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第2章 王都編
71、鑑定ができる神獣
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俺の誘拐騒動から数日が経過し、俺たちは無事にCランクへと冒険者ランクを上げることに成功していた。
ちなみに俺を攫った主犯であるヴランゲル伯爵と鑑定員のクヌートは、王宮の牢屋に入れられたらしい。あの後ギルドに行って証拠を見せたら大騒ぎとなり、俺たちが兵士詰所に向かう必要もなく、ギルドに騎士がやってきた。
そして早急にヴランゲル伯爵の屋敷が調べられ、二人はすぐに捕えられた。俺たちに対して語ってくれた悪事だけでなく、他にも数えきらないほどの悪事を重ねてたんだそうだ。
あまりにも数が多くて、全ての事実確認には年単位の時間が必要だとか……それだけの悪事が今までバレなかったことが奇跡だよな。
二人はもう、日の光を見ることはないだろうとのことだった。
「ラトー」
俺はクッションで寝ていたラトを抱き上げ、一緒にソファーへと横になった。今日は一日休息日としていて、俺は家でまったりと過ごしている。
フィーネはリルンと買い物に出掛けているところだ。
というよりも、あの事件の日からはずっと依頼を受けずに休んでいる。なぜなら……ヴランゲル伯爵の逮捕に多大な貢献をしたということで、かなりの大金を受け取ったからだ。
しばらく……年単位で働かなくても全く問題はない。
『エリク、のんびりしてるね~』
「長期で休むのは久しぶりだからな。でもこれも明後日までだ」
『明後日でこの家を借りてる期間が終わるから、次の街に行くんだっけ?』
「そう、まあ行き先はこれから決めるんだけどな。ただスキル封じの石の素材がある場所だから、劣化しない純黒玉か朱鉄のどっちかがある場所になると思う」
その二つがある場所がどこなのかよく分かってないから、デュラ爺に話を聞いて地図と照らし合わせないと。
そんなことを考えながらも胸の上にラトを乗せてゴロゴロとしていたら、庭で日向ぼっこをしていたデュラ爺が戻ってきた。
「デュラ爺、もういいのか?」
『いや、そういうわけではないんじゃが、一つ考えたことがあってな。今回のエリクは鑑定員が悪者で攫われたじゃろう? しかしエリクはこれからも規格外のものを作り出すじゃろうから、そうなると元々の悪人でなくとも魔が差したということで、悪事に巻き込まれる可能性が高い』
確かにそうなんだよな……自分で鑑定できない以上は誰かに頼むしかないし、そうなるとリスクは上がる。
『じゃから、フィーネに頼んでもう一体、神獣を召喚してみてはどうだ?』
「それって……鑑定ができる神獣がいるのか!?」
デュラ爺の言葉に驚いて思わずガバッと起き上がると、ラトが俺の胸から転がり落ちてしまい、慌てて手のひらでキャッチした。
「ラトごめん!」
『もう~エリク、気をつけてよね!』
「本当にごめん。デュラ爺の言葉に驚いて……」
『むぅ~、鑑定ができる神獣だっけ?』
「ああ、そんな神獣がいるのか?」
『――もしかして、スーちゃんのこと?』
少し悩んだラトが発した言葉に、デュラ爺がすぐに頷く。
『そうじゃ』
『そういえば、スーちゃんは鑑定ができたんだったね。忘れてたよ』
「スーちゃんって、どんな神獣なんだ?」
『正式名はスコグカットじゃ。猫の形をした神獣で、綺麗な黒毛をしてある』
猫……! それはかなり興味を惹かれる。今まではその大きさの神獣っていなかったんだよな。
「その子の好きなものは分かるのか?」
『もちろんじゃ。スコグカットは猫じゃからな……またたびがあれば一発じゃ』
またたび! そんなのどこでだって手に入る。今から買ってくれば、すぐに召喚することさえ可能だ。
「よしっ、今すぐ買いに行こう!」
それから俺はデュラ爺とラトを連れて市場に向かい、またたびを手に入れたところで、ちょうどフィーネとリルンと出会うことができた。
「フィーネ、リルン!」
テンション高く二人に声を掛けると、フィーネが不思議そうに首を傾げて口を開いた。
「エリク、何かあったの? 凄く楽しそうだけど……」
「実はデュラ爺から凄い提案があったんだ。とりあえず、ここで話すのは微妙だから家に帰らないか?」
「……分かった。私の買い物もほとんど終わってるから良いよ」
フィーネはいまだ不思議そうにしつつも、素直に頷いて一緒に家へと向かってくれた。
皆で家に入ったら、さっそく神獣召喚に関する話だ。
「実はさっきデュラ爺が教えてくれたんだけど、スコグカットっていう名前の神獣がいるらしくて、何とこの神獣……鑑定ができるらしいんだ!」
俺のその言葉を聞いて、フィーネは瞳を見開きながらデュラ爺に視線を向けた。
「そうなの?」
『うむ、スコグカットの鑑定は凄いぞ。どんなに希少なものでも詳細まで見ることが可能だ』
『そういえば、スコグカットにはそんな能力があったな』
「それは凄いね! 私たちは凄くありがたい能力かも。これからもエリクが色々と作るだろうし」
「そうなんだ。だから召喚をお願いしたいと思って……さっきまたたびを買ってきた」
買ったばかりの高級またたびを手のひらに乗せると、フィーネは楽しそうに微笑んでそれを手に取った。
「ふふっ、スコグカットって猫なの?」
「そうらしいんだ」
「可愛い子だったら良いな。じゃあ……この家の中で召喚しちゃおうか。猫ならそこらにいるし、突然増えてても何とも思われないだろうから」
そう言ったフィーネはテーブルを少し移動させると、リビングに開いた広いスペースにまたたびを置き、前回と同じように神獣召喚のスキルを発動させた。
フィーネの体が光始め、床も光り輝き、次第に床には複雑な紋様が浮かび上がり……数秒後。
神獣召喚を行ってからほんの十秒ほどで、目の前にはちょうど両手にすっぽりと収まるサイズの黒猫が現れた。
その黒猫は金色の瞳をきらりと光り輝かせると、またたびに向かって思いっきり飛びかかる。そして理性を失うように、ガシガシと噛んだり頭を擦り付けたりし始めた。
とても楽しそうで、見てるだけで口端が緩む光景だ。
それから数分はその光景が続き……やっと満足したのかスコグカットは動きを止めると、俺たちのことを恐る恐る見上げた。
『い、い、今のは見なかったことにしてちょうだい! またたびで釣るなんて狡いわ……!』
おお、今度の神獣は女の子なのかな。三人と違って新鮮だ。
『スコグカット、久しいな』
『デュラスロール! あなたの仕業ね!』
『何のことじゃ? それよりもフィーネから話があるから聞いてくれ』
それからフィーネが挨拶をして、仲間になってくれたら新鮮なまたたびを毎日あげるという誘惑に、スコグカットはすぐに陥落した。
『ま、まあ、私の力が必要というなら、助けてあげないこともないわ』
「ありがとう。これからよろしくね。なんて呼べば良いかな」
『……皆が呼ぶから、スーちゃんでいいわ。べ、別に私がそう呼べって言ってるわけじゃないわよ!』
スーちゃんはそう言うと、ツンッと顔を背けてしまう。ツンデレの猫……可愛い。ラトとはまた違う可愛さだ。
「スーちゃん、俺ともこれからよろしくな」
『ええ、よろしくね』
『一緒に旅できるの嬉しいな!』
『鑑定は頼んだぞ』
『任せなさい』
そうして仲間が新たに増えたところで、俺たちは次の行き先を決めることにした。
「次は純黒玉と朱鉄、どっちがいいんだ? その二つのどちらかだよな」
『うむ、次は純黒玉が良いと思うぞ。朱鉄は大陸を出て島に行かなければいけないからな。純黒玉はこの大陸にある、黒山という山で手に入るんだ』
「じゃあ次はその黒山だね。どの国にあるのか分かる?」
『デルダード王国という名前だったはずだ。そのような国はあるか?』
デュラ爺のその言葉にフィーネは顎に指を当て、曖昧に頷いた。
「聞いたことはある気がする。海沿いにある国だよね?」
『うむ、そうじゃ』
『あら、海沿いなんていいじゃない。私は魚が好きなのよ』
「そうなんだ。じゃあスーちゃんにはたくさん魚を買ってあげるね」
『……期待しているわ』
嬉しそうにポツリと呟いたスーちゃんに、フィーネは頬を緩めてスーちゃんの首元を撫でた。
「じゃあ行き先は決まったし、明日冒険者ギルドに行って、デルダード王国への行き方を聞こうか」
「そうだな。それで遠距離馬車も予約しよう」
ついに生まれ育った国も出ることになるな……他国にはどんな街や食事があるのか、凄く楽しみだ。
~あとがき~
ここで第2章は完結となります。第3章は少しお休みをいただいてから更新を始めますので、お待ちいただけますと幸いです。
3章を投稿したときには、また読みに来ていただけたら嬉しいです!
蒼井美紗
ちなみに俺を攫った主犯であるヴランゲル伯爵と鑑定員のクヌートは、王宮の牢屋に入れられたらしい。あの後ギルドに行って証拠を見せたら大騒ぎとなり、俺たちが兵士詰所に向かう必要もなく、ギルドに騎士がやってきた。
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二人はもう、日の光を見ることはないだろうとのことだった。
「ラトー」
俺はクッションで寝ていたラトを抱き上げ、一緒にソファーへと横になった。今日は一日休息日としていて、俺は家でまったりと過ごしている。
フィーネはリルンと買い物に出掛けているところだ。
というよりも、あの事件の日からはずっと依頼を受けずに休んでいる。なぜなら……ヴランゲル伯爵の逮捕に多大な貢献をしたということで、かなりの大金を受け取ったからだ。
しばらく……年単位で働かなくても全く問題はない。
『エリク、のんびりしてるね~』
「長期で休むのは久しぶりだからな。でもこれも明後日までだ」
『明後日でこの家を借りてる期間が終わるから、次の街に行くんだっけ?』
「そう、まあ行き先はこれから決めるんだけどな。ただスキル封じの石の素材がある場所だから、劣化しない純黒玉か朱鉄のどっちかがある場所になると思う」
その二つがある場所がどこなのかよく分かってないから、デュラ爺に話を聞いて地図と照らし合わせないと。
そんなことを考えながらも胸の上にラトを乗せてゴロゴロとしていたら、庭で日向ぼっこをしていたデュラ爺が戻ってきた。
「デュラ爺、もういいのか?」
『いや、そういうわけではないんじゃが、一つ考えたことがあってな。今回のエリクは鑑定員が悪者で攫われたじゃろう? しかしエリクはこれからも規格外のものを作り出すじゃろうから、そうなると元々の悪人でなくとも魔が差したということで、悪事に巻き込まれる可能性が高い』
確かにそうなんだよな……自分で鑑定できない以上は誰かに頼むしかないし、そうなるとリスクは上がる。
『じゃから、フィーネに頼んでもう一体、神獣を召喚してみてはどうだ?』
「それって……鑑定ができる神獣がいるのか!?」
デュラ爺の言葉に驚いて思わずガバッと起き上がると、ラトが俺の胸から転がり落ちてしまい、慌てて手のひらでキャッチした。
「ラトごめん!」
『もう~エリク、気をつけてよね!』
「本当にごめん。デュラ爺の言葉に驚いて……」
『むぅ~、鑑定ができる神獣だっけ?』
「ああ、そんな神獣がいるのか?」
『――もしかして、スーちゃんのこと?』
少し悩んだラトが発した言葉に、デュラ爺がすぐに頷く。
『そうじゃ』
『そういえば、スーちゃんは鑑定ができたんだったね。忘れてたよ』
「スーちゃんって、どんな神獣なんだ?」
『正式名はスコグカットじゃ。猫の形をした神獣で、綺麗な黒毛をしてある』
猫……! それはかなり興味を惹かれる。今まではその大きさの神獣っていなかったんだよな。
「その子の好きなものは分かるのか?」
『もちろんじゃ。スコグカットは猫じゃからな……またたびがあれば一発じゃ』
またたび! そんなのどこでだって手に入る。今から買ってくれば、すぐに召喚することさえ可能だ。
「よしっ、今すぐ買いに行こう!」
それから俺はデュラ爺とラトを連れて市場に向かい、またたびを手に入れたところで、ちょうどフィーネとリルンと出会うことができた。
「フィーネ、リルン!」
テンション高く二人に声を掛けると、フィーネが不思議そうに首を傾げて口を開いた。
「エリク、何かあったの? 凄く楽しそうだけど……」
「実はデュラ爺から凄い提案があったんだ。とりあえず、ここで話すのは微妙だから家に帰らないか?」
「……分かった。私の買い物もほとんど終わってるから良いよ」
フィーネはいまだ不思議そうにしつつも、素直に頷いて一緒に家へと向かってくれた。
皆で家に入ったら、さっそく神獣召喚に関する話だ。
「実はさっきデュラ爺が教えてくれたんだけど、スコグカットっていう名前の神獣がいるらしくて、何とこの神獣……鑑定ができるらしいんだ!」
