悪役令嬢のビッチ侍従

梅乃屋

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本編

07:月夜と銀髪

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「番犬か……」

 うん、違いない。そう呼ばれて納得する。
 餌はお嬢様のデレで頼む。

「夜中にこんな所をうろつくなんて怪しさ満載ですよ?ペリゴール侯爵令息」

 その晩、昼間のマルセルとは対照的に空気のように押し黙っていたクロヴィス・ペリゴールが赤薔薇宮に続く中庭に現れた。
 俺の感知魔法が反応し慌てて行ってみればこの男で、俺を番犬呼ばわりした。

 ペリゴール宰相の息子で頭脳明晰、ゲームではクーデレ担当の銀髪が美しい男だ。
 全く興味がなかったのでクロヴィスのルートは遊んでいないが、女子には人気のキャラだった。
 女の子のツンデレは大好物だが、男のクーデレは趣味じゃない。何より体が細いし。

「何か魔法が仕掛けてあるのか?」

 静かに彼は魔力を放出して俺が設置した感知魔法の位置を確かめる。
 月明かりが彼の銀髪に反射してキラキラと艶めく。

 …なるほど、これは女子に人気でるな。声も良い。

「公式にはまだお嬢様はアルベール殿下の婚約者ですからね。色々と厄介な者を引き寄せるんですよ」
「フェリシテ嬢は、今まで命を狙われたことがあるのか?」
 切れ長の青灰色の目が俺を突き刺す。

「何度も」
 そう答えると彼は一瞬だが目を瞠った。

 他にも変態ストーカー被害や暗殺未遂だってあった。
 ただでさえ貴族女児の出生率が低いこの世界で貴重な貴族令嬢。その中でも高位貴族で才色兼備なフェリシテお嬢様は王族に嫁ぐに最も相応しく、文句なしのご令嬢だ。
 言い換えればお嬢様さえ居なくなれば他の令嬢達にもチャンスが舞い降りる。

 実際に俺が初めてお嬢様の身代わりをした時は誘拐されたからな。

「それは……マレクラルス侯爵は陛下へ報告していないのか?」
「さあ?それは俺の知る所ではないですね。俺はただの侍従ですし」
「ただの侍従がこんなにも的確な場所へ感知魔法を仕掛られるものか」

 明らかに疑いの目で俺を見るクロヴィス。イケメンですなぁ。
 俺は面倒になったので肩をすくめて黙秘した。

「昼間マルセルが激昂した後、何かおかしな感覚になった。……思考を捻じ曲げられるような感覚だった」
 暫しの沈黙の後そう言って目を伏せるクロヴィス。仕草がいちいちイケメン!まつ毛長ーい。

 彼は何かに勘付いてわざわざ感知に引っ掛かり俺に言いに来たのだろう。
 だけどもそれを伝えるとお嬢様の解放は遠退く。
 と言ってこのままお嬢様が誤解されたままなのも癪なんだよな。

「心当たりがあるなら魔法遮断系の装飾品でも着けてみればどうですかね?」

 そう伝えると、彼は小さく嘆息し髪をかき上げた。フゥゥっやっぱりイケメン!爆ぜろ?

「リディを、疑いたくは……ない」
「じゃぁこのままどうぞお引き取り下さい」 
 もうどっちでも良いから帰れよ。俺も眠たいし睡眠不足はお肌の敵だし一応顔で売ってる身だし。

「随分と冷めた反応だな。フェリシテ嬢を王子妃にしたいのではないのか?」
「俺はただの侍従ですし、将来お嬢様が嫁げば俺はお側から外れます。妃になろうがなるまいが、俺には関係のない話なんでね」

 そもそも未婚男性の侍従が令嬢にべったり侍る事自体非常識らしいからな。
 俺がお嬢様についているのはボディーガードが出来るからだし、俺の嗜好を侯爵様が知っているためだ。…まぁお嬢様も知っているけどな。

「ただの侍従とは思えんがな。君、名前は?」
「セバスティアン。もう帰って良いですか?というか帰って貰えませんかね?」
 コイツがいる限り俺は帰れないんだけど。

「………セバスティアンか、分かった。今日のところは帰ろう」
 そう言って彼は暗闇に消えて行った。
 ……イケメンマイペース過ぎるだろ。



 それから数日後、夜中に感知魔法が反応して行ってみれば、宰相令息クロヴィス。

 ……またお前か。
 月を背に佇む銀髪の君は画になりますなぁ!

