8 / 17
08.恩人
しおりを挟む
「ああ……そうだ」
青年はゆっくりと頷いた後、何かに気づいたように目を見開く。
そして慌てて自分の上着を脱ぎ、セシールの肩にかけると、そのまま抱き寄せた。
「……え?」
セシールは小さく声を上げた。
何故こんなことをされるのか理解できない。
「こんな薄着で……夜は冷え込むから、俺の上着を貸そう」
青年は優しくセシールの背中を撫でながら言う。
「そんな……ヴァンクール辺境伯令息の上着を汚すわけには……」
セシールは戸惑いながら、青年から離れようとする。
しかし青年は、セシールを離すまいとするように力を込めた。
「きみは俺の恩人なんだ。だから遠慮はいらない」
青年は真剣な声で言う。
その眼差しはどこまでもまっすぐで、セシールは思わずドキリとした。
「恩人……?」
セシールは首を傾げる。
自分はこの人に何もしていないはずだ。
「そうだ。俺はきみに救われたんだ。だが、今はそれよりも、すぐに王都を出よう。少し負担がかかってしまうが、我慢していてくれ」
青年はそう言って、セシールを抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこという体勢だ。
「きゃっ……!」
セシールは悲鳴を上げた。
しかし青年は構わず走り出す。
慌てて、セシールは青年の首に抱きついた。
「だ、大丈夫ですか……?」
こんなにも太った自分を抱えて走るのは大変だろう。
思わず、そう尋ねてしまう。
「大丈夫だ、俺は鍛えているから」
青年はそう言いながら、速度を上げていく。
セシールは青年の胸に顔を埋めていた。彼の心臓の音が聞こえてくる。
「私は……ヴァンクール辺境伯令息のお荷物にはなりたくありません……」
セシールは小さな声を絞り出す。
こんな醜く肥えた自分を、彼が助けようとする理由がわからない。
「俺はきみを助けたいんだ」
彼はきっぱりと告げた。
「……どうして……?」
セシールは震える声で尋ねる。
「私なんて……ただの醜い豚です……。王女殿下に疎まれて、追い出されて当然の存在なのに……」
「違う!」
青年は強い口調で否定する。
セシールは驚いて顔を上げた。
青年の目には怒りの色が浮かんでいた。彼は本気で怒っているようだ。
「きみは醜くなんかない。きみはとても美しい女性だ」
青年は真剣な表情で言った。
その目はまっすぐで真剣そのもので、嘘を言っているようには見えない。
「……あ、あの……」
セシールは戸惑う。
何故こんなことを言われるのかわからない。
「すまない、急がなければ」
青年は小さく息を吐き出すと、再び前を向いて走り出す。
セシールは青年の首にしがみついたまま、じっとしていた。
青年はゆっくりと頷いた後、何かに気づいたように目を見開く。
そして慌てて自分の上着を脱ぎ、セシールの肩にかけると、そのまま抱き寄せた。
「……え?」
セシールは小さく声を上げた。
何故こんなことをされるのか理解できない。
「こんな薄着で……夜は冷え込むから、俺の上着を貸そう」
青年は優しくセシールの背中を撫でながら言う。
「そんな……ヴァンクール辺境伯令息の上着を汚すわけには……」
セシールは戸惑いながら、青年から離れようとする。
しかし青年は、セシールを離すまいとするように力を込めた。
「きみは俺の恩人なんだ。だから遠慮はいらない」
青年は真剣な声で言う。
その眼差しはどこまでもまっすぐで、セシールは思わずドキリとした。
「恩人……?」
セシールは首を傾げる。
自分はこの人に何もしていないはずだ。
「そうだ。俺はきみに救われたんだ。だが、今はそれよりも、すぐに王都を出よう。少し負担がかかってしまうが、我慢していてくれ」
青年はそう言って、セシールを抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこという体勢だ。
「きゃっ……!」
セシールは悲鳴を上げた。
しかし青年は構わず走り出す。
慌てて、セシールは青年の首に抱きついた。
「だ、大丈夫ですか……?」
こんなにも太った自分を抱えて走るのは大変だろう。
思わず、そう尋ねてしまう。
「大丈夫だ、俺は鍛えているから」
青年はそう言いながら、速度を上げていく。
セシールは青年の胸に顔を埋めていた。彼の心臓の音が聞こえてくる。
「私は……ヴァンクール辺境伯令息のお荷物にはなりたくありません……」
セシールは小さな声を絞り出す。
こんな醜く肥えた自分を、彼が助けようとする理由がわからない。
「俺はきみを助けたいんだ」
彼はきっぱりと告げた。
「……どうして……?」
セシールは震える声で尋ねる。
「私なんて……ただの醜い豚です……。王女殿下に疎まれて、追い出されて当然の存在なのに……」
「違う!」
青年は強い口調で否定する。
セシールは驚いて顔を上げた。
青年の目には怒りの色が浮かんでいた。彼は本気で怒っているようだ。
「きみは醜くなんかない。きみはとても美しい女性だ」
青年は真剣な表情で言った。
その目はまっすぐで真剣そのもので、嘘を言っているようには見えない。
「……あ、あの……」
セシールは戸惑う。
何故こんなことを言われるのかわからない。
「すまない、急がなければ」
青年は小さく息を吐き出すと、再び前を向いて走り出す。
セシールは青年の首にしがみついたまま、じっとしていた。
180
お気に入りに追加
721
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