俺のその言葉を聞いて、フィーネは瞳を見開きながらデュラ爺に視線を向けた。
「そうなの?」
『うむ、スコグカットの鑑定は凄いぞ。どんなに希少なものでも詳細まで見ることが可能だ』
『そういえば、スコグカットにはそんな能力があったな』
「それは凄いね! 私たちは凄くありがたい能力かも。これからもエリクが色々と作るだろうし」
「そうなんだ。だから召喚をお願いしたいと思って……さっきまたたびを買ってきた」
買ったばかりの高級またたびを手のひらに乗せると、フィーネは楽しそうに微笑んでそれを手に取った。
「ふふっ、スコグカットって猫なの?」
「そうらしいんだ」
「可愛い子だったら良いな。じゃあ……この家の中で召喚しちゃおうか。猫ならそこらにいるし、突然増えてても何とも思われないだろうから」
そう言ったフィーネはテーブルを少し移動させると、リビングに開いた広いスペースにまたたびを置き、前回と同じように神獣召喚のスキルを発動させた。
フィーネの体が光始め、床も光り輝き、次第に床には複雑な紋様が浮かび上がり……数秒後。
神獣召喚を行ってからほんの十秒ほどで、目の前にはちょうど両手にすっぽりと収まるサイズの黒猫が現れた。
その黒猫は金色の瞳をきらりと光り輝かせると、またたびに向かって思いっきり飛びかかる。そして理性を失うように、ガシガシと噛んだり頭を擦り付けたりし始めた。
とても楽しそうで、見てるだけで口端が緩む光景だ。
それから数分はその光景が続き……やっと満足したのかスコグカットは動きを止めると、俺たちのことを恐る恐る見上げた。
『い、い、今のは見なかったことにしてちょうだい! またたびで釣るなんて狡いわ……!』
おお、今度の神獣は女の子なのかな。三人と違って新鮮だ。
『スコグカット、久しいな』
『デュラスロール! あなたの仕業ね!』
『何のことじゃ? それよりもフィーネから話があるから聞いてくれ』
それからフィーネが挨拶をして、仲間になってくれたら新鮮なまたたびを毎日あげるという誘惑に、スコグカットはすぐに陥落した。
『ま、まあ、私の力が必要というなら、助けてあげないこともないわ』
「ありがとう。これからよろしくね。なんて呼べば良いかな」
『……皆が呼ぶから、スーちゃんでいいわ。べ、別に私がそう呼べって言ってるわけじゃないわよ!』
スーちゃんはそう言うと、ツンッと顔を背けてしまう。ツンデレの猫……可愛い。ラトとはまた違う可愛さだ。
「スーちゃん、俺ともこれからよろしくな」
『ええ、よろしくね』
『一緒に旅できるの嬉しいな!』
『鑑定は頼んだぞ』
『任せなさい』
そうして仲間が新たに増えたところで、俺たちは次の行き先を決めることにした。
「次は純黒玉と朱鉄、どっちがいいんだ? その二つのどちらかだよな」
『うむ、次は純黒玉が良いと思うぞ。朱鉄は大陸を出て島に行かなければいけないからな。純黒玉はこの大陸にある、黒山という山で手に入るんだ』
「じゃあ次はその黒山だね。どの国にあるのか分かる?」
『デルダード王国という名前だったはずだ。そのような国はあるか?』
デュラ爺のその言葉にフィーネは顎に指を当て、曖昧に頷いた。
「聞いたことはある気がする。海沿いにある国だよね?」
『うむ、そうじゃ』
『あら、海沿いなんていいじゃない。私は魚が好きなのよ』
「そうなんだ。じゃあスーちゃんにはたくさん魚を買ってあげるね」
『……期待しているわ』
嬉しそうにポツリと呟いたスーちゃんに、フィーネは頬を緩めてスーちゃんの首元を撫でた。
「じゃあ行き先は決まったし、明日冒険者ギルドに行って、デルダード王国への行き方を聞こうか」
「そうだな。それで遠距離馬車も予約しよう」
ついに生まれ育った国も出ることになるな……他国にはどんな街や食事があるのか、凄く楽しみだ。
~あとがき~
ここで第2章は完結となります。第3章は少しお休みをいただいてから更新を始めますので、お待ちいただけますと幸いです。
3章を投稿したときには、また読みに来ていただけたら嬉しいです!
蒼井美紗
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