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本編
20:大暴露の一夜 後編
しおりを挟む驚愕の暴露をかましたクロヴィスだったが、彼にとってそれは重要ではなかったらしい。
俺はクロヴィスに腰を抱かれたまま廊下を早足で駆け、城内騎士の視線に耐えながら連れ込まれた一室。
どうやら次期宰相様は王宮の私室も用意されているらしい。
バタンと閉じられた扉に押しつけられた俺は、ギラギラと嫉妬の炎を燃やすクロヴィスに追い詰められる。……氷の貴公子何処へ行った?
「アルに何をされた!まさか身体まで要求されたのではないだろうな?」
クロヴィスの鬼気迫る勢いに思わずコクンと頷きそうになるのを抑え、慌てて首を振る。
俺が口を開き掛けた途端その唇は奪われ、熱い舌で激しく口内を嬲られる。
「んむぅ………っ」
重厚な扉に身体ごと縫い付けられ、顔の横に降参した手のひらは彼の手に絡め取られる。
執拗なキスにうっかり体が反応しそうになったが、何とか気力で堪える。
涼やかな目元は普段のクロヴィスからは想像つかないほど狂気を灯し、冷たい口元は俺の唇を蹂躙する。
唾液が顎から溢れ落ちても彼の劣情は治まらず、やっと解放された時は俺の唇はぽってりと腫れ、唾液でテラテラしていた。
「はぁぁ…クロヴィス様?少しは俺の話を聞いてくれませんか?」
俺は絡まった手を放し、彼の首元へ抱き込むようにしなだれた。
「話など……」
眉間に皺を寄せ視線を外して拗ねるクーデレ担当。
「俺はアルベール殿下にあのハグ以外触られていないですよ。殿下も仰っていた通り、本当に単なる感謝のハグだったんです」
横を向いたクロヴィスの顔を覗き込み、ちゅ、と軽く頬にキスを落とすと一瞬表情が解れた。
「………本当か?」
「えぇ本当です。クロヴィス様が誤解するような事は一切ありませんでしたよ」
そう答えるとやっと俺に視線を寄越し、切なそうな顔で頬を撫でつけた。
「…リディがアルを選んだ時にはこんな感情を覚えなかった。だがセバスティアン、君を奪われるのだけは我慢ならない」
コイツ、堕ちてやがる……!
参ったな。
うっかりイジドールの策に乗ってクロヴィスを口説き落とそうとしたが、ここまで本気になられるとは思いも寄らなかった。
一発抜いてスッキリさせれば少しは頭も正常に働くだろうとムラっ気を出したのは悪手だったようで、更に俺への執着を見せるようになった。
そもそもクロヴィスはマレクラルス家と同じく侯爵家で長男だ。
平民で男の俺を選んではいけない立場なんだよ。後継者も必要だしな。
ぐるぐると考え込んでいると、クロヴィスは俺を抱き寄せぎゅうぎゅうと締め付ける。
熱い吐息が首元にかかり、そのまま何度も吸いつかれる。
それに。
コイツも俺のお嬢様を断罪した絶許対象者なんだよ。
そうだよ、思い出せセバスティアン。
あの時のフェリシテお嬢様の凛然とした姿。震える脚を踏ん張りながら立ち続けたか細い体。
将来を約束していた相手に裏切られ、自分より大きな男達に敵意を向けられても一切怯まず媚びなかった強い意志。
あぁ…何て気高い俺のお嬢様。
俺のお嬢様を泣かす奴は何人たりとも許すわけにはいかない。
お嬢様は泣いてねーけどな。寧ろ清々したと宣っていたけどな。そして半分は強がりだって知ってるけどな。
じゃなきゃあんなに毎日努力しねーだろ、普通。
俺はクロヴィスの肩に手を置き、いつもの侍従フェイスを取り戻す。
「クロヴィス様。以前も申し上げた通り俺は貴方のお気持ちにはお応えできないんです。但し…お慰めはいつだって出来ますよ」
色を含んだ笑顔を向けると、彼はまた眉間に皺を寄せ俺の唇にキスを落とした。
ちゅ、とリップ音を鳴らして離れる唇。
そして何も言わずにクロヴィスは何度もキスをして暫くそのまま抱きしめ合った。
◆
「ぷはー」
クロヴィスから解放された俺は離宮の中庭のベンチにだらしなく腰を落とし、煙草に火をつけ深呼吸するように煙を吐く。
臭いが付くから滅多に吸わないが、流石にメンタルやられそうになったので精神安定剤代わりに一服する。
四月も後半になると夜も温い。
俺はぼんやりと曇った夜空を見上げて煙が流れるのを眺める。
久々の煙草に脳がクラッと来たがそれも心地よく、癖で横を向いてもう一度煙を吹いた。
「え?」
盛大に吹いた煙は、見えない何かに弾かれ霧散した。
おいおいおい?まさかと思うが、そうか?
