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学園祭二日目が始まった件④
しおりを挟む有坂くんが滝川さんへキスをするのが見えた瞬間、僕の心臓が激しく鼓動した。
「うっ、」
と声が出ず、呻き声を上げ立ち上がると僕の座る椅子が音を立て倒れた。
「賢……」
俯く北澤さんが僕の袖を掴んで握り締め呟いた。
滝川さんは有坂くんに向け手を上げると顔を隠して僕の側を駆け抜けて行った。
◇◇◇
「杏……」
杏の後ろ姿を見ながら私は呟いた。
責任感の強い杏の事だ、有坂くんからのキスは本当に嫌だったんだ。
(やっぱり杏は……)
賢に目を向けると心配そうに杏の消えて行った方向を見つめている。
(賢もなんだね……)
二人の想いを考えてしまうと苦しくなった。
そして、私は溢れそうな涙を堪えて賢の名前を呼んだ。
「賢!」
「北澤さん!滝川さんが……」
そう言って今にも杏の所へ駆け出して行きそうな賢の袖を握る力を強めた。
「賢、今までごめんね……」
顔を上げると折角我慢している涙が溢れそうだから私は俯いたまま。
「私ね、本当に、本当に賢が好き、大好き!」
顔を上げ精一杯の私の気持ちをぶつけた。
「……うん」
「だから……だからね、杏の所へ行ってあげて!」
その瞬間涙を堪えきれず一つの雫が私の頬を伝って床に落ちた。
「で、でも……」
戸惑っている賢の背中は私が押してあげないと賢は行きそうにない。
「私は大丈夫、だから杏を助けてあげて」
賢に心配かけないように精一杯の笑顔をした私の顔は、堪えきれない涙でグシャグシャになって見れたもんじゃないと思う。
でも、もう賢にも杏にも辛い思いをさせたくない。
好き合ってる二人が結ばれるべきだから……
「分かった、北澤さん、ごめん」
少し考える素振りをした賢はそう言って私の元を去って行った。
「これで…これで良かったよね……」
呟いた私は顔を隠して席を立った。
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