悪役令嬢のビッチ侍従

梅乃屋

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本編

16:魔力が高い男

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 パーティーの後、俺を呼び出し一頻り嫉妬を顕にしたルシャード殿下。
 いきなり本題に入り、俺はまた脂汗を垂らしながら侍従フェイスを保つ。

「企む……とは?」
「さっきアルベールと話していたのは、昨夜の件ではないのかな?」

 昨夜の件…
 明らかに俺がクロヴィスに奉仕していた件だと思うが、何故知っている?
 あの時感知魔法には一人しか引っ掛かっておらず、しかもそれはアルベールだったはずなのに。

 あ。

 エロボディ騎士ヴィラードか!
 隠匿系の魔術をしていると疑っていたが、やっぱりそうか!感知しなかったが昨夜の現場に居たのか!

 思わず彼を睨むとその緑色の目で俺を一瞥し、すぐに視線を外した。

 見てたの?
 アンタ見てたのね?!

 ああああ!
 俺のフェラをヴィラードに見られていたなんて!
 アルベールなんぞに見られても逆に見せつけてやろうって気になるけど、好みの男に見られんのは凄く恥ずかしい!

 あーもう!俺が淫乱クソ野郎だとバレたじゃねーか!
 取り敢えずその体、舐めさせろ!デコボコとした隙間という隙間を余す事なく舐め尽くしてやる!そんで俺のスペルマぶっ掛けて垂れ流れる道作って〝あみだくじ~♡〟って遊んでやるからな?覚悟しとけ!

 はぁぁぁ。
 ま、いいか。どうせこんなハイスペック騎士と仲良く出来る筈ねーし。

 しかし凄いな。俺の感知魔法が反応しないヤツって中々居なかったんだけどな。
 俺の視線に気付いたルシャードも、ヴィラードを見てふわりと微笑う。

「ヴィラードの母親はアルビニエス王国出身でね。彼のこの体躯では想像つかないだろうが、とても魔法が得意な男なんだよ」

 あぁ西の大陸にある北国、アルビニエスか。
 行ったことないけど小さい国ながら魔力の高い者が多いって聞いたな。すごくつよいってのも納得。

「さすが帝国の騎士様は優秀でいらっしゃいますね。是非ともその技術をご教授願いたいです」
 出来れば個人レッスンで頼む。

「そんな事より、君の怪しい行動は一体誰の指示で動いているのかな?」

 皇族の威圧が俺を襲う。
 これに関しては喋っても侯爵様は怒らないだろうし、俺が勝手にやったと言っても全然いいや。

 なので俺は観念したように話した。

「ご存知かと思われますが、お嬢様は卒業パーティーで大勢の前で辱めを受けました。お嬢様が受けた屈辱を晴らしたいと思いまして何か手はないかとアルベール殿下の側近から接触を図っていたのですが、何故かこんな状態になっ……?」

「セブ…辱め……とは何だ?」

「え?」

 ゴゴゴゴと何故か背後から文字が浮かんで見えるルシャード殿下。
 いや、ちょっと待って!知らなかったのか?って、部屋が揺れてね?地震?違う!あ、魔力暴走してる!

「で、殿下!? おお落ち着いてくださいっ!ひゅぉっっ!」

 高い破裂音が響き目の前の茶器が見事に粉砕した。
 更に絵画が激しく壁を打ち、飾られたお高そうな調度品が次々に破壊されていく。
 オイオイ!さすが皇族、魔力も半端ねェな!じゃねーよ!金月花宮壊す気かよ!頼むから落ち着いてくれ!

