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ルキフェル視点
01
しおりを挟むこの章は過去のルキフェル視点でお送り致します。
ルキフェルがルキフェルになる前のルキフェル視点です(汗
六話程ありますが、どうかお付き合いくださいませ♪
※毎回二話ずつ投稿いたしますので、ご注意くださいませ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
最近〝海〟の熾天使の機嫌が悪い、と〝大地〟の熾天使が愚痴っていた。
ここは天界。
この世界を司る神々や天使が存在する場所。
人間界を管理し、神々の声を人間界へ届けるのが我々天使の仕事だ。
天使にも位階があり、私は最高位の熾天使。
さらにその中でも〝天〟の称号を持つ、簡単に言えば私は全天使の長だ。
我々には人間や魔界人のように名前がない。
なのでその称号や役目の名前で判別する。
「よぉ〝天〟よ」
ふらっと〝大地〟の熾天使が不思議な形の酒壺を抱えてやって来た。コイツは熾天使の癖に口が悪い。
「あぁ大地よ。また海の機嫌を損ねたのか?」
「あいつはいつも機嫌悪いだろ。それより見ろよコレ。生命の神から魔界土産で貰った酒だ。『セイシュ』って言うらしいぞ。一緒に飲まね?」
そう言って大地のヤツは、機嫌良く酒壺をチャポリと揺らした。
「貰おう」
海の熾天使の機嫌が悪いのは、多分魔界のせいだ。
四代目魔王サタンは今までのサタンとは毛色の違う男で、様々な分野で魔界に大改革を起こしている。なので最近、生命の神を始め、色んな神々が魔界へ足を運ぶのだ。
はるか昔、魔界は人間界とは違う理で創られ、人間界にはその存在自体を知られていなかった。
所が二代目魔王が人間界へ飛び出し人々を恐怖に陥れてしまったため、人間達は魔界を悪として認識する。
魔界人達はその異形さから悪魔と位置付けられ、信仰に於いて最も忌み嫌われる存在と化していった。
とは言うものの、二代目のやらかし以降大きな問題は起こして居らず、魔界も独自の発展を遂げていった。
その中でも今回の四代目サタンは特別だった。
突然土地開発や、下水工事などのインフラを整え、農地改革や法の改正。魔界人の意識改革も行い、元々魔術に長けていた魔界人の特性を活かした魔導製品開発により、人間界より高度な文明社会へと発展していった。
天界より楽しいと評判の魔界は皆んな挙って足を運び、移住する神々も出始めたため、海の熾天使の機嫌を損ねたようだ。
「まぁ神だって快適な場所に居たいだろうよ」
そう言って大地のヤツは『オチョコ』と呼ばれるものでグイと酒を飲み干した。
この極小の器で飲むのがルールだと言うセイシュ。実に美味い。
「そうだな。だが天界は元々神々の住処とされている場所だ。移住されると天界としての尊厳を損なわれるのが我慢ならないのだろう」
「だったら天界も改革とやらをすれば良いじゃねーか。何なら魔界みたいに観光ツアーでも企画するか?」
冗談を言いながら笑う大地。ほんのり頬に赤みが差し、気分が良くなって来たようだ。口当たりの良いこのセイシュは回りが早いらしい。
「天界は観光地ではないぞ」
「でも温泉くらいは欲しいだろ!湯に浸かりながらこのセイシュを呑むらしいぞ?」
ほぅ。中々楽しそうだ。
暫く酒を楽しんでいたが、大地が酔い潰れてしまったため私は仕事へ戻った。
そんな折、魔界人が天界に侵攻してくるという噂が耳に入る。
俄には信じられなかった。あのサタンは魔王即位時に一度会ったきりだが、そういった野心を持ちそうにない男だったと記憶しているのだが。
「天、これは由々しき問題ですよ」
海の熾天使は神経質そうな指で報告書を弾いた。
ただでさえ最近魔界に対して嫌悪を抱いている海なのに、更に問題勃発で彼の機嫌は最高潮に悪い。
そして一度会談をするべく、私が魔王サタンの元へ訪問する運びとなった。
魔界へ赴くのは百年ぶりだろうか。
大地のヤツが言うには随分と発展したそうだが。
魔界へ行くには魔界門から行く。
因みに人間界へは東西南北に門があり、それぞれ時空の神が作り出した空間術特化型の下位天使が門番として配置されている。
