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第一章 始まり
再び現れた陰【1】
しおりを挟む「守護の魔法が破られて警笛が鳴ったと思ったら、よくも我が家を荒らしてくれてるね」
リッシュ家でいつも通り、夕食の準備をセリューとしていたパルフェットは、まず己が施した守護魔法が破られた気配を感じ、その場を置いてすぐさま家の外へと出た。
屋敷を出た瞬間に耳に入ってきた警笛の音。
魔力を込めて吹く笛の音は長距離にも渡って危険を知らせることができるので、笛を吹いたベルトランから屋敷の傍に立つパルフェットまで容易に届いた。
そして、二度響く警笛。
その二回の警笛の音でパルフェットは敷地内に危険が入り込んだ事実に表情を変えた。
それは、ここ何年も子供達にさえ見せた事のない鋭い瞳であった。
「奥様、お持ちいたしました」
パルフェットが外に出た瞬間に察しの良いセリューは、屋敷の武器庫に綺麗に整備された状態で置かれていた武器を、必要な分だけ見繕いパルフェットの傍へと現れた。
セリューから差し出された武器の一つ、狙撃銃を手に取り構えるとパルフェットは備え付けられている照準器を覗き込み先を見つめる。
すると、照準器の前で発動される魔法陣。それにより、より遠くが見通せるのだ。
屋敷は高台に位置しており照準器から見えるパルフェットの視線の先の牧草地には、まずこちらへと走ってくる牛達と子供達の姿が目に入り、更に奥には飛竜と馬に跨り子供達へと近づいて来ている不届き者共の姿があった。
ここで冒頭のパルフェットの台詞に戻るのだ。
「セリュー、援護する。主要人物以外を切り捨てろ。――――ただ、殺すな。子供達の前だ」
「御意に」
既に細身の剣を携えているセリューが、先に己の性質特化を駆使して先に進む。
パルフェットは、その場を動く前にセリューから受け取っていた銃の収まっているショルダーホルスターを装備すると、その場で手に所持していた狙撃銃をしっかりと構えなおした。
照準器から見える光景は先程と変わっており、子供達は数人の不届き者共に囲まれており、他の不届き者共は牛を次々に盗んでいっているではないか。
「人の敷地に勝手に踏み込んで、盗みをし、我が家の子供達にまで手を出そうだなんて」
パルフェットはとても、とてもゆっくりと息を吐き、吸い込んでを、何度も繰り返す。
細く、長く。
その呼吸の間にも変わる状況。
子供達に近づく不届き者が二人。その内の一人を捻り倒すリンタロウ。
だが、その間にもパルフェットの呼吸は変わらない。
視線は更に鋭く狙いを定め、吸い込み、吐いていく呼吸も更に鋭く、どんどん耳からは音が消えていき心の臓の音まで聞こえなくなるような集中。
双子が土壁を作る光景。
一つ一つ丁寧にパルフェットの銃口に魔法陣が構築されていく。
そして創り出されたばかりの土壁が崩れ去る。
その瞬間。
――――――――ズガァアン!!!
「許されると思うなよ」
撃ちだされた弾丸は三つに割け、狙い通りに不届き者共の銃を撃ち落とした。
*********
俺は今状況を整理している。
たった今、撃ち落された銃は破壊され地面に転がり、手に持っていた銃を撃たれた男達は衝撃が自分の手や腕にまできたのだろう、それぞれが手や腕を抱えて痛みに悶えている。
その男達がすぐさま銃を再び手に取ることはできないだろう。
目の前に居るリーダーらしき男は先程まで何もかも計画の内とか言いながら、今はうろたえているのでどうやらこの遠距離攻撃は計画の中には入っていなかったようだ。
…………これを機に、逃げられる。
「リン! セリューが来た!」
シャルル君のその言葉にリーダーらしき男から目を離し、後ろの屋敷の方角を見ると、まだ遠いがセリューさんが牛を盗んでいっている男達をバッタバッタと切り捨てながら、こちらに近づいて来ていた。
その光景を見ながら、俺は自分自身にアドレナリンがどばどば出ているのが凄く分かる。
目の前で起こっている事が今までにない経験で、人がどんどん切られて血を流し倒れていくのを見れば普通なら恐怖を感じ言葉で言えない何かに襲われるだろうが、アドレナリンのおかげとセリューさんが手加減しており相手の傷が致命傷に至ってない様子なのもあってか、今は冷静に物事を考えられている。
きっと、セリューさんのその奥、屋敷の近くにパルフェット様がいるに違いない。
セリューさんは剣を振るっているので、きっと俺達の周りに居た男達の銃を撃ち抜いたのはパルフェット様だ。
そして、一番厄介そうなリーダーらしき男を撃ち抜かなかったのは立ち位置的に俺達が邪魔で動けないから。
その証拠に、セリューさんの周りの男達が撃たれているが、未だにリーダーらしき男は無傷である。
「っちぃ!! こんなにも早くアレを使わないといけなくなるとは!!」
もう一度リーダーらしき男を見ると男は何かをぼやき、銃をこちらに向けている手とは反対の手でローブの中を探り何かを取り出そうとしている。
まずい!!!
これ以上、男に何かをさせれば逃げられなくなる!!
そう判断した俺はすぐさま子供達の頭を抱えてその場に倒れこんだ。
「伏せて!!!」
「「っわ!!」」
「ぅぷ!」
*********
パルフェットはセリューを援護しつつ、子供達の様子を探っていた。
ちょうどパルフェットの位置や角度からだとあと一人、子供達の傍に無事の姿で残っている男を撃つには子供達に頭を下げてもらわねば、銃弾に巻き込んでしまう可能性があるので撃つに撃てないのだ。
リンタロウならば、状況を理解しこちらの意図を感じ取り動いてくれるはず。
そう確信しているので、パルフェットは静かにその時を見逃さないように子供達の様子を探っていた。
そして。
「――――――良い子」
――――――――ズガン!
パルフェットの考えの通り、リンタロウが行動を起こしたことによって銃口は子供達の傍に居る男一人に向けられ、銃弾は発砲された。
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