外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗

文字の大きさ
上 下
55 / 95
第3章 黒山編

82、朱鉄島

しおりを挟む
 リルンの風魔法によって凄い速度で動き出した植物の船に乗る俺たちは、風圧と叩きつける雨や波に翻弄されて、酷い状態だ。

「も、もう少し速度を……」

 何とかそう声を発すると、リルンの口角がニヤリと上がった。

『ほう、まだいけるか。では少し速めよう』
「ち、違う! 速めるんじゃなくてゆっくり……!」

 俺の叫びはリルンに届かず、植物の船はさらに速度を上げて動き出す。

 な、何でこんな速度で移動して、植物が形を保っていられるんだ! デュラ爺の魔法によるものだとしたら、さすが神獣の魔法だと感心するけど……今はそれどころじゃない。ちょっと速度を緩めてくれ!

 そんなことを内心で叫びながら、絶対に生き残りたいと船にしがみつき続けてしばらく。突然リルンが船の進む速度を緩めた。

『あそこに島があるぞ? 上陸するか?』
「お願い……!」

 リルンの言葉にフィーネが必死な声音で答え、俺たちは小島に向かう。そしてなんとか意識がある状態で、綺麗な砂浜へと上陸した。

 砂浜に乗り上げたところで全員がいるかどうかだけを確認して、全員が無事だと分かると力なく砂浜に寝転がる。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 助かった――。

 荒い息遣いしか聞こえてこない時間が流れ、しばらくして重い体をなんとか起こした。
 するとデュラ爺たち神獣四人が、砂浜でのんびりとくつろいでいるのが視界に入る。

 神獣って、やっぱり規格外だな……。

「お前たち、凄いな」
『エリク、砂浜の砂が気持ちいいよ!』

 いつも通りの呑気なラトの声を聞いたら、なんだか力が抜けた。スーちゃんは毛繕いに忙しそうだし、リルンは寝ていて、デュラ爺は近くの植物を観察している。

 そんな四人の様子をぼーっと眺めていたら、海上で浮かんだ疑問を思い出した。

「そういえばリルンは、あんなことができるなら船を動かせなかったのか?」

 ポツリと独り言のように問いかけると、寝ていたはずのリルンは少し目を開いて説明してくれる。

『あれは、デュラ爺の植物魔法で強化された植物だからこそ出来たことだ。船だったらすぐに大破している』

 そうなのか……やっぱりデュラ爺の魔法、というよりも神獣の魔法は凄いんだな。

 リルンとの話を終わらせて今度は島を振り返ると、砂浜の先にはすぐに木々が生い茂る森があった。そしてその奥には、かなり標高が高そうな山も見える。

 小島だと思ったけど、こうして上陸すると結構広いのかもしれないな。というか俺たち、ここからどうやって帰るんだ?

 ――またさっきみたいに二人の魔法でなんて、言わないよな?

 そんな恐怖すぎる想像に愕然としていると、起き上がれたらしいフィーネが俺の隣にやってきた。

「大変だったね……」

 そう言って笑うフィーネは疲れてそうだけど、案外瞳は輝いている。フィーネって見た目よりも肝が据わってるというか、好奇心旺盛なんだよな。

「そうだな。でもとりあえず、助かって良かった」
「そこは本当に皆に感謝だね」

 フィーネが四人の方に視線を向けると、ちょうどデュラ爺がこちらにやってくるところだったらしく、視線が交わった。

「デュラ爺、どうしたの?」

 フィーネの問いかけに、デュラ爺は島の奥にある山を鼻先で示すようにして、衝撃的な言葉を口にした。

『フィーネ、エリク、ここは朱鉄島じゃ。あの山で朱鉄が手に入るぞ』
「……え!?」

 俺は思わず叫んでしまい、その声が思いの外響いたことから、森の中から多くの鳥が飛び立つ。それに驚いて、思わず身を竦めてしまった。

「そ、それ本当なのか?」

 今度は声を小さくして問いかけると、デュラ爺はしっかりと頷いてくれた。

 凄いな……不幸中の幸いだ。こんな幸運があるなんて驚いた。これでとりあえず一つの目標は達成になるけど……アルフさんのことはどうすればいいのか。

「フィーネ、これからどうする?」

 諸々の意味を込めて問いかけると、フィーネは悩みながら口を開いた。

「とりあえず、大陸に帰ることはできるよね? デュラ爺とリルンの魔法で」
『うむ。この島には植物がたくさんあるからな。先ほどのよりも素晴らしい船を作れるじゃろう』
「それなら良かった」

 おぅ……やっぱり帰りも二人の魔法なのか。いや、帰る方法があることは凄くありがたいんだけど、せめてもう少し速度を落としてほしい。

「じゃあ帰る方法の心配はいらないとなれば、朱鉄を採取して大陸に戻れば、私たちとしては目的達成だね。後はアルフさんだけど……」

 そう言ってフィーネがリグルさんたちに視線を向けると、ちょうど砂浜から起き上がり始めたところだった。

 そこで俺たちはこの島が目的の島だということ、朱鉄の採取に向かいたいこと、大陸にはデュラ爺とリルンの魔法で帰れることを説明し、アルフさんの捜索をどうするのかについて尋ねた。

 するとリグルさんは鎮痛な面持ちで、躊躇いながらも口を開く。

「船がなくなってしまった以上、これ以上の捜索は諦めるしかないでしょう。……私たちはお二人に従います。大陸に帰る際には、私たちも連れていただけますか?」
「それはもちろんです。では私たちは、朱鉄の採取をしてきますね。皆さんはここで待ちますか?」

 フィーネのその言葉に少しだけ躊躇いながらも、リグルさんたちは俺たちと一緒に来ることを選んだ。

 まあこの島に何がいるのか分からないし、強いリルンやデュラ爺たちの近くにいたいよな。俺も皆から離れるのは怖くてできない。

「では行きましょう」

 そうして俺たちは全員で、小島に広がる森に入った。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。