この魔界門も門番の天使が管理しているのだが、この百年間で担当天使が何度も代替わりするという問題が発生している。
原因は、毎日魔界門から魔界を眺めている担当天使はそこへ憧れを抱いてしまい、結果堕天してしまうという事らしい。
「あ、天の熾天使様!」
にっこりと歓迎して来たのは新しい魔界門の天使だった。この子で三代目の担当だそうだ。
生まれてまだ数年も経ってない天使なのだろう、見た目は少女のようであどけなさが残る笑顔をしていた。
「魔界へご訪問だと聞いております。どうかお気をつけて」
愛想良く魔界門を開き、笑顔で送り出す新任天使。
…………カワイイ………。
「天さま?門は開いておりますよ?」
中々門を潜らない私に首を傾げる魔界門の天使。
「あぁすまない。考え事をしていた。戻る際には鈴を鳴らす」
「はい!お待ちしております!」
彼女、いや我々には性別がないのでどちらとも言えないが、造形的に少女のように見える魔界門の天使は輝く笑顔で私を送り出してくれた。
今まで他者の美醜を気にした事がなかったが、あの子の笑顔は素直に可愛いと感じている自分に驚いた。
門番の天使は時空を司る神が管轄している。
何度も生み出すうちに、神自身の趣味を取り入れたのだろうか、そう疑うほど目を奪われる可憐さだった。
魔界へ着くと、アスタロトと名乗る魔界人が出迎えてくれた。
序列第二位の魔界人らしいが、我々天使の様に性別が分からない見た目をしていた。
「ようこそ熾天使様。天の熾天使様直々にお越しになると聞いて、我が主も歓迎をしております。どうぞこちらへ」
優雅に馬車へエスコートするアスタロト。声を聞いて男性体らしいと判断した。
魔界側の魔界門は大きな湖の中央に位置していた。
橋を渡り、森を抜けるとそこには壮大な街が広がっていた。
私は街の美しさに目を瞠る。思わず窓から頭を乗り出す勢いだった。
人間界より遥かに高い技術で舗装された石畳。街の大通りは中央を馬車道とし、脇道を人の通る生活道路として分けており、実に洗練された街並みだった。
「凄いな……」
窓の景色から目が離せない私は、視線をそのままに呟いた。
「ふふ。これも全て我が主の所業です。お気に召して頂いて何よりですよ」
アスタロトは妖艶な笑みを零し、美しく流れる銀髪をふわりと払った。
どこを見ても洗練され、しかも清潔な王都の街並みを通り過ぎ魔王城に到着する。広い部屋に案内され、待たされる事なく当代サタンが現れた。
百年前の初対面でも感じたが、彼はとても自然体な男だった。悪く言えば魔王らしくない。
筋骨隆々だった代々魔王。しかし彼の体型は大柄でもなく独特の威圧感もない、至って普通の男性だった。その服装も華美ではなく人間の平民のような寛いだ服装をしていた。
更にやはり私が思っていた通り、彼には天界に対して何の野心もなく、それよりもこの魔界の発展に従事する事を望んでいる。
「俺が快適に過ごせる環境を作っていったら、結果こうなったんだよ」
快活に笑う四代目サタン。
無造作に跳ねた黒髪に、少し日焼けした健康そうな肌。
ただ、魔王の証である紅い瞳だけは強い輝きを持っている男だった。
会談は終始穏やかだった。
本題だった天界への侵攻話に本人は驚き、寧ろ退屈な感情を露わにした。
「何それ?だる!大体天界に侵攻してもウチには何のメリットもないだろ。それよか新しい温泉旅館作る方が忙しいんだけど!」
四代目サタンは『タタミ』と呼ばれる床材をどうやって再現するか頭を悩ませて居るらしい。タタミ…とは?
私は二日間魔界を案内してもらい、現在建築中だという温泉宿も視察させてもらった。
不思議なデザインの建造物で、周囲は岩と竹林に覆われた独特の雰囲気のある宿泊施設だった。
完成した暁には招待をしてもらう約束をして、大地のヤツも誘ってやろうと考えた。
帰り際、私が気に入ったセイシュをお土産に頂き、更にニゴリザケという乳白色の酒も貰った。
………戻ったら大地のヤツに自慢してやろう。
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