外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗

文字の大きさ
上 下
37 / 95
第2章 王都編

64、依頼の村へ

しおりを挟む
 美味しいパンを食べながら村まで歩くこと三時間。目の前に村の入り口が見えてきた。道中はとても穏やかで平和なもので、俺たちは魔物の姿を一度も見ることなくここまで来ることができた。

 ただリルンが何回か街道を逸れていたので、近くにいた魔物を倒してくれていたのだと思う。本当にリルンには感謝しないとだな。

「フィーネ、肩にパン屑が凄いから払った方がいいかも」

 さっきまでラトが木の実パンを食べていた形跡が、バッチリ残っている。ちなみに肝心のラトはお腹がいっぱいになり、フィーネの鞄の中でクッションに包まれて眠りについたところだ。
 本当に自由に生きてて、ちょっとだけ羨ましくなるよな。まあ俺たちが甘やかすからっていうのが大きいんだろうけど……でも可愛いから止められない。

「本当? ……これでどう?」
「うん、綺麗になった」
「良かった。教えてくれてありがとう」

 そんな話をしていると村の入り口に到着し、門番を務める男性に声を掛けられた。この村はちゃんと柵で覆われていて、さらには門に常駐の門番がいることから、そこそこの規模がある村だと分かる。

 この規模の村で宿泊施設がないことは考えづらいし、村長宅に滞在となってたのは、依頼を受ける冒険者への配慮なのかもしれないな。
 
「いらっしゃい。観光客……というよりも、冒険者か?」
「はい。フラワーボア討伐の依頼を受けてきました」
「おおっ、あれを受けてくれたのか。村の皆が困ってたからありがたいぜ。村長宅は村の大通りをずっと進んだ先にあるから、そこに行ってくれるか?」
「分かりました。ありがとうございます」

 フレンドリーな男性に見送られて村の中に入ると、村は昼過ぎの時間ということもあるだろうけど、人がたくさんいて活気があった。
 この村は果樹を主に育ててるって話だったけど、見たところこの辺に木はないみたいだ。

「ここは住宅密集地みたいだね。お店も色々とあるみたい」
「かなり活気があるよな。あとで買い物もしようか」
「そうだね。あのお店とかジャム専門店じゃない……?」

 フィーネが指差したお店には瓶が並べられていて、中には鮮やかな色をした何かが入っている。

「ジャムだったらいくつか買いたいな」
『うむ! パンに塗ったら絶対に美味しいな』

 フィーネに向けて発した言葉に返答をくれたのは、ジャムを見て瞳を輝かせているリルンだった。本当にリルンはパンが好きだよな……パン自体じゃなくて、パンを美味しくさせるものにまでここまで反応するなんて。

「ふふっ、まずは村長さんのお家に行ってからね」

 それからはリルンとデュラ爺が目立つからか、村の人たちに挨拶されながら大通りを進んでいき、ついに一際大きな家の前に到着した。

「すみませーん。フラワーボア討伐の依頼を受けてきた冒険者です。村長さんはいらっしゃいますか?」

 玄関ドアをノックして声を掛けると、すぐに中からドアが開く。姿を現したのは――小さな女の子だった。

「おじいちゃん、おしごと行ってるの」

 村長さんのお孫さんらしき女の子は、そう告げると俺たちのことをじっと見上げた。まだかなり幼そうに見えるけど、人見知りしなそうだし良い子だな。

「サラ! 一人で玄関のドアを開けちゃダメってあれほど……」

 お母さんらしき人が部屋の中から出てくると、サラちゃんというらしい女の子はきゃっきゃと笑って俺たちの後ろに隠れる。

 うん、良い子だけどかなりお転婆みたいだ。

「ご迷惑をお掛けしてすみません。村長にご用事ですか?」

 サラちゃんを捕まえたお母さんが頭を下げながらそう聞いてくれたところで、フィーネが口を開いた。

「はい。フラワーボアの討伐依頼を受けてきたんです」
「そうでしたか、ありがとうございます。村長は果樹園に行っておりますので、中でお待ちいただけますか? そろそろ昼食のため帰ってくると思います。皆様の分の昼食もお出ししますね」
「あっ、私たちは良いですよ。突然来ましたから」
「いえいえ、食材はたくさんあるので遠慮なさらないでください」

 女性とそんな会話をしながら村長宅にお邪魔して、リビングに通された。
 するとそこには村長の奥さんだというパワフルな女性と、俺たちのことを出迎えてくれたサラちゃんの弟だというまだ歩けないほどに小さな子供がいた。

「赤ちゃん可愛いね」
「本当だな。結構動き回ってるし、もう少しで歩けそうだ」
「これ、あそぶ?」

 サラちゃんはリビングの奥に置かれた箱をガサゴソと漁ると、カラフルな布製のボールを持ってきた。そしてそれを赤ちゃんに差し出している。

「きゃっ、きゃっ!」
「これほしいの?」

 赤ちゃんが嬉しそうな声をあげると、サラちゃんも満面の笑みになりおもちゃを差し出す。

 その平和な光景に、俺たちは温かい眼差しで見つめることしかできない。なんだか、とても和む。

「サラちゃん、良いお姉さんだね」
「偉い子だよな。あの歳ならお母さんを取られたって不機嫌になってもおかしくないのに」
「そうだよね」

 孤児院にいたあのぐらいの子たちは、もっと幼かった気がする。やっぱり弟妹がいるっていうのは違うのかもしれないな。

『フィーネ、エリク、家に帰ってきた人間の男たちが、我らを見て警戒しているようだぞ』

 それからもひたすらのんびりとした時間を過ごしていると、家の外からリルンの声が聞こえてきた。帰って来た男の人たちって……多分村長だよな。
 確かに事前連絡なしで自宅前に神獣――従魔がいたら驚き、警戒するのも当然だろう。

「表に行こうか」
「そうだな。早くしよう」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。