2 / 3
魔法使いの弟子は苦労性【2】
しおりを挟む私は少しの隙間を頼りに部屋の中を覗くと、部屋の中が物で溢れかえってて。それが扉の前までいろんな物で積み上がっているものだから扉を塞いで開かなくなっているのよ!
ありえない! 昨日部屋を片付けてあげたばかりなのに、どうやったらこんなに散らかるのよ!
しょうがないから、いつものごとく足のつま先をトトンと鳴らし、両手をパパンと鳴らして自分の魔法の杖を呼び出す。
そして、杖先を軽く扉にトントンと突いて、と…………。
「もしもし扉の前の物達さん。私の声を聞いてくれる?私を部屋へと入れてちょうだいな」
歌うように杖を指揮棒の様に振るいながら扉を塞いでいる物達にそう声をかけると、カタコトと音がして扉がちょうど私が入れるくらいまで開いてくれた。
「ありがとう」
私を入れてくれた物達に感謝を述べつつ、中へと入ると。部屋の中はギリギリ足の踏み場がある程度。
全く! 昨日綺麗にしたばかりなのに、魔法書やら魔道具やらなんやら、作業に必要な道具や材料まで散乱し放題。
その奥の作業机に突っ伏して作業途中で寝てしまっているのが、私の師匠。
師匠は本当は綺麗な真珠のような白髪なのに、何をしたのか煤やらなんやらで汚れてしまっているのが後姿だけでも分かる。
いったい何をしたらそうなるのやら!
仕方ないなあと、呟いて私は足をタップダンスするようにタタントントンとならし魔力を込めて杖をピシッと上へ向けた。
「全員集合!」
私の掛け声に散らばっていた物達が私の前へと集まりだす。
「さてさて、本の皆は本棚に戻ってちょうだいな。魔道具の作りかけのみんなはあっちの棚に、作業道具の皆は汚れてたら綺麗にしてあげるから私の前に並んでね。綺麗にしたら自分の定位置に戻るのよ」
次々に私の前に集まったその辺にほったらかしにされていた物達へと指示を出していく。
いつもここの部屋を掃除して綺麗にしたり整理整頓するのは私なので、皆、言う事をよく聞いてくれるのだ。
本達はふよふよと自分を開いて蝶の様に舞って自分の定位置に戻って行き、作りかけの魔道具たちは作業途中用の棚へとカタコトと並んでいく。重さや大きさなどで上手く棚へ入れない子は手助けをしてあげつつ。
私は汚れてしまったままの作業道具たちを洗ってあげたり、拭いたりなど綺麗にしてあげてから自分達の定位置に戻ってもらって行っていた。
薬草やその他、細々した子達も定位置に戻ってもらう。薬草の中で水やりが必要な子はお水を上げるのを忘れずに。
そして、一番大変で重要なのが。
「師匠、師匠ー。朝ですよー。ご飯できてますよー」
この寝起きが最悪な師匠を、どうやって怒らせずに起こすのかが朝の難関なのである。
極めて稀に自力で起きてくれる時があるのだが、それは本当に月に一回あるかないかのレベルなのだ。
生まれてこのかた十五年、師匠を起こすのに慣れているとはいえ、油断すると眉間に皺を寄せた機嫌の悪い師匠に睨まれた後、全身ぐるぐる巻きの刑にされて逆さに天井に吊るされるのだけは避けねばならぬ。
なので、最初の声掛けは耳元ではなく少し離れた場所から小声で声掛け。
そして、師匠の反応を見る。
「………………」
無反応。
これはまずいぞ。
今回は、起こす難関のレベルが高めかもしれない。
「しーしょー。あーさでーすよー」
優しく囁きかけるように声をかけて。
寝ている場所が寝室であればこの時点で日の光を優しく当てるのだが、ここは地下。
それが出来ないのが悔やまれる。
代わりと言っては何だが、机の上ランプの淡い灯りしかついてなかった部屋の中を、杖を優しく振って天井や壁際のランプなどの部屋の灯りを少しずつ強めていって日差しを再現。
「…………っ、すー」
そりゃあ、あれだけ部屋を慌ただしく片付けたのにもかかわらず、ずっと寝ていられるその根性。
ただでは起きませんよね。
これは、近年稀にみる超難関かもしれない…………。
覚悟を決めて、私はそーっと師匠の肩に手を乗せて少しだけ優しくやさーしく、揺すってみた。
「師匠、お師匠様ー。ご飯が冷めてしまいますよー。いいんですかー」
恐る恐る、師匠の肩を限りなく優しく揺すりながら先程よりも声を張って様子を見る。
「ん…………、すぅ」
やばい!
これは覚悟を決めねばならないかもしれない。
「んぎゃー!!!!」
「ふぁあ……、くそ、さっき寝た所だっていうのに」
「師匠ー!!! おろしてくださいー!!!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる