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第一章 始まり

逸る気持ち 後編【1】

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 パルフェットが屋敷近くの高台より覗き込んでいたスコープの視界が急に黒に染まった為、一度視界をスコープから外したその刹那、手に抱えていた狙撃銃がバラバラに分解してしまったのだ。


「っな! これは、武装解除の魔法!?」


 魔法というものは遠ければ遠いほど、緻密であれば緻密であるほど、大きければ大きいほど、操作は難しく困難になる。
 武装解除の魔法はトラップ魔法の一種で、その名の通り狙った相手の武具を分解や破壊、手の届かない場所へと飛ばすなどして武装を解除する、緻密な魔法を組まなければならない高度の魔法だ。
 魔力の性質特化でその性質を持っている者も限りなく少ないし、修行し習得したとしても扱える者は本当に稀である。

 それに、いつ、どこから魔法をかけられたか全く気配を感じなかった。

 パルフェットは今起きた出来事に恐怖したが、それよりも目の前の子供達に更なる危険が押し寄せた事に身が震え、気を持ち直して前を向いた。
 幸いにも、武装解除されたのは手にしていた狙撃銃のみで、ショルダーホルスターに収まっていた銃は無事である。
 だが、残ったこの銃では遠距離攻撃の狙撃魔法には耐えられず壊れてしまうので、ある程度まで近づかなければ使えない。
 パルフェットは魔力を脚に集めてすぐさまその場を駆け出したが、セリューの性質特化とは違い、そこまでスピードが出るわけではない事に歯痒さを感じた。

 そして、パルフェットと侵入した不届き者共との距離が射程圏内に入った時、一番近くにいたセリューに銃を発砲しようとしている敵に向かってパルフェットは両手に銃を構えて発砲した。


「セリュー! 無事か!?」
「奥様、わたくしの事は構わず! 坊ちゃま方を!」


 パルフェットは一言、傷を負っているセリューに断りをいれて、言われるがまま子供達の方向へと足を踏み出した。
 もちろん、セリューの周りに居た不届き者共をできるだけ銃で撃ち、戦闘不能にしながらだ。
 どうやら敵は撤退をしようとしているらしい。
 次々に敵は荷馬車や飛竜に乗り一塊になっている。
 一塊になっているのは子供達のいる方向で、嫌な予感が拭えないパルフェットは足を進めるのをできうる限り速めた。


「待て! その場を動くな!!」
「おーや、思いのほかお早いご登場で」


 パルフェットは子供達の傍まで近づいたが、そこに居た子供達はシャルルとサロモンしか居ないことにすぐさま気が付いた。
 子供達のすぐ傍に居た荷馬車に乗り込もうとしている最後の一人に向かって、パルフェットは銃を向けて静止を叫んだが男は言う事を聞く気がないらしく、飄々とした態度でパルフェットの逆鱗を逆撫でする。


「待てと言われて待つ盗賊がいますかね? それではリッシュ夫人ごきげんよう?」
「ま、っ!?」


 パルフェットが銃の引き金を引くその前には目の前に居たはずの男、そして荷馬車や飛竜達までが全て景色に溶け込みいなくなってしまった。
 一瞬の出来事にパルフェットは先程まで男が居た場所へと向かい辺りを見渡すも、そこには音や気配も何もなかった。


「どういうこと……、これは魔法!?」


 確かについさっきまで、この場に不届き者共は居たのだ。
 そして、どう周りを見渡してもプティとリンタロウの姿はなく、明らかにあの不届き者共に連れ去られた事は明確。
 パルフェットは認めたくない現実に愕然とした。


「ふぇ、母上」
「母上、ぐす」
「シャルル! サロモン!」


 痛そうにお腹を抱えて蹲り、涙を押し殺している双子のシャルルとサロモンの声に我に返ったパルフェットは、すぐさま二人に近づいた。


「痛むんだね、今治すから」
「ごめ、ごめんなさい、母上」
「お、俺達、プティとリン、守れなかったよぉ」
「…………お前達」


 双子のその言葉でまだ幼い二人が、プティとリンタロウをできうる限り守ろうとしたのだと、パルフェットは胸が締め付けられる思いになる。
 こんなにも幼い二人が危険を押してまで守ろうと努めたにもかかわらず、自分は守らねばいけない存在達を守り切れる事が出来なかったこの事実。
 双子に治癒を施しつつ、パルフェットはすぐさまに次の行動へと移さなければと考えを巡らせた。


「パルフェット!!!」


 双子の治癒が施し終わったその時、頭上から聞こえたのは自分の夫であり子供達の父であるドゥースの声だった。
 上を見上げると、ドゥースの他にゼンや警備隊の姿もあった。
 彼らは捕縛計画が失敗した後、すぐさまゼンを先頭に飛竜を飛ばし、その途中で警備隊に届いた警笛の発信源がベルトランと知り、この場へと駆け付けたのだ。


「ドゥース!」
「パルフェット! 無事か!?」


 空より飛竜に跨り降り立ったドゥースやゼンに、パルフェットは現状を簡潔に話す。
 もちろん、プティとリンタロウが連れ去られたことも。
 そして、状況を把握したドゥースや、その後ろに居たゼン、警備隊の皆は状況が芳しくない事に焦りを見せた。

 特に酷く焦りを見せたのは意外にもゼンであった。

 彼は話を聞き終わると、何か策があるわけでもないだろうに相棒の飛竜のカリスタへと跨り飛翔しようとしたのだ。
 慌ててドゥースや他の皆でゼンを止めて落ち着かせた。
 理性がある方だと思っていたゼンの急な行動に皆驚いたが、落ち着きを取り戻したゼンの様子を見て、周りも冷静さを取り戻していった。

 すぐさま、周りの騒ぎを収めるなど何人かの警備隊を走らせ、ドゥース達がパルフェットの元へと来る前に保護していたベルトランやリュカ、フェリシアンの治癒などを終え、話は今後の行動の話になる。

 窃盗団が消えた理由は、おそらく窃盗団の中に認識阻害の魔法を使える者が居たのではという見解になった。
 武装解除の魔法と同様で、認識阻害の魔法も高度の魔法であるので扱える者はとても少ない。
 故に、絶対その場の近くに居たはずだが、それも認識阻害されていたのか、パルフェットの情報ではそれらしい人物は上がってこなかった。
 だがしかし、それだけ高度の魔法を多用したうえ、大人数にも施しているならどんなに魔力が多い人物でも、長くは魔法をかけ続けることはできないはずだ。それに飛竜や荷馬車の馬達もこの広いリッシュ領を出るには体力が持たないので、リッシュ領内のどこかで一度休息、または交代させるとの考えに行き着いた。

 そうしてドゥースやゼンを筆頭に警備隊の編成を組みなおし、盗賊団が足を止めそうな場所に目星をつけて再び彼らは空を駆けることになったのだ。


「気を付けて」
「必ず二人は連れ帰る。留守を頼む」


 そうパルフェットとドゥースが言葉を交わしたのを合図に、ドゥースとゼンを含む警備隊は空へと散らばって行ったのだった。







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