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本編
29:襲来
しおりを挟むあー良い朝だ。
心も股間もスッキリってヤツ?
あの後、俺とヴィラードは別々に帰宅して俺はそのまま自室でぐっすりと睡眠をとった。
そんな爽やかな俺に更なる朗報が舞い降りる。
「セブ。今朝、陛下から婚約解消の通達が届いたわ……」
こんやくかいしょう…?
回らない頭で反芻する。
っは!婚約解消か!
来たか!
それはお嬢様の呪縛が解き放たれた瞬間だった。
しかも今回は陛下から下された命令だけに覆せない。
フェリシテお嬢様は喜びを噛み締めフルフルと震えながら俺に報告した。
「やりましたねお嬢様!これでルシャード殿下のお気持ちにお応えできますよ♪ 」
「な、何でそこでシャディが出てくるのよっ。わたくしとシャディは……そんな関係ではないわっ///」
顔を真っ赤にして否定するも、この部屋にいる全員が頬を緩めて彼女を見守る。
そうとなれば今夜は祝宴だな!俺は侍女長さんに料理長へ報告する様に目配せをすると、彼女は素早く部屋を退出。出来る侍女長だ。
いやー!早期解決で良かった!
このままズルズル一年過ごすと思っていただけに喜びもひとしおだ!
あー今日は本当にいい日だ!いや昨夜からか。ヴィラードのムチムチ雄っぱいは堪能できたしお嬢様の憂いは晴れたし!こんなめでたい日はみんなでお祝いするしかねーよな?お嬢様の好きなラズベリーのケーキを速攻で注文してこよう!よーし中身は三十路のおっさん張り切っちゃうぞー♡
「あ!侯爵様にも伝えなければ…って、同時に通達されてるか!っかー!ともかく良かったですねお嬢様!」
「ふふ。セブったらはしゃぎ過ぎよ」
嬉しくて思わずお嬢様の肩にグリグリグリと頭を擦り付け悦びを表現する。
フェリシテお嬢様も俺の頭を優しく撫でて嬉しそうに微笑んだ。
この部屋からお祝いムードが漂うなか、お嬢様はポツリと呟く。
「でも何で急に陛下もお許ししてくださったのかしら…?」
おぅっふ!
「さぁ?俺にもさっぱり…」
アルベールが女性不信になったからだとは口が裂けても言えない。
そんな俺にフェリシテお嬢様は疑いの目を向ける。
「あなた、知っている顔をしてるわね?何かしたの?」
本当に俺は何もしていないんだよ。
確かにきっかけは俺が作ったかもしれないが、勝手に自爆したのは向こうだ。
「いいえ、何も」
と心の脇汗ダクダクにしながら口を一文字に噤む俺。
ジトリとアイスブルーの美しい瞳が俺を突き刺す。
更に目を合わせろ言わんばかりに俺の顔をむぎゅりと覆うお嬢様。
イタイ!イタイよーお嬢様!視線で俺を殺さないで?頑張ってルシャードとの仲を応援するからさー!
俺は慌てて侍女さんにお嬢様のヘアメイク準備を促した。
そんな朗らかな朝はすぐにぶち壊れた。
「何かしら?」
お嬢様のヘアメイクが終わり、今日の予定を確認していた時だった。
玄関ホールで騒がしい声が上がり、慌てた侍女が部屋に飛び込んできた。
「申し訳ありませんフェリシテお嬢様!その、リディ様がどうしてもお会いしたいと言われ、お止めしても聞かなくて…」
「リディ様が?」
心当たりのない様子で首を傾げたお嬢様だが、これはまずいと俺の脳が警鐘を鳴らす。
「お嬢様、防御結界を張るのでそこを動かないでください」
俺の緊張した声にフェリシテお嬢様の顔が強張る。
慌てて部屋を出るとホールで侯爵家の護衛騎士を撒いて突撃してくる令嬢、リディ。
恐ろしいことに彼女は膨大な魔力を纏わせ、誰も近寄れない程荒ぶっていた。
彼女は悍ましい魔力を撒き散らし、周囲のインテリアを次々と倒して歩いてくる。
俺はすぐ侍女さんに金月花宮へ助けを呼びに行かせ、部屋にも結界を張った。
さすがヒロイン。魔力もチート級だよ。
対するはクソ雑魚の俺。
あははは!無理ゲー!
もう降参するしかねーじゃん!
