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第2章 王都編

65、被害状況

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 万が一にも村長がリルンやデュラ爺を襲わないようにと足早に玄関へ向かうと、玄関ドアを開ける前に男性の声が響いた。

「誰が来ているのか! これは従魔だよな!?」

 緊張している様子のその声にすぐドアを開け、二人で一緒に顔を出す。

「……はい! あの、私の従魔です。フラワーボア討伐の依頼を受けた冒険者で、奥様たちに家に入れてもらっていました」
「驚かせてすみません。リルン、デュラ爺、少しそっちに避けててくれるか?」
『うむ、良いぞ』
『分かった』

 俺たちの言葉を聞いて、さらにリルンとデュラ爺が移動したのを見て、村長さんとその隣にいた若い男性は同時に体から力を抜いた。この若い男性がサラちゃんのお父さんかな。

「警戒してしまってすみません。依頼の受注、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ玄関前に従魔を待機させていてすみません」
「ではどうぞ、改めて中へお入りください」

 それから村長さんとその息子さんも加わり昼食の準備が進み、すぐにお昼ご飯の時間となった。俺たちの分も準備してもらえたので、ありがたく一緒にいただく。
 ちなみにリルンとデュラ爺も外で食べやすいようにとサンドウィッチをもらい、ラトにも木の実をもらってしまった。

 ご飯を食べようってなったところで目が覚めるラト、何かセンサーが付いてるよな。

「果樹園はどうでした?」
「昨夜は何も被害はなかったようだ。しかし既に十本近くのも木がやられているからな……早急にフラワーボアを討伐しなければいけない」
「え、そんなに木がダメになっているのですか?」
「そうなんです。午後に果樹園を案内させていただきますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 十本も木がダメになっているなんて、かなりの被害だろう。一本の木が収穫出来るようになるまで、どれほどの月日が掛かるのか……もう被害を出さないようにしないと。

「フラワーボアは五匹とのことでしたが、それ以上はいないのでしょうか」

 フィーネのその問いかけに、村長さんは頷きながらも否定的な言葉を発した。

「今まで一度に襲ってきたのは五匹というだけで、それ以上いないとは言い切れないです」
「そうですか……分かりました。もっと数が多い可能性も考慮しておきます」
「よろしくお願いします」

 それからもいろいろな話を聞きつつお昼ご飯を食べ、少し休んでから果樹園に向かうことになった。案内をしてくれるのは村長さんだ。

「果樹園までは住宅街から歩いて五分ほどです。そこからさらに徒歩五分ほどの距離全てに果樹が植えてあります」
「そんなに広いのですね。果樹園は柵の外にあるのですか?」
「いえ、魔物被害や盗難防止のために全て柵で覆っているのですが、フラワーボアにはその柵を簡単に壊されてしまい、森側は柵が機能していないのが現状です」

 確かにそうか、フラワーボアは果樹を倒してしまうほどに強い突進をする魔物だ。人が作った柵はよほど頑丈なものにしない限り、壊されてしまうだろう。

「あっ、見えてきました。あれが果樹園です」

 しばらく歩くと道の先に、とても色鮮やかな実が生っている木がたくさん見えてきた。

「今は収穫時期なのですか?」
「ものによりますが、ちょうど収穫期のものもあれば、もう少し先のものもあります」
「では今被害があるのはとても痛いですね」
「そうなんです。一刻も早く討伐していただけると嬉しいです」
「もちろんです。任せてください」
 
 それからは果樹園を回って、被害があった場所を順に見せてもらった。すると被害箇所は明らかに森側に集中していて、当たり前だけどフラワーボアがそちらからやって来ているのが分かる。

「この紐はなんですか?」
「あっ、それは急遽付けたもので、何かが通ると音が鳴るような仕組みになっています。これでフラワーボアがやって来たら音で誰かが気づけます」
「この音は村にも聞こえますか?」
「村が静かな時間ならば聞こえました。しかし皆が活動している時間では、風向きなどにもよります」

 じゃあ昼間はここで待機していて、夜は村長さんの家に帰っても問題はなさそうだな。まあ俺たちには人間の何倍も耳や鼻がいいリルンたちがいるから、あんまり心配はいらないけど。

「分かりました。ではとりあえず、今日は日が沈むまでここで監視をしています。皆さんは安心して仕事をされてください」
「ありがとうございます、とても心強いです」

 それから村長さんが仕事に向かったところで、俺たちは今後の予定を立てるためにも皆で集まって話し合いをすることにした。
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