ループ中の不遇令嬢は三分間で荷造りをする
矢口愛留
恋愛
アンリエッタ・ベルモンドは、ループを繰り返していた。
三分後に訪れる追放劇を回避して自由を掴むため、アンリエッタは令嬢らしからぬ力技で実家を脱出する。
「今度こそ無事に逃げ出して、自由になりたい。生き延びたい」
そう意気込んでいたアンリエッタだったが、予想外のタイミングで婚約者エドワードと遭遇してしまった。
このままではまた捕まってしまう――そう思い警戒するも、義姉マリアンヌの虜になっていたはずのエドワードは、なぜか自分に執着してきて……?
不遇令嬢が溺愛されて、残念家族がざまぁされるテンプレなお話……だと思います。
*カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。

呪いを受けたせいで婚約破棄された令息が好きな私は、呪いを解いて告白します
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私キャシーは、夜会で友人の侯爵令息サダムが婚約破棄された場面を目撃する。
サダムの元婚約者クノレラは、サダムが何者かの呪いを受けたと説明をしていた。
顔に模様が浮き出たことを醜いと言い、呪いを受けた人とは婚約者でいたくないようだ。
サダムは魔法に秀でていて、同じ実力を持つ私と意気投合していた。
呪いを解けば何も問題はないのに、それだけで婚約破棄したクノレラが理解できない。
私はサダムの呪いを必ず解き、告白しようと決意していた。

次に貴方は、こう言うのでしょう?~婚約破棄を告げられた令嬢は、全て想定済みだった~
キョウキョウ
恋愛
「おまえとの婚約は破棄だ。俺は、彼女と一緒に生きていく」
アンセルム王子から婚約破棄を告げられたが、公爵令嬢のミレイユは微笑んだ。
睨むような視線を向けてくる婚約相手、彼の腕の中で震える子爵令嬢のディアヌ。怒りと軽蔑の視線を向けてくる王子の取り巻き達。
婚約者の座を奪われ、冤罪をかけられようとしているミレイユ。だけど彼女は、全く慌てていなかった。
なぜなら、かつて愛していたアンセルム王子の考えを正しく理解して、こうなることを予測していたから。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

義姉でも妻になれますか? 第一王子の婚約者として育てられたのに、候補から外されました
甘い秋空
恋愛
第一王子の婚約者として育てられ、同級生の第二王子のお義姉様だったのに、候補から外されました! え? 私、今度は第二王子の義妹ちゃんになったのですか! ひと風呂浴びてスッキリしたら…… (全4巻で完結します。サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。)

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。

恋愛に興味がない私は王子に愛人を充てがう。そんな彼は、私に本当の愛を知るべきだと言って婚約破棄を告げてきた
キョウキョウ
恋愛
恋愛が面倒だった。自分よりも、恋愛したいと求める女性を身代わりとして王子の相手に充てがった。
彼は、恋愛上手でモテる人間だと勘違いしたようだった。愛に溺れていた。
そんな彼から婚約破棄を告げられる。
決定事項のようなタイミングで、私に拒否権はないようだ。
仕方がないから、私は面倒の少ない別の相手を探すことにした。

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる