悪役令嬢のビッチ侍従

梅乃屋

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本編

14:歓迎パーティー

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 今日のフェリシテお嬢様は朝から忙しい。
 何故なら今夜はルシャード殿下の歓迎パーティーだからだ。

 一応午前中は殿下に付き添い通訳としての業務を行い、午後からはパーティーのために自身の準備に入る。
 女性の準備は時間がかかるからな、特に一番ルシャード殿下に近い位置にいるため侍女たちの力も入るってもんだ。

 しかもあのルシャード殿下、すっかりフェリシテお嬢様を娶る気なのかドレスまで贈ってきた。

 ルシャード殿下の髪色である濃紺色のドレスは露骨すぎて流石に遠慮したようだ。公式にはまだフェリシテお嬢様はアルベール殿下の婚約者だしな。
 それに今回はエスコートではなくルシャード殿下の通訳としての参加だからあまり華美なものは避けた方が良いとのことで、無難なベージュのドレスを選んだ。
 まぁお嬢様は何を着ても目立つけどな。何せ素材が違う。

 せめてもの好意として、サファイアのアクセサリーを身につけている。

 俺も一応補佐として参加するのである程度の身嗜みはしていく。
 そう軽く考え時間ギリギリに準備に掛かると侍女に叱られヘアメイクをみっちりされる。

 俺がそんなオシャレしてどうすんだ?って尋ねたら、すごい顔で睨まれたので口を噤んだ。コワカッタ。ちびりそうになった。

 準備が整い、では行くかと赤薔薇宮を出るとルシャード殿下がお出迎えに来ていてフェリシテお嬢様の顔が強張る。
 殿下は自分の贈ったドレスではないと気付き少し残念そうにしていたが、すぐにお嬢様の美しさにデレデレになっていた。
 一頻りお嬢様を誉め尽くした後、ルシャード殿下は優雅に手を差し伸べる。

「あの、ルシャード殿下?わたくしは今回通訳として同行いたしますので、エスコートは必要ありませんわ」
「エスコートもせずにレディと歩くのは私の品位が下がると思わないかな?」

 ニコニコと手を差し出すルシャード殿下と、微妙な表情をしながらも頬を染めて手を取る俺のお嬢様。

 可愛いなぁ。
 アルベールの時でもこんな顔はしなかったよな?
 寂しいけど嬉しい気持ちになった中身アラサーの俺。

 早くくっついちまえ、お前ら。

 微笑ましく見ていたのは俺だけではなく、長年フェリシテお嬢様の侍女をやっている者たちも頬を染めて見ていた。
 そして俺は侍女姉様たちから力強い目配せを受ける。

 わかってる、わかってるよ!
 二人の邪魔するやつは全部払えって言いたいんだろ?
 言われなくともやるよ。
 だからそんな睨むなって!


 俺は侍女姉様たちの怨念を背負い、パーティー戦場へと向かった。




 ◆




 今夜のパーティ会場は一際熱気が溢れている。
 何せ強国コルディア帝国の若き第三皇子ルシャード殿下の歓迎パーティーで、彼にはまだお相手がいない。

 しかもコルディア帝国は既に第一皇子が立太子しており、ルシャードはお世継ぎを考えなくても良い立場であるため、年頃の貴族全員にチャンスがある訳だ。
 同性婚が認められているこの世界ならではだと思う。

 なので今回のパーティーは十八歳未満お断りの成人限定になっていた。
 限定していなかったら会場は嫁選び大会と化してしまうもんな。実際なっているけど人数は限られている。

 最初、ルシャードがフェリシテお嬢様を伴って入場した時はどよめきと混乱が起こったが、彼女がアルベールの婚約者であることと通訳をしている動作で察したのかすぐに治まった。

 そしてひっきりなしに挨拶にやってくるウィリデリア王国の貴族たち。
 殆どが自分達の子女の紹介で、何とか皇子の気を惹こうと躍起である。

 その度にルシャードはフェリシテお嬢様の通訳に耳を傾ける。
 わざとだろうが彼はフェリシテお嬢様の耳元で囁き、合間で口説くという小賢しい真似をしてのける。

 皇子よ、多少なりとも帝国語が話せる貴族もいるから気をつけろと忠告したい。

 それから予想はしていたが、案の定アルベールはリディを伴って入場した。
 まぁどうでもいい。
 俺のお嬢様の方が数億倍可愛い。二人で仲良くやってくれ。こっち見んな。

