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第二章 旅立ち
豪華列車の旅【2】
しおりを挟む「…………」
「どうした。リンタロウ?」
「ゼン。塩出せ塩」
「何に使うんだ」
「撒くに決まってるだろ!!!」
「撒いてどうする。もったいないからダメだ。それに車両を汚すんじゃない」
このネタは、こっちの世界で通じないのか!?
なんでだよ! 鬼ごっこが通じるならこのネタも普及しといてくれよ!
「リンタロウ?? 俺、何も見えないぞ。もっといろいろ見たい」
「…………見てもいいけど今度こそ周りに注意しろよ!」
「えへへ、はーい」
良いお返事を返したヨルはその返事の通りに、先程よりも落ち着いて俺達の傍を大きく離れることはせず、視界もきちんと前を見て歩いているので先程と似たようなことにはならないだろう。
目新しい物が見れて機嫌がいいのは変わらないらしく、鼻歌は歌っているが。
「…………なぁ、ゼン」
「どうした?」
「さっきの派手男に耳元で最後の方なんて言われたんだ?」
「ん? よく言われ慣れている事だ。気にするな」
そんな言い方だけで、気にならなくなるわけないだろ!
むしろ、いつもどんな事言われてるのか気になって仕方がないわ!
と心の中でツッコんだものの、ゼンがこういう言い方をした時は大体問い詰めてもはぐらかされるだけだと、こちらの世界に来てから短いけれど多くの時間を一緒に過ごしているのでそれ以上聞くのは諦めた。
そんなこんなで、落ち着くまでにひと悶着あってしまったが、自分たちの部屋の前へと無事に到着することができた。
車両の中の扉の間隔的に、取れた部屋が二人部屋とはいえ思ったより広い部屋なのか?
と思いつつ、ゼンが持っていた鍵で部屋のドアを開けて中を見てみる。
「わぁ、二人部屋に三人分のベッドを入れたって聞いたから狭くなってるかと思ったけど、広さは十分だな」
「この列車は全体的に部屋が広く作られている。一番前方の富裕層向けの部屋はこれよりもさらに広い。もう一つベッドが増えた所でそこまで窮屈にはならないだろうと俺も思っていたが……。これは、予想より過ごしやすそうだ」
入り口で部屋の広さに感激していた俺に続けて話していたゼンは、『一泊二日の車両の旅とはいえ、休まらないのでは意味がないからな』と最後に言うと俺を追い越して部屋の中へと入っていく。
ヨルなんて、既にふかふかのベッドに飛び乗って遊んでいるではないか。
…………ずるい! 俺もせっかくの部屋堪能したい!
と、ちょっと前の世界であまり経験した事のない宿泊という魅力についつい子供心が跳ねてしまう。
だって、前の世界では俺はいろんな理由で家から出た事なかったし、同様の理由で修学旅行なんかも行った事がない。
そう。俺は旅行らしい旅行というものがしたことが無かったのだ。
しかし、俺は大人。
さっきはおチビさん呼ばわりされてしまったが、俺はこの世界では成人した立派な大人なのだ。
ここは一息落ち着いて行動しよう。
俺は無駄に部屋に入る前に深呼吸をした。
そうすると、ちょっと落ち着けて周りの様子が見れる。
「俺! こんなふかふかなベッド初めてだ!」
「ヨル、あんまりはしゃぐと埃が出るし、俺達は旅して来たからベッドが逆に汚れるぞ」
落ち着きを取り戻した俺の言葉にヨルは『はーい!』と返事をしつつもクフクフと笑いながら、まだベッドのふかふか加減を楽しんでいる。
「一息ついたら、皆部屋についてる風呂で汚れを落としてくると良い。俺はいろいろと荷物の整理をするから最後に入る。先にゆっくりくつろいでくれ」
「風呂!? ここには風呂もついているのか!」
「ヨル。先に入るか?」
「いいのか!?」
「あぁ、行ってこい」
俺の言葉に嬉々としてヨルは自分の荷物から綺麗な服を取り出すと『風呂場はどこだ!?』と、パタパタと部屋についている扉を開けて確認して行く。
俺が荷物をようやく落ち着いて下ろした時には『あった!』と大きな声が聞こえたから、そのうち風呂場から綺麗になって出てくるだろう。
「ゼン、俺も荷物の確認したいから一緒にやってもいいか?」
「あぁ、もちろんだ」
そうして、ゼンと荷物整理をしていると、綺麗さっぱりとしたヨルが風呂場から出てきたので交代で今度は俺が風呂に入る事に。
綺麗な着替えを持って俺は風呂場に向かった。
驚いたことになんとこの部屋、小さいながらもバストイレ別の脱衣所付きだった。
服を脱いで風呂場に入ると、気を利かせてくれたヨルが湯船に綺麗なお湯を張ってくれていた。
ありがたい。
俺は湯船に浸かる前に自分の身を綺麗にしようと、シャワーを頭から浴びた。
「とうとう、都心部に付くのか」
そう一人呟いた声は湯けむりと一緒に消えて行った。
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