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本編
15:昨夜の、アレ
しおりを挟む「お前、フェリシテの侍従だな?クロヴィスとはどういう関係だ?」
アルベールに問い詰められる俺。
昨夜クロヴィスを慰めるためにご奉仕していたのを覗き見していたのは何と、アルベール王子だった。
俺たちのイチャイチャを目撃した彼は敵意を顕にする。
「どういう…とは?俺はただのフェリシテお嬢様の侍従ですが」
あくまですっとぼける俺に苛々と詰め寄るアルベール王子殿下。
乙女ゲームのメインヒーローだけに整った顔を持ち、身長も俺より少し高い。
美しいブロンドの髪に、瞳は煌めく紫色。その目は現在俺を睨みつけている。
「ふざけるな。俺の親友を手篭めにして何を企んでいる。全てフェリシテの指示でやっているんだろう!汚い真似をするならこちらも手加減はしない。一瞬でお前を抹殺する事だってできるのだからな?」
息のかかる距離で囁かれてはいるが、その言葉は非常に物騒だ。
俺は侍従フェイスを保ち冷静に返す。
「企むなんて何もしておりません。寧ろフェリシテお嬢様はこの一年を穏やかに過ごしたいと仰っているのですから」
「嘘を吐くな!では昨夜のアレは何だ!明らかに………あ、アレだろう!」
あはは〝アレ〟って。顔真っ赤ですよ王子?
「アレですか?侍従が性欲処理に使われるのはよくある事でしょう?何をそんなにお怒りなのか分かりかねますが?」
「よくある…?お前は普段からあんな事をしていると言うのか」
意外にも少しショックを受けるアルベール。まさか知らない訳ないよな?そこまで清廉潔白な王子様じゃないだろうし。
「そんな。さすがにいつもではありませんよ。偶にですよ♡」
と言っても俺が体を使うのはボスの許可がいるんだよな。
狼狽える王子が少し可愛く感じて思わず笑みが溢れた。
俺の笑みをどう感じたのかは分からんが、明らかに動揺を見せながらもアルベールは俺に尋ねる。
「で、では、俺が……それを望めば………お前は簡単に応じるというのか?」
真っ赤な顔で挑発する王子がちょっと楽しくなってわざと彼に近付いた。
「俺にも好みはありますが、命令とあらば喜んで従いますよ…」
更に耳元に唇を寄せて囁いてみる。
「俺を、ご所望されますか?」
「…………!す、する訳ないだろうっ!」
ドン!と俺の胸を撥ねつけ声を上げた王子。あはは!耳まで真っ赤だぞ。
「セブっ!」
丁度フェリシテお嬢様が部屋から出てきて駆け寄ってきた。
そしてすぐに俺の前に立ち、美しいカーテシーをして頭を下げるお嬢様。
「恐れ入りますアルベール殿下。ウチの侍従が何か無礼を働きましたでしょうか」
するとアルベールは顔を背け『何もない』と小さな声で呟き、去っていかれた。
彼の足音がなくなるとお嬢様は頭を上げ、ぎろりと俺を睨む。
ヤダコワイ!
でもその怒り顔もプリティーで萌える♡
「な、に、を、し、た、の!」
ゆっくりと怒りを抑えながら俺を責めるお嬢様。
「何もしてませんよぉ、あ、お嬢様眉間に皺が!あぁ可愛いお顔が台無し~♡」
グイグイと眉間の皺を伸ばしながら笑うと俺の手を振り払い、『もぅっ!』と頬を膨らます。
…超可愛い♡
「セブ、アルベール殿下を誘惑してたんじゃないでしょうね?」
「まさかそんな。お嬢様は俺の好みを知ってるでしょう」
「知っているけど貴方わたくしの知らない所で動くじゃないの」
だって知ってる所で動いてたらバレちゃうじゃん。知られたらまずい事あるしー。
『先程の彼は誘惑か挑発かと言えば、誘惑にしか見えなかったねぇ』
ふと、顔を上げるとルシャードと背後には護衛のヴィラード。
やっぱり気配感じなかったんだけど、デフォでそれ系の魔術でも掛けてんのかな。
『お見苦しい所をお見せして申し訳ありません、ルシャード殿下』
俺のために頭を下げて帝国語で詫びるお嬢様。
『やだなぁフェリ。顔を上げて。それにしても…王子を誘惑する侍従って興味深いね、セバスティアン?』
きらりとルシャードのアーモンド型の目が俺を突き刺した。
ヤダ、目をつけられてる?
俺、まだ何も悪い事はしてないからね。
深く調べるなんてしないでくれよ?
俺は黙ってお嬢様の後ろで控えるしかなかった。
◆
それから会場へ戻りしばらく歓談すると、ルシャード達は会場を後にした。
お嬢様も疲労困憊だっただろう。
俺もだ。
でもこのパーティーでお嬢様とルシャードの仲が深まったのは一目瞭然だった。
時折二人で目を合わせて笑うお嬢様がとても自然で、俺はその度に心が温かくなっていた。
気になるのはリディがやたらとルシャードに接触したがっている所だ。
アルベールを手に入れたんだからもう良くね?と思うんだが、貪欲にルシャードに近づく彼女は転生者ではないかと疑っている。
だとすれば厄介だなぁ。
攻略失敗している時点でそこまで頭の良い子とは思えないんだが、ゲームの内容を知っているとなれば面倒だ。
何がきっかけでお嬢様が断罪されるか分からんし、何より侯爵家にも後ろめたい事は沢山ある。
侯爵様がさっさとボスの組織と手を切れば良いってもんでもないし、そうすれば逆に明るみに出る可能性もある訳で…あ、やば。頭使ってたら眠くなってきた。俺のポンコツ頭が根を上げたか。
エロボディ騎士ヴィラードの正装を脱がす妄想をしながら寝ようとすると、お呼びがかかる。
「夜分に申し訳ないね、セバスティアン」
またしてもお嬢様に見せる柔和な笑顔は何処へやら。
俺の目の前には若くして各国を飛び回り、帝国の脅威を駆逐してきた獰猛な第三皇子。
もーやだー。俺を呼び出して睨んでるー!
この皇子コワイー!
「ところで、フェリには〝セブ〟と呼ばれているみたいだけど私もそう呼んでも構わないかな?」
………は?
ナニソレ?愛称呼びされてんのが気に食わないのか?
取り敢えず光栄ですとお答えしたが、この皇子は俺に対して嫉妬してんのかな?
試しにちょっとだけ煽ってみた。
「お嬢様が愛称で呼ぶ侍従は俺だけですので、とても誉れに思っています。あ、この琥珀のピアスもお嬢様からのプレゼントなんですよ」
「プレゼント……だと?! 」
ガタリと腰を浮かせ俺のピアスをガン見するルシャード。
「あと、今夜の正装もお嬢様に選んでいただきました」
「フェリの……チョイス?! 」
「それから、普段着ているシャツはお嬢様から頂いたものばかりです」
「フェリから普段着を…! 」
フルフルと震えるルシャードがおかしくて俺は笑いを堪えながら煽ったが、側にいたヴィラードにジロリと睨まれた。あ、素敵♡
「私の贈ったドレスは着てくれなかった……」
力無く小さく呟くルシャード。
「その件ですが、お嬢様はまだアルベール殿下の婚約者ですのでルシャード殿下のお色を纏うのは遠慮させて頂いたんですよ」
「アルベールを挑発しようと贈ったのだが、やはりフェリは思慮深いな♡ 」
「ですがそのかわりサファイアのアクセサリーを着けられていましたよ」
「………そうだったな。フェリの輝きを存分に引き立てるネックレスだった。彼女の美しい金色の髪と相まって素晴らしい調和を醸し出していた。やはり彼女は紫より紺色が似合う。そう思わないか?セブ君」
「仰る通りです、殿下」
束縛激しい系皇子なのか?
あーくそ。ゲームの設定知らないのが悔やまれるな。
なんて和やかに会話をしていたのだが、ルシャードの纏う空気が冷たく変わる。
「それはそうと………。セブ、君は何を企んでいるのかな?」
ルシャードの気高い瞳が再び俺を射抜いた。
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