし素直に頷いてくれた。
『分かっている。我に任せておけばいい』
船首からこちらを振り返りながらそう言ったリルンを、疑いたい気持ちは必死に抑えつつ、信じることにした。
するとそれからの船旅は、意外にも快適だった。リルンは速度を出すことよりも、これほどの大きさの船を自在に動かせることに興味が移ったらしい。
船の進行方向を頻繁に変えるのは控えめにして欲しいけど、速度は怖さを感じるほどじゃない。いや、それでも船にしては信じられないほどの速度だと思うけど。
風が気持ちいい……というよりも、ずっと風に当たってると疲れてちょっと痛い。でも景色を楽しむ余裕はギリギリある、ぐらいな感じだ。
近づけばフィーネとの会話も全然できる。
「リルン、凄く楽しそうだね」
船首からカッコよく船の行き先を見つめているリルンを見て、フィーネは優しい笑顔を浮かべた。
「本当だな。リルン、船にハマるかも」
「ふふっ、確かにあり得るね。スキル封じの石を無事に錬金できた後の予定は決めてないけど、海とか大きな湖を目指すのもありかもね」
「それ、楽しそうだな。スーちゃんも魚が好きだし。ただラトの木の実は多めに確保しておかないと」
船上ではさすがに、ラトの木の実を手に入れる方法がないからな。まあ、そんなに長期間の船旅なんてしないだろうけど。
「そうだね。リルン、あんまり沖に出すぎないでねー!」
フィーネがリルンに声を掛けると、こちらをチラッと振り返ったリルンは頷いて、また楽しそうに進行方向を変えた。
陸地に近すぎる場所を大きな船で行くのは危ないらしいけど、陸から離れすぎても、大回りになりすぎるのだ。
「そういえば、洞窟までってどのぐらいかかるんだ?」
ちゃんと聞いてなかったなと疑問を口にすると、それには近くにいたデュラ爺が答えてくれた。
『この調子なら、あと三時間ほどで着くじゃろうな』
「おっ、そんなに近いのか」
『いや、それほど近くない。リルンが飛ばしておるからじゃ。先ほどまでいた港街から陸地で向かえば、何日もかかったじゃろう』
「そうなのか……じゃあ、リルンに感謝だな」
「それに、船を借りられて良かったね」
フィーネの言葉に大きく頷く。船は借りたいと思って借りられるものじゃないだろうし、本当に幸運だった。
ただ三時間か、何もしないで過ごすには長いな。船は大きいからかあんまり揺れないし、強めの風だけを我慢すれば何かできそうだ。
せっかく船の上にいるから、ここでしかできないことでも――そう考えて悩んでいたら、デュラ爺とラト、さらにスーちゃんが植物を使って何かを始めた。
面白そうなので俺とフィーネも向かってみると、植物を使った釣り……のようなものをするらしい。デュラ爺が蔦を海に垂らして魚を掴みに行くらしいから、それを釣りというのかは分からないけど。
「楽しそうだな」
『エリクとフィーネも一緒にしよ!』
『美味しい魚を取るわよ』
ラトとスーちゃんはやる気満々だ。デュラ爺はそんな二人に優しい笑みを向けながら、言われた通りに蔦を海に下ろしている。
デュラ爺……名前の通り皆のいいお爺ちゃんだ。ラトなんてデュラ爺の頭の上で楽しそうにはしゃいでいた。
「魚を蔦で掴むなんてできるのか?」
魚は素早いイメージだし、手で持つとぬるぬると滑るだろう。そんな印象から問いかけると、デュラ爺はまだ海に下ろしていない蔦を動かし、実践してくれた。
俺たちの目の前で意思を持つように動いた蔦は、先端が複雑に編まれるような形で小さな網になり、その網が魚を捕らえるような動きをした直後、今度は魚を捕らえて離さないような形に変わる。
『こんな感じじゃ』
「デュラ爺、凄いね!」
フィーネが笑顔で褒めると、デュラ爺は嬉しかったのかいくつもの植物を異空間から取り出し、次々と蔦を海の中に沈めていった。
『よし、目指せ大漁じゃ』
『頑張ろー!』
『美味しい魚を確保よ』
それから釣り……みたいな魚取りを皆で楽しんでいると、あっという間に目的地である海岸の洞窟近くに到着した。
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