なんて呑気に言っている場合じゃねーし。
最初の大人しい雰囲気は何処へやら。闇堕ちリディは恐ろしい形相でこちらへ向かってきた。
「どうされたのですか、リディ様?」
俺は階段下で息巻いているリディに、努めて冷静に話しかける。
「フェリシテはどこよ!話があるんだから邪魔しないで!」
どっちが悪役令嬢かわかんねーくらいの怒気を孕んだリディの表情。
もう何を言ってもお嬢様に会うまで聞きそうにないな。
彼女が近付くと魔力の圧で息が苦しくなった。
リディの魔力が暴走して周囲の家具が壊れ、既に階下の花瓶は割れていた。
騎士達は彼女の魔力で近づけず、侍女達は怯えて震えている。
リディが一つずつ階段を上り、距離が縮まる度にその魔力で防御魔法を施しているはずの俺のジャケットもビリビリと破れてきた。
このままの勢いでお嬢様に会えば間違いなく大怪我をさせることになるだろう。
それならば。
「リディ様。話をしたところで意味はありませんよ。フェリシテお嬢様は転生者ではありませんから」
「……………は?」
俺の言葉にリディの動きがピタリと止む。
「何をお話しに来られたのか存じませんが、恐らく貴女が期待するようなお返事が貰えるとは到底思えません」
「ど、どういう事よ!アタシはヒロインなのに誰ともハッピーエンドを迎えられなかったのよ!悪役令嬢が邪魔したからでしょう! 」
リディが荒ぶる度にピシピシとかまいたちのような鋭い刺激が頬を刺す。
「一体何の邪魔をしたと言うのですか?」
「だって!アルベールが急にもう会わないって!離宮から出て行けって言って来たのよ!推しには見向きもされないしマルセルは自宅療養って言うしクロヴィスは冷たいし、エドメなんか卒業してから音信不通になってんのよ!悪役令嬢が何かしたに決まってるでしょ!」
いてててっ!針みたいな魔力飛ばすなよヒロイン!アンタ聖属性持ちじゃなかったのかよ。ドス黒い魔力が渦巻いてんぞ!
「それはお嬢様も同じで、本日婚約を解消されましたが?」
「えっ?は?………婚約、解消?」
予想外だったのか彼女の魔力暴走が一瞬おさまり、少しだけ穏やかになる。
チャンスだとばかりに俺はリディに至近距離まで近付き、身動ぐリディに小声で囁いた。
「お嬢様は何もしてねぇって言ってんだろ?ただ単にてめぇの攻略が失敗しただけだよ、駄目ヒロイン」
「………は?……っっ!!あ、あんたっ」
俺の言葉に怯んだと同時にヴィラードが飛び込んできた。
「きゃぁっ何っ?あっ……………!」
リディが叫ぶとヴィラードの背後から光の輪が飛んできて彼女の手足に巻きつき、そのままバランスを崩して倒れ込んだ。
すぐにヴィラードが『確保!』と叫び、周囲で手をこまねいていた騎士団がすぐさまリディを拘束した。
「何なのどういう事!アンタ侍従でしょ?モブなのに何でっ!ちょっと痛いわよっ離してっ!アタシはヒロインなのよっ!むがっ……!」
叫ぶ彼女の口をスカーフで塞いだ俺。…うるせぇ。
「フェリはっ?! 」
ヴィラードと一緒にやって来たルシャードが叫んだ。
「二階のお部屋で俺の結界魔法に守られてま…ぶっ!」
いきなりルシャードは俺を俵担ぎしてどの部屋だと荒ぶる。
「二階の東奥です!ちょ、とりあえず下ろして!」
「フェリシテっ!」
俺を担いだまま廊下を走り、勢いよく扉を開け放ちお嬢様を呼ぶルシャード。
だから下せって!
「シャディ……!」
部屋で大人しく俺の結界に守られていたお嬢様。
それを見たルシャードは俺を投げ捨てお嬢様を抱き寄せる。
二人は熱い抱擁を交わして見つめ合った。
「大丈夫かフェリ?怪我はなかった?」
「わたくしは何もなかったわ。それよりも…」
「あぁ可哀想に怖かっただろう!もう平気だ、私がフェリを守ってあげるから!」
「………シャディ……♡」
ねぇ俺、今投げ捨てられたんだけど?
リディの魔力でジャケットボロボロなんだけど?
………イタイよぅ。
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