「ヴィラード様?」
完全なる勘で呼んだ名前は見事に当たり、目の前の空間が歪んでエロボディが姿を現した。
普段の行儀よく着込んだ騎士服ではなく、シャツにスラックスという軽装の彼は無表情で佇む。
「マジか!まだ俺に嫌疑がかかってんの?」
驚きのあまり素の口調で問いかけると、ヴィラードは少しバツが悪そうに苦笑した。
「いや。ただ、赤薔薇宮を一人で出て行く所を見かけて思わず尾けてみたら……」
彼はそこで言葉を口を噤む。
ちょっと待て?
て事は最初から今までずっと見ていたって事だよな?
アンタまた見たのかよ!
クロヴィスとの濃厚キスも覗いてたわけだよな?
もーヤダー!
何この変態!
「あぁ成る程。全部見てたんだよな?楽しい趣味してんな?」
もう繕う必要はないと判断して嫌味を言ってやった。
「すまない。フェリシテ嬢に関わる話だったので最後まで尾けさせてもらっていた。気分を害させて悪かった…」
クロヴィス以上に表情筋が動かない彼の申し訳なさそうな顔は、嗜虐心を煽った。
「あーそうだな。すごく気分を害した」
「申し訳ない……」
大男がしゅんと項垂れた姿は耳を垂れた大型犬を連想させ、帝国皇子を護衛するいつもの威圧感は全くない。
後ろに撫でつけていたハニーブラウンの髪も今は無造作に流されていて、随分と若く見える。
俺は最後のひと吸いを終えた煙草を魔法でジュッと消し炭にして払い、立ち上がった。
息のかかる距離まで近づいても警戒される事もなく、騎士然とした綺麗な姿勢で佇むヴィラード。
俺はそのまま耳元へ誘うように唇を寄せた。
「じゃぁさ?俺の相手をしてくれよ。正直参ってんだよね」
そう甘く囁くと、ヴィラードは瞠目して俺を凝視したが、すぐにいつもの無表情で断られた。
うん、分かってた。
ヴィラードのようなハイスペックな男なら俺なんか相手にしなくても間に合っているだろうしな。
「なんだ、ノリが悪いなぁ」
俺は戯けて見せ、二本目の煙草を取り出しついでに勧めると意外にも手に取ってくれた。
しゃぶり付きたくなるような彼の唇に咥えられた煙草に火を差し出し、自分のそれにもつける。
ヂリと葉っぱが焼ける音がして静かに煙を燻らせた。
暖かい春の夜空に煙が消えて行くのをぼんやり眺めていると、ヴィラードが口を開く。
「プライベートまで覗き見するつもりは無かった」
「別に構いませんよ。俺はもう気にしておりません」
クロヴィスとの事は正直プライベートというより仕事みたいなもんだし。
侍従口調で答えると、彼は少し遠慮気味に煙を吐いて続けた。
「さっきの口調がお前の素なのだろう?あのままで構わないんだが」
いつもは鋭い緑色の瞳が、今は柔らかな眼差しで俺を見つめる。
やっぱイイオトコだなぁ♡お断りされたけど。
「あ、そう?悪いね、元々平民育ちだったから口は悪いんだ」
「俺の前では構わない。その方が気安くて良い」
「そりゃどーも」
ニヘラと笑うと彼は視線を外し、髪をかき上げた。
「せっかくの誘いを断ってすまない」
は?
「い、いや良いよ、気にしてないし。伴侶か恋人がいるんだろ?」
「……どちらも、居ない」
ほぅ。
て事は、俺は好みじゃなかったんだな。
「へぇ…」
のんびり煙草をぷかぁとふかすと彼はボソリと打ち明けた。
「実は……俺は、不能……なんだ」
おっふ!
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