どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工

文字の大きさ
上 下
47 / 105
第一章 始まり

三つの銃声音【2】

しおりを挟む






「っち!」







 ビィイイイイイイイイイイ!!!!!







 ベルトランは、先程の男の思惑通りに鞄から笛を取り出し、魔力を込めて思いっきり吹いた。
 けたたましく鳴る笛。
 笛を鳴らしながらベルトランは周りを見渡し、愛犬フェリシアンの姿を見つけるとフェリシアンもまた、同様に捕獲網に捕らえられてしまっていた。

 くそ! あの男の言うとおりしかできないのか!!







 ビィイイイイイイイイイイ!!!!!







 悔しい気持ちなど複雑な思いを込めて、二回目の笛を鳴らすベルトラン。
 それは家族に、周りに、警備隊に、危険を知らせる二回目の警笛。

 男達が向かった先には、弟達とリンタロウが居る。
 ベルトランは笛を吹き終わると、このままあの男の言うとおりではいられないと次の行動へと移るのだった。










 *********










「ま、待って! 敵って何!?」
「わからない! 魔物かもしれないし、悪い侵入者かもしれない! でも危険なのは確かだ!」
「はぁ!? 魔物に侵入者!?」


 何それ! こっちの世界に来てから魔物って聞いたことないけど、いるの!?
 それに侵入者って何! 不審者ってこと!?

 俺はシャルル君に手を引っ張られたまま走っているが、情報の整理がつかずに混乱しかける。


「はあ! はあ!」


 混乱しかけるが、目の前を走っているシャルル君の激しくなる息遣いに、俺は一つの考えに行き着く。

 俺の手を引いてくれているシャルル君はまだ子供だ。
 この広い牧草地を走りきるのにも限界がある。
 それに、サロモン君もプティ君もいて、牛達もいる。
 
 一瞬、牛達を置いて、魔力で身体強化して走るのが苦手なプティ君を俺が抱えて、双子達と魔力全開の全速力で走ろうかとも思ったが……。
 そもそも、子供達の頭の中には大事に育てている牛達を置いていくという手段は無いのだろう。
 今もなお、魔力の無い牛隊を走らせ危険から逃がす為に、走るスピードを牛に合わせて走りながら鞭とベルを振るのに双子達は必至だ。
 俺も、リッシュ家の皆が大切に育ててきた牛達を見捨てて走り去るだなんて手段は、考えてすぐで捨てたくらいだった。
 
 逃げ切れるか分からない危険との距離。
 屋敷の影は薄っすらと見えてはいるが、この距離と子供の魔力無しの足で果たして危険から逃げ切れるのか。

 ――――――――無理だ。
 

「シャルル! 後ろ! なんか来てる!」


 その声に俺もシャルル君も、その場に居た人間全員が走りながら後ろを振り向く。

 なにやらこちらに迫ってくる、あれはおそらく飛竜と馬らしき影。
 飛竜は何匹かが何かを運んでいるようだし、馬らしき動物も何かを引っ張って向かって来ている。

 こっちの世界の馬が馬で合っているかは知らんが今はそれを確かめている暇はない!

 運んだり引っ張ったりしていない飛竜と馬もいるが、だんだん近づいて来るその影をよく見ると人がそれぞれ跨って操縦しているのが分かる。
 どうやら俺の勝手な認識だが魔物ではないらしい、かと言ってそれが良かったとは言えない。
 相手が人とはいえ、見えた数はかなりの数だったし、あの人数に襲われでもしたら、どうなるか分からない。

 これが前の世界であったら。
 多少の護衛術を学んでいる自分一人だったら。
 と、たらればの考えをしてしまうが、そんなの意味がないし今はそれよりもやるべき事がある。


「サロモン君! プティ君! 俺の傍に!」


 俺はシャルル君と走るのを止めて、息を切らしてこちらに向かって来る二人を迎える。


「はあ、はあ、リン! どうしよう!」
「リン! 追いつかれちゃう! はあ、はあ」
「はあ! はあ! っ! はあ!」


 俺はまだ走れるけど、子供達の限界は近そうだ。
 特にプティ君は声を出す余裕もなさそうだし、無理だ。
 
 この笛の音がどこまで聞こえているのかは分からないけど、牛達もこれだけ走っていつもとは様子が違うのだ。きっと、パルフェット様やセリューさんが違和感に気づいて来てくれるはず。


「皆、もう少し走るけど追いつかれると思う。だけど、決して俺から離れないで。いいね?」
「「……う、うん!」」
「プティ君は俺が抱っこして走るからおいで」


 声を出せないほど疲れ切っているプティ君を俺は抱き上げる。
 少しで良いから、助けが来るまでの時間稼ぎを俺一人でやり遂げなければ。


「行こう! 走って!」


 俺の合図で走り出すシャルル君とサロモン君の後ろを俺は走る。
 やっぱり、もうだいぶ疲れてしまっているのだろう。
 二人の走るスピードは速くない。

 どんどん早まっていく俺達の呼吸。
 それと同じく近づいてくる、地響きのような多くの足音や風を切るこれまた多くの羽ばたく翼の音。
 シャルル君とサロモン君により走るように指示されている牛達は俺達より先を走っているが、牛達も逃げ切れないかもしれない。

 後ろをちらっと見てみると、先ほどよりはっきりと見える影。
 そのおかげか飛竜が運んでいるのが檻で、馬車が引いているのが荷車であるのが見て分かった。
 あの大きさであればきっと牛を運ぶつもりなのだろう。
 これではっきりと分かった。あの今近づいている連中は、きっとゼン達が追っていた窃盗団なのだ。

 これは、かなりまず過ぎるかもしれない。

 俺のこの考えは当たったようで、鋭く響く一つの銃声が後ろから鳴り響いた。


 




 ズガンッ!!!






 
「「っひ!!!」」
「っ!! リンにいちゃ!」
「っち!」







しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...