悪役令嬢のビッチ侍従

梅乃屋

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本編

38:ボスの息子

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 やはり居たヴィラード。

 何となくそうじゃ無いかとは思っていた。
 だって帝国皇子が一人でこんな所に出向くはずがない。

 ともかく問題は俺のボスがルシャードになった事で、俺はまたお嬢様のお側に仕えさせてもらえる。
 有難い話だが良いのか?だって俺だぞ?ポンコツだぞ?性欲が勝ると用事を忘れちゃうエロ頭だぞ?

 などと色々言ってみたが、ルシャードは〝フェリの為なら全てを飲み込む〟と答える。コイツも相当だな。

「そもそも皇族が元組織の人間を雇って大丈夫なんですか?」
「リュディガーの養子を雇ったとて別段構わないのだが色々面倒なので、農商ウルリヒの養子セバスティアンとして採用している。侯爵家に仕えていた少し顔の良い侍従だ」

 あー成る程。そこになるのか。
 農商ウルリヒはボスのカモフラージュ身分で、確かに彼はその名前で俺を養子に迎えた。
 南西部の孤児院でもそう記録が残っている。
 実はマレクラルス家ともその身分で契約していた。

 そして何よりも俺の過去をヴィラードは唆るとか宣う始末だ。
 なんなの?NTR属性とかあんの?もしかして変な性癖が開花した?
 煽るように尋ねると、いつも通り無表情で

「問題ない。俺はセブを選んだ。俺の直感がそう言ってるので間違いない」

 そう言い切った。

「なぁ殿下?本当に大丈夫ですか?俺は結構やらかしてますよ?」
 埒が開かないのでルシャードに助けを求めれば、彼も苦い顔をしながら答える。

「ヴィラードがそう言うならそうなのだろう。彼は〝直感〟のスキル持ちだ」

 は?
 何それ!
 そんなスキルあんの?

 驚く俺にドヤ顔で説明するルシャードに苛つきを覚えたが、どうやら稀少スキルらしく母方の血筋から受け継いだらしい。
 先天スキルて遺伝らしいからな。

 あぁ、だから何かある度ルシャードはヴィラードと目配せしていたのかと思い出す。

 何となく落ち着いたところで部屋の扉が開いた。

 俺のボス、いや元ボスが困り顔で入室してきた。

「オイオイ、窓ガラス割っちまって外で大騒ぎになってんぞ?いくら皇子様でもこればっかりは隠蔽できねーぞ」
「すまない。宿には私が弁償するのでそう伝えてくれ。それはそうと、セブを預かるにあたって契約書は必要か?」

 ルシャードの言葉に俺は安堵した。だって窓ガラスってバカ高いんだよ。
 もうそれだけで俺は満足だ。契約とかは適当にやってくれ。

 すると元ボスは大きく息を吐いて俺の頭を撫でた。
「独立した息子が皇子様んとこに就職するんだ。契約ならセブと皇子様が雇用契約を交わしてくれ。勿論、不当な条件なら息子を渡さねぇ」

 その言葉に俺は、ちょっとだけ感動した。
 前世では父親という存在は俺を殴るか無視するかのどちらかのタイプだった。しょっちゅう変わっていたし父親というより母親の恋人だったからな。
 ルシャードは頷き、早々に書類を用意すると答えた。

 俺がうっかり元ボスの愛に鼻がツーンとなったところで、元ボスはニヤリと笑う。
「足を洗ったお前に仲間が何か吹っかけてもウチはもう関係ないしな?自分で対処しろよセブ」

 なん…だと!?

「ふざけんな!アンタが対処してくれよっ組織の責任だろうが!」
「バカ言っちゃいけねーよ。そんなヤワに育ててないだろうよ。まぁ助けて欲しければ俺んとこ駆け込んでこい。料金払えば引き受けてやるよ♡」
「金取んのかよ!」

 激しく噛み付くと彼は凶暴な目を剥き俺に凄んだ。
「組織抜けたやつが何を言っている?手塩にかけて育てたっつーのに美味しいところで皇子様に掻っ攫われた俺の気持ちはどうなる?厄介事を引き受けてやるから皇子様から依頼料くらいぶん取ってこいよ、息子よ」

 あ、やだコイツ。
 やっぱり裏社会の人間だわ。

 俺の感動を返せ!少しは甘やかしてみろ!毒親め!

