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名探偵美織が誕生した件
しおりを挟む親友の杏に一緒に帰る事を断られた私は、教室を出ると隠れて杏が教室から出てくるのを待っていた。
だって授業をサボってオタクの染谷君と一緒に教室に戻ってきたんだよ?
気になるってもんじゃないでしょ!
杏の怪しさが気になって仕方がない私は、断られてすぐに尾行する事を決めた。
「杏、まだかなぁ」
呟く私は教室から出てくる人を眺めている
すると杏が出てくるのが見え「よし!」っと気合いを入れたけど後ろからオタクの染谷君が付いてきているのには驚いた。
今まで杏が男子と一緒に帰るのを見た事が無い私は、何かが起こりそうな予感にテンションがMAXまで上がる。
『必ずや真相を解明しなければならない』使命感が沸き上がり、都合よく持っていたベレー帽とメガネをカバンから取りだして装着し、なぜかカバンに入っていた虫眼鏡を手に持ち、名探偵へと変身した。
名探偵美織となった私に死角は無い。
私はひっそりと敬礼ポーズを決めると尾行を開始した。
建物の影に隠れ、電柱の以外な細さに上手く隠れる事が出来ず、ゴミ箱の陰に隠れる姿も丸見えだけど杏はこっちを見てないから大丈夫かな?
尾行するうちに段々と楽しくなってきた私は名探偵キャラに酔っていた。
「ふむふむ、16:45角を曲がると…」
どうでもいい事まで鞄から取り出した手帳に書き込みをする私だったけど、なにやら話をする二人の声がよく聞こえずに少し近寄ったところで私の側を大きな音をたててトラックが通りすぎていく。
大きな音に驚いた私は、側を通るトラックを目で追ってしまい二人から少し目を反らしてしまう。
そして、トラックが遠くに行ったところでオタクの染谷君の事を『賢』と呼ぶ杏の声が聞こえた。
(いま、賢って言った?杏、賢って言ったよね?もうそんな仲なの?凄いよ、杏!)
私は今まで男子の事を呼び捨てしている杏を見た事がなかったので、うんうんと頷きながら杏の成長を喜んでいたのだけど、
「私の事は、杏て呼んで」には驚きと同時に興奮してしまった。
(あ、杏、積極的、うん、積極的よ!杏って呼んでほしいってお願いするくらい好きなの?愛、愛だよ杏!一生懸命でカワイイよ、杏~)
そんな杏にうっとりとした視線を向ける私に今度は、埃を巻き上げた風が襲いかかってきた。
まくり上がりそうなスカートを押さえるも、埃が目に入ってしまい痛みに悶えながら目を擦る。
痛みが取れたところで二人が抱き合い「杏、大好きだぁぁぁ!」と叫ぶ姿が見えると私は壊れた。
「キャー!だ、だ、抱き合いってるぅ~!ど、ど、どんな展開なの??あ、杏、ちょっとモジモジしてるぅぅぅ~、もう…ダメ……」
感情を抑えきれず声が出てしまっている私は、引き離そうとしてる杏の姿さえもモジモジして嬉しそうにしてるようにしか見えなくなっていた。
迷探偵と格下げになった私は二人がすでにいなくなっているのにも気づかずに悶え続けた。
そんな私に道行く人の冷たい視線が向けられていたのは気がついていなかった。
◇◇◇
「な、なんか疲れた…」
帰宅した私は突然性格の変わる賢に振り回されて疲れきっていたのですぐにベッドに横になった。
すると、ピコンっとLIMEの着信音がなり、スマホをひらくと美織からだった。
『杏、おめでとぉぉ~!』
絵の入った意味不明なメッセージに困惑したけど美織に返信した事で美織からの追求を受けてしまった。
途中、メッセージでのやり取りに面倒になった美織の着信から始まった会話で、内緒にすると決めた偽装彼氏の事までうっかり喋ってしまったのは失敗したと思う。
だって電話の終わりに、休み明けの月曜に三人でお昼を食べる約束をさせられて私は頭を抱えたのだから。
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