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本編
33:俺のお嬢様は可愛い
しおりを挟むフェリシテお嬢様の婚約解消やリディの事が落ち着いた頃、ルシャード殿下達の帰国が明日に迫った。
そういえばこの前、クロヴィスを振った夜にヴィラードが誘ってきた件だが、俺はあっさり断った。
何故かと問われれば、なんとなくだ。
俺としても涎が出るほど嬉しい申し出だったが、あの状況で応えてしまうと駄目になりそうで。
深くは考えていない。というか考えないようにした。
そして明日の早朝には帰国するルシャードは、現在侯爵邸の中庭でフェリシテお嬢様とお話をしていて、俺はそれを遠くから眺めている最中だ。
再度やって来るからそれまで待っていて欲しい的な話をしているんだと思う。
それを陰から優しく見守る侯爵夫妻と、ただならぬ妖気を吐き出すシスコン弟、ジュール坊ちゃん。
ギリギリギリギリ歯軋り凄いんだけど?もう諦めろよ、歯が欠けちゃうぞ?やっとお前の姉上が幸せになるんだからさー。
俺はジュール坊ちゃんに近付き肩に手を置く。
「何、セブ?僕は今凄く、凄ーく機嫌が悪いぞ」
「知ってますよ。でもアルベール殿下とどっちが良かったですか?」
その質問に歯軋りは止んだ。
そして肩を落として部屋へ戻っていくジュール坊ちゃん。
それを見た侯爵夫人は、侍女に何やら指示を出して後を追っていた。
ジュール坊ちゃんの好きなアップルティーでも用意させてるんだろうな。この侯爵家、実は凄く仲が良い。
そして次の日、惜しまれながらもルシャード殿下一行は帰国され、マレクラルス家も日常を取り戻した。
色々あったが結果、お嬢様がこれから幸せになると思えば気分も上がる。
既に侯爵様にはフェリシテお嬢様を迎え入れる了承を得ているのか、侯爵家は色々と慌ただしい。
お嬢様が帝国に輿入れするとなればそれ相応の準備が必要で、侍女達の殺気が怖い。そしてフェリシテお嬢様に誰がついて行くか、お供争奪戦まで水面下で繰り広げられている。
そういえばクロヴィスだけど、何故か部屋に引き篭もって出て来なくなったらしい。
何でだろうね?
…そのうち嫌でも出てきて復活するだろう。
そして二ヶ月後の南風月。平たく言うと七月な。
夕食後にお忍びでルシャードが侯爵邸にやって来た。
侯爵様は事前に知っていたのか静かにフェリシテお嬢様を呼び出し、ホールで待つルシャードと対面させる。
突然の来訪に驚くフェリシテお嬢様。
ルシャードは騎士服に身を包み、お嬢様の足元に片膝をついた。
そして、手には一輪の花。
見事に咲いた、黄金の金月花だ。
ルシャードはそれをお嬢様に差し出し、愛を乞う。
『美しい姫。どうかこの花と、そして私の想いを受け止めて貰えないだろうか』
お伽噺の騎士のセリフだ。
お嬢様はそのまま硬直し、茫然と佇む。
固唾を飲んで見守る侯爵家の全ての者たち。
あまりにもお嬢様が動かないので、俺も少し不安になった。
だが、お嬢様の美しい金色の髪が微かに揺れ、か細い声で答える。
『…そ、その稀少な花と、貴方の想いを受け入りぇましょう』
噛んだぁーーーーーっっっ!
俺が激しく脳内でツッコむと同時に邸中から歓声が上がった。
大事なところで噛んだけどそれはそれで可愛い!寧ろ好感度爆上がりだ!
ルシャードも頬を緩めてブルリと震えていたから可愛さにヤられたに違いない。
二人が熱い抱擁を交わす中、見守っていたいた俺含む全員が立ち上がり拍手喝采をして大騒ぎになる。
侍女長はエプロンで拭いながら号泣し、若い子は抱き合いながら喜び、侯爵様は苦い顔をしながら涙を流す侯爵夫人の肩を抱く。
あ、地団駄踏んでるジュールは放置で大丈夫だな。
ともかくめでたい!噛んだけど!
良かったなーお嬢様!本物の金月花でプロポーズなんてルシャードしかできねーぞ!
ある意味リディに感謝だよな!アイツがいなければ金月花が手に入らなかったんだし。っかーーー!俺もう泣きそう!いや、泣いてねーし!ちょっと目から汁が溢れただけだし!
あーもう感無量だ!こんなに嬉しい事はないわ。今日は大宴会だな!あ、そうか!だから今日、料理長が殺気立ってたのか!アイツ知ってて黙ってたなんて酷いな。何で俺に教えてくれなかったんだ?あ、俺に教えるとお嬢様に悟られるか。よし!結果オーライだな!あっはっはっは!めでてェーーー!
早速ルシャードを迎えて酒の席が設けられて宴会が開かれた。
とは言え侯爵家族とルシャードの席だけに大騒ぎして乱れるなんて事はなく、穏やかに楽しい夕食後の酒を嗜む程度だ。
それでも終始笑っていたお嬢様の顔が嬉しくて、俺も侍従フェイスを脱ぎ捨て完全に顔が緩んでいた。
その後使用人たちだけの宴が繰り広げられ、侯爵邸は夜も騒がしく過ぎていく。
良い時間になり俺は宴の席を離れ、日課になっている邸の巡回をして寝ようと庭に出た。
季節はすっかり夏になり、夜でも生暖かい風が頬を掠める。
暗い夜空を見上げれば、知らない星が煌々と輝き勝手に名付けた星座を見つける。どうでも良いが…この世界、星座とかの神話はないんだよ。
とぼとぼと邸の周囲を歩き、感知魔法の確認をする。
もうお嬢様はアルベールの婚約者ではないので狙われる事はないだろうが、今までやって来た習慣はなかなか抜けず未だに仕掛けてしまっている。
この作業も、更に言うなら此処での暮らしも無くなるんだなぁなんて柄にもなく想いに耽る、中身アラサーおっさんの俺。
お嬢様が帝国に行けば、俺の仕事は終わりだ。
俺も帝国に同行するが、行き先は組織なのでもうお嬢様に会う事はないだろう。
ドン
俺は何かにぶつかってしまったらしい。
おかしいぞ、こんな所に物なんて置いてねーし。あれ?ムニムニする。
視界を遮る、雄っぱい。
俺好みのエロボディが目の前に立っていた。
「セブ」
しかも良い声。
俺の股間を刺激する良い男が、俺の名前を呼んだ。
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