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第二章 旅立ち
嵐が過ぎれば【1】
しおりを挟む「大量の聖水を作るには場所も必要だ。君、こちらへ来たまえ」
「あ、はい!」
俺は、目の前を急ぎ足で歩くお医者様に、同じく急ぎ足で目的地が分からないままおろおろとついて行くしかなかった。
「ここだ」
「ここって……、お風呂場?」
お医者様に連れて来られたのは少し広いお風呂場であった。
何故お風呂場?? どう考えても聖水作る場所には適してなさそうだけど。
「ここは普通なら入院患者を入浴させる場所だが、大量の聖水が必要なのであれば、ビーカーや壺でちまちま作るよりもこちらの方がいろいろと都合がいい。この村に温泉がある事は?」
「聞いてます。もしかして、ここにも温泉が?」
「あぁ、ここの浴場にも温泉を使われている少しだが聖水と同じように魔障、毒素を持つサシニアよりかなり弱い魔草の毒や傷を癒す効果も見込める温泉でな。その温泉は聖水に変える事にも適しているんだ」
なるほど、それならばここで温泉のお湯を聖水に変えて行けば、そりゃあ都合がいいわな。
そうと決まればと、お医者様は奥の広い湯船から魔力を通して、温泉のお湯を湯船に張り始めた。
「まずは、今から聖水を作る手本を見せよう」
そう言うと、お医者様は近くに置いてあった桶にお湯を入れ、俺の目の前へと持ってきてくれた。
「やり方は簡単だ。君も治癒能力を少しでも使えるのなら感覚は大体似ているから、分かりやすいと思う。対象が人から水に変わっただけと思った方が早いかもしれない」
「と言うと」
「まずはこのお湯に自分の魔力を満たさせる」
お医者様は桶を近くの湯船の縁におくと、片手をお湯につける。
その瞬間、俺は自分の目に魔力を込めて見る事で、桶の中にお湯の量と同じくらいの魔力が込められるのを見ていく。
「っぐ…………」
「ぇ、大丈夫ですか」
「大丈夫だ。先程まで治療で魔力を使っていたからな。だいぶ残りが少ないんだ」
もうすぐ魔力が満たされるというその時、お医者様の顔に汗と苦悶の表情が浮かび上がった。
これまでの治療で相当魔力を使っていたに違いない。こちらの世界の医学をあまり知らない素人の俺の目から見ても、お医者様が無茶をしているのは分かる。
そして、ようやくお湯にお医者様の魔力で満たされたその時。
「ここで重要なのは、治癒魔法を使う時は傷を治す細かいイメージをすると思うが。聖水を作る場合はそれに似ていて、お湯の不純物や毒素を無くし、清らかな物に変えるイメージが大切なんだ。今から魔力で満たしたお湯を治癒魔法を行う時の様にさっき言ったイメージを持って聖水へ変換していく。もし、見るだけでは不安であればこの桶の中に君も手を入れて、魔力の流れの変化を感じて覚えてみなさい」
「わかりました」
俺は、迷わず桶に手を入れて、お医者様の魔力の流れをしっかり感じ取れるように集中する。
「では、いくぞ」
「はい」
俺の一言を聞いたお医者様は、己の魔力に力を込めて、どんどん温泉水をもっと別の何かに変換していっているのが、自分の手先から伝わってくる。
確かに、この変化の仕方は、治癒魔法を使っている時のイメージと近いかもしれない。
それをもっと、違う観点から見ている感じだ。
徐々に魔力の力を借りて温泉水が聖水へと変わっていくその瞬間は、お医者様が使っている魔力によってお湯が光輝いていた。
そして、お湯に込められている魔力が全部使用され終わると、光が収まり、中のお湯の様子を見て見ると。
「わぁ、きれい」
さきほどまでは、普通の温泉水に見えていたお湯が、透明なのに。銀色のような、黄金のような、七色のような不思議な輝きをゆらゆらと放っていた。
「これで、聖水が出来た」
「これが、聖水…………」
「すまない、今の私では今の量が精一杯のようだ」
はぁ、はぁ、と荒い息を吐くお医者様。
だいぶ、魔力を消耗しているのか、辛そうだ。
「魔力を補うポーションも、ここ数日でだいぶ使ってしまって在庫が数本あったかどうかなんだ。どうだい? できそうかい」
「…………や、やってみます」
俺は出来上がった聖水の横に、別の桶に温泉水を入れて持ってきて隣の縁に置いた。
ごくりと唾を飲み込み、先程の魔力の感触の残る片手を温泉水に浸けて。忘れてしまう前に、すぐさま取り掛かろう。
「魔力を満たして、聖水に変える」
いざ! 聖水作り!
と意気込み、先程の感覚を頼りに魔力を送ると…………。
ピカッ!!!
「うぉっ! まぶし!!!!」
一瞬、目が眩むほどの光が桶から顔面へと当たり、その光の強さに思わず温泉水に浸けていた手を出してしまった。
「あぁ! しまった! 途中で出しちゃった!?」
失敗したと思い、桶の中を覗くと。
なんと、そこにはお医者様の聖水と変わらない輝きを放つ俺が手を付けていた元温泉水があった…………。
これは、成功……なのか?
「あの、すみません、これって…………」
同じく目が眩んで意識が少々飛んでしまっているお医者様に、本当に聖水に変わっているのかを確認してもらおうと、肩を叩いて正気に戻す。
「はっ……、ど、どれどれ…………」
ドキドキと心臓のなる胸を思わず抑えて、お医者様の反応を見る。
「で…………」
「で?」
「で、できてる…………」
「できてる!?」
まさかの無事にできているらしい。
お医者様の見解だと、俺の魔力量が多いおかげなのか量の調節を間違えたのか、そのせいで一瞬で聖水に変わったのではとの事。
加えて、こんなに一瞬で聖水に変えてしまって魔力の枯渇やなんか影響を心配されたが、診察されたところ、俺の魔力は十分すぎるほどまだ余っているらしい。
「…………もしかして」
あの誘拐事件の際、魔力暴発させたうえ、魔力ボールと言う名のバスケットボールくらいの量の魔力を二回放出。
そのうえおそらくかなりの量を垂れ流ししながらも長距離を魔力を駆使しながら走り続けられていた俺。
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