「ルシャード様、制御を。離宮が壊れます」

 落ち着いた良い声がした。
 ルシャードの目の前に立ち、肩に手を乗せ宥めるヴィラードだった。

 その一瞬でルシャードの暴走は収まり、揺れる額縁がカタカタと余韻を鳴らした。

 ルシャードの激昂は魔力暴走を起こすらしい。
 魔力の高い者にある症状らしいが、初めて見たな。
 俺は乱れた髪を撫で付け、取り敢えずルシャードが正気に戻るのを待った。

 ルシャードは周囲を見渡し項垂れた。

「すまない。久々に制御を失った……」
「いえ、しかし凄まじい威力ですね。壊れた物は明日にでも取り替えるよう指示しておきます」

 ルシャードは大きく息を吐き、実用的な物以外は置かないように言われた。
 また壊れても大変だもんな。

 彼の魔力暴走を止められるのはヴィラードだけで、他の者だと魔力に弾かれてしまうとか。
 怪物級の魔力持ちが目の前にいる現実に、軽く逃避したい気持ちになるクソ雑魚の俺。

 そもそもルシャードがフェリシテお嬢様と出会った地方都市に行っていたのは、この暴走を制御するためだったらしい。

 とまぁそれは良いとして。

 ルシャードは一旦深呼吸をし、心を落ち着かせた後再び尋ねる。
 卒業パーティーでアルベール殿下に婚約破棄を大声で言い渡された状況を説明すると、また彼は体を震わせ暴走仕掛けた…が、何とか抑え切れたようだ。アブネー。

「つまり?たかだか男爵令嬢を注意しただけで、フェリは大勢の前で婚約破棄を言い渡されたと言うのか?」
「左様です」
「………………………!!!」

 静かにヴィラードが近寄りそっと肩に手を乗せる。
「ルシャード様……」
「あ、あぁ大丈夫だ、問題ない」

 ヴィラードの大きな手をポンポンと弾き、深呼吸するルシャード。難儀だな。

「それは、マレクラルス侯爵も黙ってはいないだろう。彼の溺愛ぶりなら一族郎党潰すくらいやる性格だと記憶しているが?」
「残念ながら、お嬢様を断罪したアルベール殿下のご友人たちのお家柄はこの国でも重要な方達ばかりでして。侯爵様も腑が煮え返る思いで俺に報復を依頼してきたのです」
「それで?成果は?」

「現在マルセル・ダンテス伯爵令息の謹慎一ヶ月……」
「ぬるいわ!」
 キャイン!

 ビリビリと部屋の空気が震えた。
 もーこの皇子コワイー!

「平民侍従の俺が出来ることって限られてるんですよー!何か手があるなら是非とも教えてほしいくらいです!」
「むぅ。しかし家に損害を与えず本人のみの報復となれば中々に難しいのもわかる。私ならすぐさま罪人に仕立て上げ娼館か炭鉱送りにしてやるんだが…」

 お前は組織のボスか!
 思考が俺のボスと同じなんだが?! やめろよマジで!
 いや俺も同じようなことやったけどな?流石に当時十五歳のお嬢様を誘拐未遂した三十代の変態ストーカーは野放しにできなかったからな。

「そもそもお嬢様ご自身がこの一年を穏やかに過ごしたいと仰っているんですよ。そうすれば婚約は解消されるからと」
「健気なフェリ………!」

 さっきまでの悍ましい怒気を纏った空気が一瞬で霧散する。すげーなお嬢様効果。
 ルシャードは口を抑えて何かを妄想しているのか、いや何かってフェリシテお嬢様の事だろうけど蕩けた顔で震えている。

 難しいのはリディを脱落させるとお嬢様が王子妃に選ばれてしまうということだ。
 だからお嬢様は何もするなと俺に言っている訳なんだがな。

「そう言えば…」
 妄想から帰ってきたルシャードが顔を上げて続ける。
「あの男爵令嬢は混乱スキルか何か持っているのか?」

 おぉ気付いたのか。さすが暴走皇子。

「それが何のスキルかわからないのですが、彼女はどうやら自分に都合の良いように誘導し手懐けるスキルを持っているみたいなんですよね」
「………誘導か」

 彼はチラリとヴィラードと目を合わせ考え込んだ。


 取り敢えず、
 その晩、何故か俺とルシャード皇子サイドは共に戦う同志となった。

「フェリに関することは全て報告するように。頼んだぞセブ」

 輝く笑顔で命令された。

 ……ヤダー面倒くせぇ!

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