悪役令嬢のビッチ侍従

梅乃屋

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本編

24:ウホ!良いお尻♡

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 突如舞い降りた大型鳥竜。

 黄金の鶏冠を持つ魔物の見た目は巨大なハシビロコウに近い。
 太く鋭い爪を持った脚は地面を踏み鳴らし、翼を広げて威嚇してくる。
 正式名はウィリデリア・金鶏冠種大嘴鳥竜。名前長ェ!そして意外と俺冷静。

 バサリと羽ばたかせると突風が舞い、俺は慌ててリディへ駆け寄り防御壁を展開した。
 リディも初めて見る大型の魔物に声も出せず固まっていたようだ。

 鳥竜はその大きな嘴を開けて奇声を発し、今にも飛びかかりそうに首を揺らしている。

 そこへヴィラードが俺たちの前に静かに立ち塞がり、腰に差した剣をスラリと抜く。
 逞しい体躯で優雅に構え、強者の余裕を漂わせた彼は巨大な魔物に臆することなく魔力を滾らせた。

 ローブの裾がふわりと靡き、広背筋の盛り上がりと形の良い尻に目を奪われる。

 ……ウホ!良いお尻♡

 その瞬間ピキ、という固く透明な音がすると、時間が停止されたように魔物は動かなくなった。
 さっきまで咆哮をあげていた怪鳥は、見事な氷で覆われ臨場感あふれるポーズで固まっていた。

 瞬殺!マジ?
 ナニコレ!勇者じゃん!チート?尻に目が眩んだ瞬間で仕留めるって何なん?ヴィラードってチートなの?

「一瞬で凍っちゃった!凄ーい!ヴィラードさんお強いんですね!」
 リディが大興奮で絶賛しているのに俺も激しく同感し、逆にこんな化け物級の魔術師がいるコルディア帝国に脅威を感じた。…戦争になったら絶対負けるやつやん?

「凄いですね。その剣はもしかして魔力増幅系の付与とかされてるんですか?」
 ヴィラードは鳥竜を剣で斬らずに振り下ろしただけだったのでそう尋ねると、彼は少し頬を緩ませ頷いた。

 この世界、強い魔力持ちは魔法付与した武器を使用するのが通常だ。
 そうすれば少ない魔力量で魔術が使えるからな。

「この時期は子育て中の魔物もいるので倒してしまうと後が面倒だ。殺さず動きを止めておくのが一番良い」
 ヴィラードの強さを知っているルシャードは平然と説明して氷漬けになった巨大ハシビロコウをコンコンと弾き、すぐに探索を促した。

 各地で魔物討伐をやっている彼らにとって、このレベルは大した敵ではないのだろうか。俺は初めて見る大型鳥竜にビビって足が震えていたのにな。
 底辺で人間相手に小狡い手を使う俺には次元が違いすぎてついていけねー世界だ。

 その後何度か小型から中型くらいの魔物に襲われそうになったが、ルシャードとヴィラードのお陰で難なく山を進む。ルシャードもさすが皇子だけあり優雅な剣技で獲物を仕留める。対するヴィラードは氷魔法が得意なのか、多勢の魔物を一瞬で凍らせルシャードの動きを補助しながら剣を奮った。
 チャンスがあればあの胸に抱き着きたい。戦闘になるたび靭やかにうねる肉体と滴る汗に魅了されムラムラする。

 そして周辺を探索すること一時間弱。
 そろそろリディが根を上げ始めた頃、ルシャードが崖の合間に金月花の葉っぱを見つけて大いに盛り上がった。

 思うに金月花が稀少なのは、魔物の巣の近くに自生するからでは?とほんのり理解。…どちらにせよ俺には手が出せない代物だ。

「開花時期は南風月だ。近い内に特別派遣を寄越して観察させよう」
 ルシャードは満面の笑みで金月花の葉っぱを撫でた。

 ……いやー良かった!
 これでプロポーズ出来るな皇子様よ。因みに南風月は七月な。
 それまでフェリシテお嬢様の心をガッツリ掴んでいてくれと俺は切に願う。

 さて、念願の金月花も見つかったことだし帰ろうかという所で、リディが折角なのでベジエ邸に寄って欲しいと言い出した。

「申し訳ないが本来休息日となっているので、私が離宮を抜け出している事実が漏れるわけにはいかないんだ。そろそろ時間も迫っているので早々に戻るよ」
 彼には珍しくご機嫌にそう伝えると、リディは残念そうに笑った。

「なんか上手くいかないなぁ……。でもまだ手はあるんですよねぇ…」
 ボソリと呟き、リディは笑顔で続けた。

「この自生地を国に報告すれば、ここは保護地区になりますよね?」

 は?

 ルシャードを笑顔で脅すヒロインリディ。
 帝国皇子を脅すとは…コイツ、心臓に毛が生えてるぞ!

 だがリディの言うことは事実だ。
 確かに稀少な金月花の自生を国に報告するとその周辺は保護地区となり、採取が不可能になる。だが報告は義務ではなく任意でいい。
 だからこそルシャードは必死に野生の金月花を探していたのだが…。

「何が望みだ?」

 先程の上機嫌が一気に消え去り、帝国皇子の表情でリディを見下ろすルシャード。
 それでもリディは臆する事なく彼に条件を提示してきた。

「私を、お嫁さんにして欲しいです」

 やはりか!
 リディは隠しキャラ狙いだったのか!さすが人気ナンバーワンの男はモテますなー!
 多分だが学園中に留学してこなかったため諦めていた所に時期を外してやって来た隠しキャラ。
 彼女にしてみればこのチャンスを逃したくはなかったのだろうか、かなり強引な手に出たようだ。

「アルベールは良いのか?」
 俺は動揺してこの状況を見ているが、ルシャードは意外にも冷静だ。

「それより条件を飲まなければ金月花が手に入りませんよ?」
 ふふふ♡と微笑うリディの笑顔が不気味で怖い。

「本末転倒な望みだな」
 ふぅと嘆息したルシャード。まぁそうだろう。

「本末転倒?」
 意味がわからずコテンと首を傾げるヒロインリディ。
 どうやらルシャードのフェリシテお嬢様に対する執着は知らないようだ。
 そして、幼馴染設定も公式ではない展開みたいだな。

「何故、私が金月花を求めているかは分からないようだな」
「………?古代植物や考古学に興味があるからじゃないのですか…?」
 リディの答えは間違いではない。
 一応ルシャード皇子の来国理由は、古代遺跡の視察だったからな。

「そもそも私が他国の遺跡を調査しているのは戦争時に破壊しないためだ。金月花は……求婚するために探していた」

「えっ求婚?………わたしに?」
 ぽっと頬を染めるリディ。

 んなわけあるかーいっ!自意識過剰だろ!
 ヴィラードも堪えきれなかったのか、ブフォと吹いていた。すぐに真顔に戻ったが。
 ルシャードが前半ちょっと怖いこと言っていたが今はスルーだ。それよりもリディの頭の中が心配だぞ。

「何故私がよく知りもしない君に求婚しなければならないんだ。その発想はどこから湧いてくるんだ」
 髪をくしゃくしゃとかき上げ苛立ちを隠しきれないルシャード。気持ちはわかる。宇宙人と話している感覚だろう。

「だ、だって!ルシャードルートは金月花探しで好感度を上げて家にお泊まりしてもらうと仲が深まって密輸組織の摘発を手伝うまで進展するはずなのよ!それからっええとジュールの好感度も上げておけば侯爵家の闇も同時に暴いて悪役令嬢を断罪できるオプションも付いてくるはずでしょ?あ、そうだわ!ルシャード様の本来の目的は密輸組織の捜査に来られたんですよね?」

 矢継ぎ早に喋るリディだったが、果たしてこれを理解できるものがこの世界にいるだろうか?

 呆然と言葉を失っていたルシャードが、俺に一言。



「…………セブ、頼む。通訳してくれ」

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