 ぎりりと睨み返すと元ボスの表情は緩み、また俺の頭を撫でる。
「可愛い目で睨まれても意味ねーぞ。そもそもお前の顔を知っている仲間は大抵古参で組織内でも幹部だ。そう簡単にお前に手ェ出すやつなんていねーよ。皇子様よ、俺の息子を頼んだぞ」

 ルシャードは鷹揚に頷き、
「まぁ…セブ次第だ」

 ボスも結構な辛口のようだ。






 そして元ボスは帰り際、ピアスを返却するように言ってきた。
 俺の両耳に嵌めていた管理用のピアスだ。半径十キロ圏内なら居場所が特定できる魔石だ。

「もう必要ねーだろ?」
「まーな」
「ふはは!何だよセブ!同じ帝都に住んでるんだから寂しかったら会いにくれば良い。何せ俺はお前のお養父さんだからな!」

 そう言って俺の元ボスは去っていった。


 なんとも呆気なかったな。
 まぁ元ボスも第三皇子相手じゃ頷くしかなかったんだろう。あれだけの魔力を見せつけられたら誰だって従順にならざるを得ない。……俺もだが。
 ある意味この大陸統一だってできちゃうんじゃないかと思えるくらいの威力だったしな。
 もしかするとルシャードの暴走は元ボスへの牽制だったのかもしれない。
 だとすれば効果は抜群だったな。

 どうでもいいが、元ボスが先代皇帝のご落胤と俺が知るのは先の話。つまり元ボスはルシャードの叔父にあたる。


 その後、ルシャードに急かされフェリシテお嬢様に会いにいった。

 何とお嬢様は、俺を見て泣き出した!

「ばかぁぁぁっ!何でいきなり居なくなるの!セブのばがぁぁぁっ!」

 お嬢様が、泣いてる!

「すみませんお嬢様。宮廷入りするお嬢様と俺が一緒に行く訳にはいかないと思いまして」
「だがらど言っで何も言わずに出て行ぐごどないでしょぉぉ!ぜっがぐコッソリ契約書にセブの事入れでだのにぃぃ!ゼブのばがぁぁぁ!ポンコツぅ!エロ侍従ぅ!」
「あははは!ぜんぶ正解♡」

 俺の胸の中で子供のように泣きじゃくるお嬢様が可愛くて可愛くて。
 まるで出会った頃のような幼さで俺を詰る俺のお嬢様。

 俺がお嬢様に出会ったのは八年前。
 まだ子供だったお嬢様は外面は上品でも邸内では傲慢で我儘で、俺を着せ替え人形のように扱ったり八つ当たりされたりと大変だった。
 それでもゆっくりと諭し宥めすかして八年、内に秘めたストレスを話せる距離にまでお嬢様の信頼を得た。

 お嬢様はエグエグと嗚咽を出しながら俺を家族だと言ってくれた。血の繋がらない兄の様なものだと。
 俺は嬉しくて何度も謝りながらずっと頭を撫でて宥めていた。


 っは!殺気?!


 後ろでものすごい形相で睨み、そして悍ましい覇気を蠢かす一人の魔王!
 うわぁぁぁ待て待て皇子!今お嬢様だって言ってただろう?兄の様なものだと!勘違いすんな?
 ああああ何か部屋の空気が震えてんぞ?暴走するなよ?絶対するなよ?

 俺は必死にヴィラードに宥めるように目で懇願した。

 それでもルシャードの暴走は治まりそうにない。
 ならば。
「フェリシテお嬢様。このままだと目が真っ赤に腫れ上がりますよ。あぁルシャード殿下が涙を拭って下さるみたいですよ」

 横目で促すとルシャードも慌ててハンカチを手にお嬢様の肩を抱き、ゆっくりと涙を拭う。暴走は瞬時に治まったがお嬢様の顔は涙か鼻水か分からないくらいぐちゃぐちゃになっている。
 そんな酷い有り様の彼女を優しく慰めるルシャード。

 そして何故だか彼の顔は紅潮し鼻息も少々荒い。
 おい皇子よ。まさかお嬢様の泣き顔に興奮してんのか?しかも勃起してねーか、アレ?

 ルシャードも癖の強い嗜好持ってんなー。大丈夫かな、お嬢様。


 そんな訳で、
 色々落ち着いた。



 後の問題は…………



 緑色の瞳が、静かに俺を見つめていた。











◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 









お立ち寄り頂き誠に有難うございます(〃ω〃)

明日もまた22時と22時10分に連続投稿し、本編完結となります。
宜しければ最後までお付き合いくださいませ♡





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