92 / 105
第二章 旅立ち
雨宿りのつもりが【1】
しおりを挟む同行者が増えたことで、やはり十日の予定だった俺達の旅路は少し伸びた。
しかし、いまのところ怪我もなく順調に進めていると言えるだろう。
驚いたのが、少年。ヨルの博識さだった。
ヨルの持っている知識は全て育ての親であるお爺様に教えてもらったとは言っていたが、薬草やその他植物などに関する知識が半端じゃなかった。
ゼンでさえ、食べられないと思っていた植物が、下処理をきちんとすれば食べれるという事を今回の旅で初めて知ったと言っていたくらい。
その代わりと言っては何だが、ヨルは本当に魔法が使えないみたいで。
かと言って、魔力を全く持ってないというわけではないらしいので、特殊なピアス型の魔力制御装置のおかげで生活に必要な魔道具とかは扱えるみたいだが。
その制御装置がないと、ちょっと前の俺みたいにモノを破壊するか、全く扱えないかのどちらかになってしまうのだそうだ。
話は戻って、今ではゼンも俺も、ヨルにいろいろと植物など、特に薬草に関する知識を教えてもらっている。
パルフェット様に治癒魔法を教えてもらったとはいえ、俺の魔法はまだまだ全然使いこなせていないので治せる範囲にも限りがある。
そんな時に薬草の知識はとても活用できるので、教えてもらって損はない。
今も、休憩しながらヨルに薬草に関していろいろと教えてもらっている所だった。
「この草は乾燥させて炒ってお茶にすると喉に良いんだ。風邪の予防にもなる。味はあまり美味しいとは言えないからビーンの蜜や砂糖を入れて飲むとすっきりと飲めるようになるぞ」
「なるほど」
「うがい薬みたいに使っても効果はあるのか?」
「うがいだけで済ませても効果は十分にある。けれど、しっかり飲んだ方が、胃腸の調子を整えてくれる効果もあるからお茶として飲むのが一番効率はいいな」
「ほうほう」
俺はこの旅で必需品になったメモ帳に、今教えてもらった内容をメモをする。
こういう時、絵を描くのも得意でよかった。
薬草の絵を簡単に描いた後、ヨルが教えてくれる知識を書き込んでいく。
「ん…………、ひと雨振りそうだな」
ちょうどメモを書き終わった時に、ゼンがそう言うので空の様子を見て見ると、確かに雲行きが良くなさそう。
「どうする? ゼン。このままテントを張って雨宿りするか?」
「いや、あと一時間も歩けば少し大きな村ががある。それまでは雨も降らないと思うから、今のうちに移動して、今回はそこで宿を取ろう」
「おぉ! 村があるのか! それなら早く移動しなきゃだな!」
「そこは温泉が有名だ。ゆっくりと休めるだろう」
「温泉! 俺入った事ないんだ!」
村に温泉がある事を聞いて、一番村へ行くことに乗り気なヨルは、そそくさと旅支度を整えて準備万端で行く準備を完了している。
そんなヨルの様子に微笑ましくなった俺は、カリスタに栄養補給と水分補給も兼ねて果物をあげて、村への旅路の準備を済ませた。
「よし、皆準備はできているようだな。じゃあ、あともうひと頑張り、雨が降る前に村へと向かおうか」
「おー!!」
「はーい」
「ギャオウ!」
そこからの移動は、少し早歩きで移動したり。移動しにくい場所はカリスタに頑張ってもらって、俺とヨルは一人でカリスタに乗れないので二人ずつ二往復してもらったりなどして移動した。
そして、村までもう一息、といったその時。
「しまった。降って来たな」
雨がぽつりぽつりと降り出し、空からは雷の唸り声が聞こえてきてしまった。
「もう目の前だから急ごう」
ゼンの言葉に頷いた俺達は、ローブのフードを被って雨よけをしながら、目的の村まで走った。
視界に見えている村の入り口には、何やら人が二人立っているのが見える。
見た所そこそこ大きな村だが、入口に番人がいるほど厳重に村の出入りを監視しているのだろうか。
そして、雨に濡れながらようやく、村への入り口へとたどり着き、村の中へと入れてもらえないかと番人をしている人に話をしたのだが。
「すまない。今、村の中に人を入れるわけにはいかないんだ」
「え、どうして?」
「今、村の中で謎の病が流行っている。今は都心部の衛生兵達が来るのを待っている状態なんだ」
「もう間もなく来るかと思うんだが、この雨だ。もしかしたら到着はもう少し遅れるかもしれないな」
何気なく理由を聞き返したが、そう簡単に村の中へと入れてもらえない理由があった。
しかし、この雨だ。
今からテントを開いて、雨をしのんでもいいが。村の周りはかなり拓けた大地で、普通にテントを開いただけではこれからもっと雨が強くなりそうな雰囲気の空の下だと、さすがに雨除けか何かなければテントが飛んでしまう。
俺達が使っているテントは、リッシュ領にいた時にキャンプで使ったのと同じ魔法のボックスの中に入っているタイプのテントで、中が普通に暮らせるくらい設備が整っているとはいえ、表はテントに変わりはないわけで。
さすがに、何か対策をしなければ強い嵐が来てしまったら、テントは飛んでしまう。
「どうする? ゼン。今からテント張れそうな場所をさがすか?」
「うーん。探している間に嵐になるだろうな…………」
「俺達もできるなら村の中で休んでほしいんだが、今はそれができる状況じゃなくてな」
「村に入れてあげれなくてすまない」
「……………………俺が診ようか? 俺は薬学の知識もあるが医学の知識もある。都心部の衛生兵が来るまでに何か力になれるかもしれない」
「えっ??」
村の入り口についてから、何故か黙り込んでいたヨルが突然喋ったかと思ったら、その内容は自身が村で流行っている病を診ようか。という内容だった。
「しかし、村の医師でも原因不明でいまだ治せていない病だ。申し出は嬉しいが君のような若者が診て治るとはとても思えない」
「そうか。ちょっと邪魔するぞ」
「あっ! ちょっと! ヨル! 何入ってんだよ! 戻ってこい!」
なんと、ヨルは村の番人の言葉を全く聞いてない様子で、俺の静止も聞かずに村の中へと入っていってしまった。
慌てて村の番人さんと俺とでヨルを捕まえようとするが、スルスルと何かに導かれているかのように突き進むヨルを捕まえることは、雨の中という視界不良の中ではなかなか困難で。
ヨルは、一つの建物を見つけると、その建物の扉を遠慮なく開け放った。
「ここか」
「ちょっ、ヨル! 勝手に入ったら…………、これは」
0
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。
慎
BL
───…ログインしました。
無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。
そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど…
ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・
『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』
「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」
本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!!
『……また、お一人なんですか?』
なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!?
『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』
なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ!
「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」
ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ…
「僕、モブなんだけど」
ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!!
───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様
佐藤 あまり
BL
猫を助けて事故にあい、好きな小説の過去編に出てくる、罪を着せられ処刑される悪役に転生してしまった琉依。
実は猫は神様で、神が死に介入したことで、魂が消えかけていた。
そして急な転生によって前世の事故の状態を一部引き継いでしまったそうで……3日に1度吐血って、本当ですか神様っ
さらには琉依の言動から周りはある死に至る呪いにかかっていると思い━━
前途多難な異世界生活が幕をあける!
※竜公爵とありますが、顔が竜とかそういう感じては無いです。人型です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる