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第一章 始まり
三つの銃声音【2】
しおりを挟む「っち!」
ビィイイイイイイイイイイ!!!!!
ベルトランは、先程の男の思惑通りに鞄から笛を取り出し、魔力を込めて思いっきり吹いた。
けたたましく鳴る笛。
笛を鳴らしながらベルトランは周りを見渡し、愛犬フェリシアンの姿を見つけるとフェリシアンもまた、同様に捕獲網に捕らえられてしまっていた。
くそ! あの男の言うとおりしかできないのか!!
ビィイイイイイイイイイイ!!!!!
悔しい気持ちなど複雑な思いを込めて、二回目の笛を鳴らすベルトラン。
それは家族に、周りに、警備隊に、危険を知らせる二回目の警笛。
男達が向かった先には、弟達とリンタロウが居る。
ベルトランは笛を吹き終わると、このままあの男の言うとおりではいられないと次の行動へと移るのだった。
*********
「ま、待って! 敵って何!?」
「わからない! 魔物かもしれないし、悪い侵入者かもしれない! でも危険なのは確かだ!」
「はぁ!? 魔物に侵入者!?」
何それ! こっちの世界に来てから魔物って聞いたことないけど、いるの!?
それに侵入者って何! 不審者ってこと!?
俺はシャルル君に手を引っ張られたまま走っているが、情報の整理がつかずに混乱しかける。
「はあ! はあ!」
混乱しかけるが、目の前を走っているシャルル君の激しくなる息遣いに、俺は一つの考えに行き着く。
俺の手を引いてくれているシャルル君はまだ子供だ。
この広い牧草地を走りきるのにも限界がある。
それに、サロモン君もプティ君もいて、牛達もいる。
一瞬、牛達を置いて、魔力で身体強化して走るのが苦手なプティ君を俺が抱えて、双子達と魔力全開の全速力で走ろうかとも思ったが……。
そもそも、子供達の頭の中には大事に育てている牛達を置いていくという手段は無いのだろう。
今もなお、魔力の無い牛隊を走らせ危険から逃がす為に、走るスピードを牛に合わせて走りながら鞭とベルを振るのに双子達は必至だ。
俺も、リッシュ家の皆が大切に育ててきた牛達を見捨てて走り去るだなんて手段は、考えてすぐで捨てたくらいだった。
逃げ切れるか分からない危険との距離。
屋敷の影は薄っすらと見えてはいるが、この距離と子供の魔力無しの足で果たして危険から逃げ切れるのか。
――――――――無理だ。
「シャルル! 後ろ! なんか来てる!」
その声に俺もシャルル君も、その場に居た人間全員が走りながら後ろを振り向く。
なにやらこちらに迫ってくる、あれはおそらく飛竜と馬らしき影。
飛竜は何匹かが何かを運んでいるようだし、馬らしき動物も何かを引っ張って向かって来ている。
こっちの世界の馬が馬で合っているかは知らんが今はそれを確かめている暇はない!
運んだり引っ張ったりしていない飛竜と馬もいるが、だんだん近づいて来るその影をよく見ると人がそれぞれ跨って操縦しているのが分かる。
どうやら俺の勝手な認識だが魔物ではないらしい、かと言ってそれが良かったとは言えない。
相手が人とはいえ、見えた数はかなりの数だったし、あの人数に襲われでもしたら、どうなるか分からない。
これが前の世界であったら。
多少の護衛術を学んでいる自分一人だったら。
と、たらればの考えをしてしまうが、そんなの意味がないし今はそれよりもやるべき事がある。
「サロモン君! プティ君! 俺の傍に!」
俺はシャルル君と走るのを止めて、息を切らしてこちらに向かって来る二人を迎える。
「はあ、はあ、リン! どうしよう!」
「リン! 追いつかれちゃう! はあ、はあ」
「はあ! はあ! っ! はあ!」
俺はまだ走れるけど、子供達の限界は近そうだ。
特にプティ君は声を出す余裕もなさそうだし、無理だ。
この笛の音がどこまで聞こえているのかは分からないけど、牛達もこれだけ走っていつもとは様子が違うのだ。きっと、パルフェット様やセリューさんが違和感に気づいて来てくれるはず。
「皆、もう少し走るけど追いつかれると思う。だけど、決して俺から離れないで。いいね?」
「「……う、うん!」」
「プティ君は俺が抱っこして走るからおいで」
声を出せないほど疲れ切っているプティ君を俺は抱き上げる。
少しで良いから、助けが来るまでの時間稼ぎを俺一人でやり遂げなければ。
「行こう! 走って!」
俺の合図で走り出すシャルル君とサロモン君の後ろを俺は走る。
やっぱり、もうだいぶ疲れてしまっているのだろう。
二人の走るスピードは速くない。
どんどん早まっていく俺達の呼吸。
それと同じく近づいてくる、地響きのような多くの足音や風を切るこれまた多くの羽ばたく翼の音。
シャルル君とサロモン君により走るように指示されている牛達は俺達より先を走っているが、牛達も逃げ切れないかもしれない。
後ろをちらっと見てみると、先ほどよりはっきりと見える影。
そのおかげか飛竜が運んでいるのが檻で、馬車が引いているのが荷車であるのが見て分かった。
あの大きさであればきっと牛を運ぶつもりなのだろう。
これではっきりと分かった。あの今近づいている連中は、きっとゼン達が追っていた窃盗団なのだ。
これは、かなりまず過ぎるかもしれない。
俺のこの考えは当たったようで、鋭く響く一つの銃声が後ろから鳴り響いた。
ズガンッ!!!
「「っひ!!!」」
「っ!! リンにいちゃ!」
「っち!」
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