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距離が近付くコンビニ店員
しおりを挟む「え、彼女と別れた?」
高島さんは今目が覚めたような顔で僕を見た。
「うん、昨日」
気さくに話せるようになったとはいえ、プライベートを自ら話さないし僕も聞かない。いつまでも仕事絡みの話ばかりだ。
こういう時は自分のことを話してみる。
僕に興味があるなら反応してくれるはずなので成功したかな?
彼女、別れても役に立ってくれてありがとう。
「あ、あの、やっぱり忙しくて?」
「仕事の忙しさは理由にならないよ。大事だと思うならフォローするから、いつも」
「え?でも、そんな急に今?今までは?」
やっと、次に繋がるワードを出してくれた。
「僕、不器用だから、ひとつの事に集中すると他はどうでもよくなってくるみたいで、高島さんとヒーローごっこしてる方が楽しいよ」
高島さんは何か言おうとした口を自分の手で急いで塞ぐと思案顔になる。
「あ、別に高島さんのせいじゃないからね」
リアクションがない。もう一度言おうとしたら顔を上げた。
「彼女さんは大丈夫かな」
「大丈夫って?」
「颯太くんと別れて泣いてないかな、って」
「あ!高島さん言えるようになった?僕のこと小森じゃなくて颯太ってすんなり言えたよね、今」
「颯太くんがそう呼んでほしいと言ったから」
戸惑いながらも、もう一度すんなり言えたようだ。
「高島さんと少しでも打ち解けたかっただけ、本当はどうでもいいよ、小森でも。最初のうちは会話する材料がなかったからね」
「もういいよ、颯太くんで慣れたから。変な人だな、話すほど感じるんだけど?」
「おばあちゃんがいつも言ってたのは、まだ小さな僕を見てこの子は人たらしになるわね~って」
「それ、どういう意味?」
あ、高島さんが笑った。うん、いい笑顔だ。
「よくわからないけど、今思い出したから言った」
彼女が泣いている?
僕は高島さんをはぐらかしながら考えていた。
女ってそういう所がありすぎるから、そうならないような付き合い方で、そうならないような人を選んできた。
付き合う喜びで泣けるなら別れる時も泣く。でも僕自身はダメなんだ。
「颯太くんのおばあちゃん、亡くなったのか」
「え?なんでわかったの?」
「生きていたら〝いつも言ってる〟ってなる。でも颯太くんは〝いつも言ってた〟って」
「うん」
高島さん、鋭い時があって油断出来ないかも。
「でも後腐れのない別れって羨ましいな」
はぐらかしもバレていたみたいだ。
「え?高島さんは別れたいの?というか、彼女さんがいるの?」
偶然にも自然と聞きたいことを聞けた。
「今はいないけど、いたよ」
「なにそれ?最近別れた感じに聞こえるね」
「だいぶ前だけど、時が止まってるね、きっと」
打ち解けてくれるのは嬉しいが厄介な気配がする……
高島さんは訳ありの恋愛をしたのかな?僕は思い切って聞いてみた
「今いないなら、あのタマゴサンドの子、高島さんといい感じになりそうだね」
高島さんは、驚いたことに全く心当たりがない様子で、
「誰のこと?」
と申し訳なさそうに笑った。
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