「何なんですか。夢遊病でもあるんですか?」

「あれから魔法遮断の石を着けてみた」
 クロヴィスは俺の言葉は無視して自分の話を進める。

「そうですか。効果はありましたか?」
 まぁ有ったからここへ来たんだろうが、出来ればあんまり関わりたくないんだよな。俺の絶許対象者だし。

「…………。リディの言葉は、彼女にとって都合の良いように誘導されていることに気が付いた…」

「左様ですか」
 俺は明らかに面倒だと言わんばかりの態度で返事をする。

「もしかして今までもそうやってフェリシテ嬢に悪意を持たせるように誘導されていたのか?」

 知らんがな。
 俺はリディと話したことねぇし。そもそも学園に通ってねぇし。

「学園内のことは一切分かりかねますが……フェリシテお嬢様は決して陰湿ないじめをするような小者ではありませんよ。お嬢様が本気で気分を害されるようなら、その者は即座に居なくなっているでしょうし」

 コレはホント。
 だってお嬢様に仇なす者は俺が始末してきたもんね!
 少しドヤり気分で口角を上げてみせた。

 ほんの一瞬彼の眉は反応し、視線を逸らされ話題も変えられた。
「ところで、あの日…」

 どの日?
 コテンと首を傾げると、クロヴィスは大きく咳払いをして続ける。

「卒業パーティの日、フェリシテ嬢に駆け寄った君を会場中の人間が観ていた」

 あぁ断罪日か!
 平民の侍従がホールへ顔を出すなんて粗相をやらかしたからな。
 一応正装はしていたんだけど、今更マナー違反だとか咎めるつもりか?

「お嬢様の緊急事態でしたので。お目汚し失礼致しました」
「いや、そうではなく。全員、君の姿に釘付けだった…」

 そして彼は小さく自分もだと呟く。

「黒髪が珍しかったんですかね?」
「違うだろう。まぁ確かに君の夜空のような美しい黒髪は神秘的だ…だがそうではなく、君の…その容姿に全員が目を奪われた。君はいつからフェリシテ嬢の侍従をしている?君が側にいる事はアルベール殿下はご存じなのか?」

「仕えているのは俺が十二歳くらいからですので、お嬢様が十一歳の時ですね。殿下が侯爵邸に訪問される時は基本的に奥へ控えてますから、俺にお気付きかどうかは分かりかねます」

 当たり障りのない範囲で答えると沈黙が続く。

 この男、何が言いたいんだ?
 もしかして俺とお嬢様が想い合っているとか見当違いな疑いを掛けられてんのか?

 ほんのり月明かりが照らされた離宮庭園。空気が仄かに緩くなった春の夜。
 いい加減コイツに付き合わされている事に苛ついてきたが、表情に出さないよう侍従フェイスを保つ俺。

「私が……君たちの味方になると言ったら、見返りは貰えるか?」
 やっと紡ぎ出した言葉はまさかの裏切り提案。

 おいおいヒロイン!攻略失敗してんじゃん!
 面白すぎる展開だがこちらにも事情がある。

「味方は不要です。お嬢様に危害が及ぶ事があるなら俺が全力で対抗しますが」
「何故だ。フェリシテ嬢は将来王妃になりたいのではないのか?」

「侍従の俺がお嬢様の心内をお話しすることは致しかねます」

 暗に否定した発言にクロヴィスは信じられないといった顔で帰って行った。

 まぁ普通はそうだろう。
 俺もてっきり次期王妃を目指していると思っていたし。

 それから……

 何故か頻繁に現れては他愛ない会話をしては帰っていくというルーティンが続いた。
 何コイツ?
 俺に気があるのか?

 残念ながら好みじゃないんだが…。

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