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第二章 旅立ち

雨宿りのつもりが【1】

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 同行者が増えたことで、やはり十日の予定だった俺達の旅路は少し伸びた。
 しかし、いまのところ怪我もなく順調に進めていると言えるだろう。

 驚いたのが、少年。ヨルの博識さだった。
 ヨルの持っている知識は全て育ての親であるお爺様に教えてもらったとは言っていたが、薬草やその他植物などに関する知識が半端じゃなかった。
 ゼンでさえ、食べられないと思っていた植物が、下処理をきちんとすれば食べれるという事を今回の旅で初めて知ったと言っていたくらい。
 その代わりと言っては何だが、ヨルは本当に魔法が使えないみたいで。
 かと言って、魔力を全く持ってないというわけではないらしいので、特殊なピアス型の魔力制御装置のおかげで生活に必要な魔道具とかは扱えるみたいだが。
 その制御装置がないと、ちょっと前の俺みたいにモノを破壊するか、全く扱えないかのどちらかになってしまうのだそうだ。

 話は戻って、今ではゼンも俺も、ヨルにいろいろと植物など、特に薬草に関する知識を教えてもらっている。
 パルフェット様に治癒魔法を教えてもらったとはいえ、俺の魔法はまだまだ全然使いこなせていないので治せる範囲にも限りがある。
 そんな時に薬草の知識はとても活用できるので、教えてもらって損はない。

 今も、休憩しながらヨルに薬草に関していろいろと教えてもらっている所だった。


「この草は乾燥させて炒ってお茶にすると喉に良いんだ。風邪の予防にもなる。味はあまり美味しいとは言えないからビーンの蜜や砂糖を入れて飲むとすっきりと飲めるようになるぞ」
「なるほど」
「うがい薬みたいに使っても効果はあるのか?」
「うがいだけで済ませても効果は十分にある。けれど、しっかり飲んだ方が、胃腸の調子を整えてくれる効果もあるからお茶として飲むのが一番効率はいいな」
「ほうほう」


 俺はこの旅で必需品になったメモ帳に、今教えてもらった内容をメモをする。
 こういう時、絵を描くのも得意でよかった。
 薬草の絵を簡単に描いた後、ヨルが教えてくれる知識を書き込んでいく。


「ん…………、ひと雨振りそうだな」


 ちょうどメモを書き終わった時に、ゼンがそう言うので空の様子を見て見ると、確かに雲行きが良くなさそう。


「どうする? ゼン。このままテントを張って雨宿りするか?」
「いや、あと一時間も歩けば少し大きな村ががある。それまでは雨も降らないと思うから、今のうちに移動して、今回はそこで宿を取ろう」
「おぉ! 村があるのか! それなら早く移動しなきゃだな!」
「そこは温泉が有名だ。ゆっくりと休めるだろう」
「温泉! 俺入った事ないんだ!」


 村に温泉がある事を聞いて、一番村へ行くことに乗り気なヨルは、そそくさと旅支度を整えて準備万端で行く準備を完了している。
 そんなヨルの様子に微笑ましくなった俺は、カリスタに栄養補給と水分補給も兼ねて果物をあげて、村への旅路の準備を済ませた。


「よし、皆準備はできているようだな。じゃあ、あともうひと頑張り、雨が降る前に村へと向かおうか」
「おー!!」
「はーい」
「ギャオウ!」


 そこからの移動は、少し早歩きで移動したり。移動しにくい場所はカリスタに頑張ってもらって、俺とヨルは一人でカリスタに乗れないので二人ずつ二往復してもらったりなどして移動した。

 そして、村までもう一息、といったその時。


「しまった。降って来たな」


 雨がぽつりぽつりと降り出し、空からは雷の唸り声が聞こえてきてしまった。


「もう目の前だから急ごう」


 ゼンの言葉に頷いた俺達は、ローブのフードを被って雨よけをしながら、目的の村まで走った。
 視界に見えている村の入り口には、何やら人が二人立っているのが見える。
 見た所そこそこ大きな村だが、入口に番人がいるほど厳重に村の出入りを監視しているのだろうか。
 そして、雨に濡れながらようやく、村への入り口へとたどり着き、村の中へと入れてもらえないかと番人をしている人に話をしたのだが。


「すまない。今、村の中に人を入れるわけにはいかないんだ」
「え、どうして?」
「今、村の中で謎の病が流行っている。今は都心部の衛生兵達が来るのを待っている状態なんだ」
「もう間もなく来るかと思うんだが、この雨だ。もしかしたら到着はもう少し遅れるかもしれないな」


 何気なく理由を聞き返したが、そう簡単に村の中へと入れてもらえない理由があった。
 しかし、この雨だ。
 今からテントを開いて、雨をしのんでもいいが。村の周りはかなり拓けた大地で、普通にテントを開いただけではこれからもっと雨が強くなりそうな雰囲気の空の下だと、さすがに雨除けか何かなければテントが飛んでしまう。
 俺達が使っているテントは、リッシュ領にいた時にキャンプで使ったのと同じ魔法のボックスの中に入っているタイプのテントで、中が普通に暮らせるくらい設備が整っているとはいえ、表はテントに変わりはないわけで。
 さすがに、何か対策をしなければ強い嵐が来てしまったら、テントは飛んでしまう。


「どうする? ゼン。今からテント張れそうな場所をさがすか?」
「うーん。探している間に嵐になるだろうな…………」
「俺達もできるなら村の中で休んでほしいんだが、今はそれができる状況じゃなくてな」
「村に入れてあげれなくてすまない」

「……………………俺が診ようか? 俺は薬学の知識もあるが医学の知識もある。都心部の衛生兵が来るまでに何か力になれるかもしれない」

「えっ??」

 
 村の入り口についてから、何故か黙り込んでいたヨルが突然喋ったかと思ったら、その内容は自身が村で流行っている病を診ようか。という内容だった。


「しかし、村の医師でも原因不明でいまだ治せていない病だ。申し出は嬉しいが君のような若者が診て治るとはとても思えない」
「そうか。ちょっと邪魔するぞ」
「あっ! ちょっと! ヨル! 何入ってんだよ! 戻ってこい!」


 なんと、ヨルは村の番人の言葉を全く聞いてない様子で、俺の静止も聞かずに村の中へと入っていってしまった。
 慌てて村の番人さんと俺とでヨルを捕まえようとするが、スルスルと何かに導かれているかのように突き進むヨルを捕まえることは、雨の中という視界不良の中ではなかなか困難で。

 ヨルは、一つの建物を見つけると、その建物の扉を遠慮なく開け放った。


「ここか」
「ちょっ、ヨル! 勝手に入ったら…………、これは」








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