 そう念を送っていたのも虚しく、リディはルシャードを見つけて笑顔で寄ってきた。

「今晩はルシャード殿下。お茶は飲んでいただけましたか?」
 彼女は礼もせずに軽々しく話しかけてきた。

「リディ様、まずはご挨拶からされるのが礼儀ですよ」
 そもそもリディから話しかけること自体不敬なのだが、静かにフェリシテお嬢様が諭すとリディは急に泣きそうな顔で俯く。

「ご、ごめんなさいフェリシテ様。どうか今夜はお飲み物を掛けないでください。今日のドレスは大事な方からの贈り物なんです…(ウルウル)」

 いつお嬢様が飲み物掛けたんだ?

 不思議に思っていたが、近くにいた者達には効果はあったようで、リディのミスリードに惑わされヒソヒソと話が伝染する。
 明日には『アルベール殿下の婚約者が男爵令嬢にワインを掛けたらしい』と貴族中で噂になるやつじゃん!

 貴族ってヤーね!
 なので俺はグラスを自分の足元へ落として噂のネタを撹乱させようとワイングラスを取った。

 ガシャン!
 とガラスが割れる音がした。

 あれ?
 俺まだ落としてねーぞ?

「で、殿下!」
 フェリシテお嬢様の声で気づくと、ルシャードの足元でグラスが割れて靴にワインが掛かっていた。

「あぁ申し訳ナイ。手が、すヴェりマシタ」
 わざとらしい片言のウィリデリア語で謝るルシャード。

 …まさかこの皇子、俺と同じこと考えて割ったのか?

 すぐに使用人がやって来て処理をすると同時にルシャードもフェリシテお嬢様と一緒に一時退場をした。
 リディが何か言っていたけど無視だ。
 慌てて俺もついて行き、すぐに新しい靴と靴下を侍従にお願いする。

 休憩部屋に入り、新しい靴が届くのを待つフェリシテお嬢様とルシャード殿下。
 あ、俺もいるからな。

 ここで〝清浄魔法かけりゃいいだろ〟なんて野暮なことは言わない。俺は大人だからな。

「シャディ、もしかしてわざと落としました?」
「んー?手が滑っただけだよ。それより私の片言ウィリデリア語はどうだった?素敵な帝国訛りだっただろう?」
「訛りに素敵も何もないでしょ」
「でも昔のフェリはウィリデリア訛りの帝国語を喋っていたじゃないか。すごく可愛かった♡」
「わ、わたくしの帝国語が未熟だったのですわ!それに直ぐに矯正できたじゃないっ」
「そうそう!驚くほど上達したよねー。でもあの訛りも可愛かったんだよ~」
「だ、だから、訛りに可愛いとかありませんわっ///」

 だから、俺もいるからな。

 あーあ。
 お嬢様の耳、真っ赤じゃん。

 可愛いなぁ♡
 ニヤけながら見ていると、エロボディ護衛騎士ヴィラードがこちらを見ていた。

 あれ?いたのか!
 いやまぁ普通そうだよな。護衛だしずっとルシャードに侍るのは当たり前だが……。

 全然姿が見えなかったんだが、何コイツ?
 二人に気を遣って隠匿魔法でも使ってんのか?
 ま、いいか。

 俺は二人のイチャコラが目の毒になって来たので、外で待つと断り部屋を出た。


 丁度廊下に出たところで面倒な男にばったり会う。

 アルベール王子殿下だ。
 というより待ち構えてたのか彼は護衛を下がらせ、ゆっくり俺に近づき耳打ちした。

「お前、フェリシテの侍従だな?クロヴィスとはどういう関係だ?」

 ……おぉん?

 なるほど。
 昨夜の出歯亀は王子だったか!

 思わぬ大物が釣れて、俺は心の中でほくそ笑んだ。

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