上 下
82 / 105
第一章 始まり

HOME SWEET HOME【2】

しおりを挟む








そして、夜。


「さぁ! リン君いってらっしゃい! のささやかだけど身内だけで晩餐会を始めよう!」


 パルフェット様がそう言って開かれた晩餐会は、全然ささやかなレベルではなく。
 パルフェット様やセリューさんが頑張ってくれたのであろう、かなりのご馳走が机の上には並んでいた。


「「わーい!!」
「こら! お前達! 行儀よく食べるんだぞ!」


 双子は開始の合図と共に、勢いよく食べ始め、それを注意するベルトラン君。
 飲み物を配っていくセリューさんに、食前酒をたしなむドゥース様。
 ここまではいつもと同じ風景なのだが、そこには一人、足りない人物がいて。


「あの、パルフェット様。プティ君は……?」
「それがね、お腹が痛いって部屋に籠っちゃってるの。私が直せば、すぐ良くなるのに……。せっかくの晩餐会なのに、ごめんね、リン君」
「いえ! お腹が痛いのは仕方がないので! ちょっと寂しいですけど、後でプティ君の部屋に会いに行ってみます」
「ごめんね。そうしてあげてくれる?」


 そう。
 プティ君だけが、晩餐会に参加していなかったんだ。
 どうやら体調不良のようだし、明日の朝一には旅に出てしまうので、もしかしたら、朝まで会えない可能性も考えれば、今夜部屋に会いに行きたい。
 大丈夫かな。プティ君……。


 食事も進み、デザートまで食べ終わったころ、何やらそわそわし始めた双子を見たパルフェット様が、パンパン! と柏手を打った。
 それを合図に何やら双子お兄ちゃんズだけでなく、ベルトラン君まで席を外してどこかへ向かい、パルフェット様やドゥース様、セリューさんまで何やらこそこそとし始めた。

 な、なんだ? なんか始まるの? 

 どうやら何が何だか分からなくなっているのは俺だけのようで、ゼンもなんでか知らないけど、俺の後ろの見えないところでこそこそしてる。

 皆して、どうしたんだ??

 キョロキョロと周りを見渡して、事態を把握しようとしていたら。


「じゃーん!!」


 その大きな声は、パルフェット様。
 何やら、一着の服を持って来て見せてくれている。


「…………どうしたんですか? その服……」
「これは、リン君へのプレゼント! この領地の名産の牛の毛を使った特注の旅装束! 私と、ドゥースから!」
「えぇ!!」


 ちなみに、これはリン君達が刈ってくれた毛で作ったの。と今にも歌い出しそうな声音でそう言うパルフェット様。
 旅装束は、ゼンがくれるものだと思っていたから、まさかパルフェット様とドゥース様から貰えるだなんて思っていなかった。
 しかも、俺達が刈った牛の毛が、こんなに立派な服になるなんて!
 よくパルフェット様の話を聞くと、この布一枚で、普通の刃物や簡単な攻撃魔法くらいなら防げちゃうという超優れもの!!


「で、でも、これ、かなり値が張るんじゃ!?」
「そんなの気にしないの!」
「そうだよ。リンタロウ殿。リンタロウ殿が受け取ってくれないと、これは燃やして捨ててしまうよ?」
「なんてこと言うんですか! ドゥース様! ありがたく頂戴します!!」


 俺はドゥース様の言葉に慌てて、パルフェット様が持っていた服を受け取る。
 まさかのパルフェット様じゃなくて、ドゥース様にちょっとした脅しを言われるなんて思ってなかったけど、この妻にしてこの夫ありってこと?
 あと、受け取った物をよく見ると、服だけじゃなくて、ベルトやナイフを収めるケースなど、様々な小物も一緒に渡してくださったみたいだ。

 こんなに立派で素敵なの、たくさん…………。


「俺からは、これだ」


 今度はそう言ってゼンが一つのバッグを差し出してきた。


「あれ…………、これ、なくしたと思ってた俺のバッグ!」


 こちらへ来た時に湖に落ちた瞬間から、湖の底に落としてしまったと思っていた俺のバッグ。
 革製で、使い勝手が良くて、重宝してたお気に入りのバッグ。


「どうして、これ…………」
「リンタロウ、このバッグなくした事残念がってたから。お気に入りだったんだろうと思って湖から取り出して、マジックバッグに作り変えてもらったんだ」


 残念ながら、中身は全て水で使えなくなっていたけど。そう言って渡してもらった、俺のバッグ。
 このバッグは、実は前の世界で、世話係のばあやと護衛兼運転手がお金を出し合って大学入学祝いに買ってくれた物だった。
 なんだかんだ、前の世界で俺が生きてこれたのはあの二人がいてくれたからで。お喋りなばあやとそれと反対で無口な護衛兼運転手の榊さん。
 あの二人は、どうしてか、俺の事変な目で見なかったし、普通に過ごせたから嫌いじゃなかったんだ。
 そんな二人から、最初で最後に貰った贈り物。
 とても大事にしたい贈り物だったから…………。


「……………………ゼン。ありがとう。今度こそ、大事にする」


 それを底が深い湖からわざわざ拾い上げて、もう一度使えるようにしてくれただけで、とても、とても嬉しい一品だった。
 あちらから持ってこれた、唯一の大事なバッグ。


「喜んでくれて、嬉しいよ」


 俺の手の上へと、優しく乗せられたバッグ。この手触りは、確かに俺のバッグの手触り。
 俺は、頂いた旅装束と一緒にそのバッグを胸の中へと抱き込み、何よりも大事にすると、そう決めた。






 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様

佐藤 あまり
BL
 猫を助けて事故にあい、好きな小説の過去編に出てくる、罪を着せられ処刑される悪役に転生してしまった琉依。            実は猫は神様で、神が死に介入したことで、魂が消えかけていた。  そして急な転生によって前世の事故の状態を一部引き継いでしまったそうで……3日に1度吐血って、本当ですか神様っ  さらには琉依の言動から周りはある死に至る呪いにかかっていると思い━━  前途多難な異世界生活が幕をあける! ※竜公爵とありますが、顔が竜とかそういう感じては無いです。人型です。

処理中です...