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第3章 黒山編

86、植物船造り

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 休息中の皆から少し距離を取ったところで、さっそく船作りに関する作戦会議を始めることにした。中心はデュラ爺だけど、今度は俺とフィーネも参加する。
 前回みたいな死の恐怖を感じる船を避けるのが、俺の唯一にして絶対の目標だ。

「まずは船の大体の大きさを決めないか? デュラ爺、どこまでの大きさにできるんだ?」

 一番大切な部分を問いかけると、デュラ爺は少しだけ悩んでから俺たちが流れ着いた海岸方面に視線を向けた。

『あまりにも大きすぎると全体を強化ができないんじゃ。最初に乗ってきた船があるじゃろう? あれぐらいが限度だ』
「え、あんなに大きくできるの?」

 驚きの声を上げたのはフィーネだ。俺もかなり驚いた。あの船ほどの大きさが可能なら、帰りはかなり快適な船旅になるかもしれない。

『うむ、ここにはたくさんの植物があるからな。形作るだけならばかなり大きなものもできる。しかし強度も考えると、あれが限度じゃ』
「いや、あの大きさなら十分だよ」
「ああ、俺は今かなり安心してる」

 俺とフィーネは顔を見合わせ、同時に安堵の笑みを浮かべた。

「形もただの平らな乗り物じゃなくて、船型にできるのか?」
『もちろん可能じゃ。どういう形が良いのか教えてくれ』
「そうだな……まずは波が入ってこなくて、風が当たらない構造がいいな」
「後はどこかに全力で捕まらなくても、船から落ちないような形でお願いできる?」

 俺とフィーネが要望を伝えると、デュラ爺は「ふむ」と少しだけ悩んでから近くの植物を操って小さな何かを作った。
 それは深めのお椀みたいな形で、船と呼ぶには躊躇うものだ。

『このような形で皆が中に入れば、風も波も防げるじゃろう。さらに海に投げ出される心配もない。上を屋根のように塞ぐこともできるぞ』
「確かに……別に船の形である必要はないんだね」

 フィーネの呟きを聞いて、俺もそのことに気づいた。デュラ爺の植物魔法とリルンの風魔法の合わせ技という、普通ならあり得ない方法で海を進むのだから、既存の形に縛られる必要は全くない。

「この形でいくか。ただ中に掴まれる場所は作って欲しいかな。そうじゃないと人同士がぶつかって怪我しそうだから」
「確かにそうだね。椅子を作ってもらって、それに捕まってるのもありかな」
「それなら、椅子に植物で括り付けてもらうのもありじゃない?」
「……ちょっと嫌だけど、安全かもね」

 俺とフィーネは少しでも危険がないようにと話し合い、それからしばらくして植物船は大きなお椀型を、ひっくり返らないように少し変形させた形で決定となり、俺たちは全員が椅子に括り付けられることになった。

 これでリルンがどんなにスピードを出しても、誰も怪我することなく大陸まで到着する……はずだ。

 もう後はリルンとデュラ爺を信じて任せるしかない。

「二人とも、よろしくね」
『任せておけ。我が皆を運んでやろう』
『わしらに任せておけば問題ないぞ』

 フィーネにそう答えている二人の様子は自信ありげだから、大丈夫だと信じよう。

「じゃあ、さっそく作っていくか」
『そうじゃな。基本的な作成はわしがやるが、皆には植物の棘などを切り落として欲しい。この島の植物には鋭いものが多いようじゃ』

 そう言われてみると――棘があったり葉が鋭利に尖っていたり、怪我をしそうなやつが多いな。

「分かった、頑張るね。エリクは……どうしようか」

 俺は採取前と後、どっちの植物を触っても変質させちゃうからな……いや、でも良い方向への変質なら、船の材料に使える植物になる可能性もあるのか。

 アルフさんやリグルさんたちからは見えない場所だし、色々と変質させてみようかな。

「俺は島の植物を変質させて、採取をしてるのでいいか? 船に使えそうな植物になったら、俺も船造りを手伝う」
「確かにありだね。この島には珍しい植物もありそうだし、端から変質させるのも面白いかも」
『僕もそっちがいい!』

 俺の提案に、ラトが乗り気で肩の上に瞬間移動してきた。

「ふふっ、了解。じゃあラトとエリクは採取かな」

 そうして役割が決まったところで、俺はさっそく近くにある植物に触ってみることにした。最近は自然のものに触れないよう徹底するのに慣れていて、久しぶりに自然と触れ合う気がする。

 いや、手のひら以外ではもちろん触れてるんだけど、やっぱり手で触るって違うんだよな。

 そんなことを考えながら触れた植物は、キラキラとした輝きを放ちながら形を大きく変えた。

「おおっ、何だこれ」

 ヒール草に似てる植物だったから、この島だとヒール草の形が少し違うのかもと思ってたけど、変質したのがヒーリング草とは明らかに違う。ヒール草はヒーリング草以外に変質しなかったはずだ。

 綺麗な紫色をして、葉の形は炎みたいだ。独特な色と形をしてるけど知らないってことは、俺が住んでた辺りには生えてない植物なんだろう。

「とりあえず、採取するか」

 変質前の方も採取しておきたいな……そんなことを考えていると、肩に乗っていたラトが珍しく鋭い声を出した。

『エリク待って!』
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