14 / 105
第一章 始まり
これから【2】
しおりを挟む「リンタロウ」
ふと、目の前に影が迫ったと思ったら自分の頬に暖かく柔らかい何かが触れた。
「ぇ……」
「……そんなに不安な顔をしなくても大丈夫だ。俺がいるだろう? お前がどんなに不安や恐怖を感じても、それを全て助け守れる力を持っている。頼ってくれ」
そう言うとイケメンはとても自然な動作でその秀麗な顔を寄せて、俺の頭に口付けをした。
さっきの頬の暖かいものはこのイケメンの唇だったことに今気づく。
「なっ! なにすんだよ!」
顔が熱い。
こんなイケメンの顔が近いことも恥ずかしいのに、こいつ、俺にキスした!
距離をとろうと腕を振り回すが、上級冒険者だというイケメンにもちろん当たるはずもなく、俺の腕は空振るだけだ。
「リンタロウは威勢がいい方が可愛いよ」
「誰が可愛いだ!!!」
一発、そのイケメンの面でもひっぱたいてやろうと思って手を振り上げるが、簡単に掴まれて笑われる。
もう片方の手も使うがもちろん掴まれてしまい、挙句の果てには笑いながらちょっと遊ばれた。
ムカツク!!!
次は足でも出してやろうかと力を入れようとしたが、コンコンと扉をノックしてプティ君が入ってきたので、俺の足が上がる事はなかった。
「…………ぇと、ごはん、たべよう?」
「だそうだ、リンタロウ。夕飯にしよう」
「お前、後で覚えてろよ」
「覚えてたらな」
くっそう!
めっちゃいい顔でイケメンは先に出て行き、俺はプティ君と一緒に夕飯に向かうことに。
夕飯に向かう際に。プティ君が俺の手を引いてくれたのが癒しだった。
その後の夕飯の席では、パルフェット様の旦那様でここの領主様であるドゥース様とプティ君の兄弟君達にお会いした。
一番上のお兄さんは今都心部の学校に通っており、寮生活をしているらしいので会えなかったが。それぞれ自己紹介やら、俺は今回お世話になってる件などなどご挨拶とお礼を言うことができた。
ドゥース様とプティ君の兄弟君達は濃いブラウンの髪にライムグリーンの瞳を持った落ち着く外見の方々だった。
まあ、落ち着く外見ってどういうことだよ。って話だと思うけど。言い方悪くなるけど、日本でいう平均よりちょっと良い中の上的なお顔立ちだったのと。ドゥース様の爽やかで快活な性格がクラスに一人はいる爽やか運動部員みたいな雰囲気で、プティ君の兄弟君達も一般的な中学生、小学生みたいな雰囲気で馴染み深かったので落ち着くという表現に至ったのだ。
今まで超絶イケメンの人外的な容姿と、パルフェット様とプティ君の異常な可愛さしか目にしていなかったからこの世界には美しい者しかいないのかとちょっと怖く思っていたので、心の隅で安心したのは内緒にしておこう。
大勢で賑やかに食べる食事はとても美味しかった。
執事のセリューさんが今まで眠りっぱなしだった俺のためにと、皆とは別に食べやすいものを作って心配りしてくれたり、初めましての俺のことを食卓にいた全員が暖かく迎え入れてたくさん話しかけてくれたんだ。
とても気さくで本当に優しい人達だ。
こんな賑やかな経験はしたことがなかったので、実はかなり戸惑ったが。そんな俺の様子を感じ取り気を使ってくださったパルフェット様が、ほどよく質問攻めから解放してくれたり、合いの手を入れてくれたりしてくださったので居心地は悪くないどころか、とても良かったと思う。
これも初めての感覚だった。
食卓の話の中で、この領地が農業で成り立っていることを聞いた。
主に畜産農業を行っているとのこと。
耕種農業も行っているがこちらは主に自分たちの食料確保や動物たちの飼料のために行われているらしい。
なんと、領主様であるドゥース様達自ら動物たちを世話して育てているという。
だからちょっと日焼けして健康的だったのか。
パルフェット様は肌が白くて力仕事なんてできそうにないなと思ったら、やっぱりほぼ外の仕事はしないらしい。
代わりにパルフェット様は皆が外で働いている間、書類仕事系はすべて行っているそう。
最初はパルフェット様も力仕事をしようとしたらしいけど、結婚する際にドゥース様が『俺の可愛いパルフェットに力仕事なんてさせられない!』と言い、やらせてくれない事になったそうだ。
愛されてるなあ、パルフェット様。
そしてどうやらここに滞在する間、イケメンは皆様へ協力のお礼にと農作業の手伝いと冒険者の経験と力を活かして近隣の警備をするらしい。
というか俺が眠っている間からしてるらしい。
明日からはそれに加えて俺の教育もするという。
イケメン忙しいな。
「あの、それなら俺もここにタダで滞在させていただくのも忍びないので、イケメン……えほん! じゃなくて、えーっと、ゼン? さん……? が俺の教育にあたる以外の時間は何かお仕事とかお手伝いさせてください」
『普通にゼンでいいのに』とクスクス笑ってるイケメンは無視だ無視。
ドゥース様やパルフェット様は、来たばかりで病み上がりだし無理しなくていいと言ってくださったが。これ以上優しさに甘えるのは違う気がして俺は折れなかったので、明日から簡単な仕事から手伝わさせていただくことになった。
皆で食事を終えて、パルフェット様は明日から仕事を手伝いながらいろいろと学んでいく予定の俺を気遣って早めに部屋で休めるよう取り計らってくれたのでご厚意に感謝をしっつありがたく甘えることに。
こうして話は冒頭に戻るのだが、今日一日だけで今までの人生の中で一番と言っていいほど濃い時間を過ごしたような気がする。
多すぎる初めての経験ばかりで疲れてしまった俺は、ベッドに倒れこんだ状態のままいつの間にか意識を飛ばしてしまっていた。
*********
ガチャ……。
「ふむ、こんなことだろうと思った」
凛太郎の眠る部屋に入ってきたのは、月明かりが差し込む薄暗い部屋の中でも輝いて見えるような美しい顔をしたゼンであった。
ゼンは着の身着のままで、ベッドの中にきちんと入らず眠ってしまった凛太郎の傍に寄り、彼を起こさぬように抱えて温かいベッドの中へと丁寧に寝かせた。
「おやすみ。良い夢を」
優しいとろりとした声でゼンは凛太郎に囁き、眠る凛太郎のすっと通った鼻に口付けを送ると静かに部屋を去って行ったのだった。
11
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。
慎
BL
───…ログインしました。
無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。
そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど…
ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・
『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』
「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」
本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!!
『……また、お一人なんですか?』
なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!?
『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』
なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ!
「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」
ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ…
「僕、モブなんだけど」
ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!!
───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様
佐藤 あまり
BL
猫を助けて事故にあい、好きな小説の過去編に出てくる、罪を着せられ処刑される悪役に転生してしまった琉依。
実は猫は神様で、神が死に介入したことで、魂が消えかけていた。
そして急な転生によって前世の事故の状態を一部引き継いでしまったそうで……3日に1度吐血って、本当ですか神様っ
さらには琉依の言動から周りはある死に至る呪いにかかっていると思い━━
前途多難な異世界生活が幕をあける!
※竜公爵とありますが、顔が竜とかそういう感じては無いです。人型です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる