6 / 17
06.解雇
しおりを挟む
「ええ、簡単なことよ。これからはジャクリーンに私の侍女になってもらうわ。同じ男爵家の娘でも、あなたのような豚と違って、私の侍女にふさわしく美しいし、わきまえているもの」
ウージェニー王女が上機嫌で説明する。
「そんな……私は……」
セシールはうろたえる。
王女付きの侍女を辞めたいとは、ずっと思っていたことだ。
だが、このような形は違う。
「さあ、そのペンダントをジャクリーンに渡しなさい。そして、この部屋から出ていくのよ」
「で、でも……私は王女殿下付きの侍女として……」
セシールは震える声で懇願しようとする。
「あら? まだわからないの? あなたはクビなのよ。だから早くペンダントを渡して出て行きなさい!」
ウージェニー王女が苛ついた様子でセシールを睨む。
「王女殿下は、ヴァンクール辺境伯令息とご結婚されるのよ! あなたみたいな醜い豚がいると、邪魔なの! 身の程を知りなさい!」
ジャクリーンも声を荒げる。
「ヴァンクール辺境伯令息……?」
セシールは小さく呟く。
どこかで聞いたことのある名前だ。
「そうよ! 私にふさわしい美しい方よ! 私はあの方に嫁ぐのよ!」
ウージェニー王女は誇らしげに言う。
「さあ、さっさと出て行って! 目障りよ!」
ジャクリーンはセシールのペンダントを強引に奪い取る。そして、そのまま部屋の外へと押し出した。
「あっ……」
セシールはバランスを崩し、床に倒れ込む。
「ふんっ! いい気味だわ!」
ジャクリーンは吐き捨てるように言うと、扉を閉めた。
「あ……あぁ……」
セシールは絶望に打ちひしがれながら立ち上がる。
閉じられた扉に背を向け、セシールはゆっくりと歩き出す。
「うっ……ううっ……」
涙がとめどなく溢れてくる。
だが、泣いている場合ではない。
セシールは震える足を前へと進める。
王女付きの侍女を解雇された以上、もうこの城に居場所はない。
一刻も早く出て行かなければならないのだ。
「きみは……」
小さな呟きが聞こえ、セシールは立ち止まった。
振り返ると、そこには銀髪の青年が佇んでいた。赤い瞳が驚きに染まっている。
「あ……」
セシールは小さく声を上げた。
この青年は、あの時にハンカチをくれた少年だと、すぐにわかった。
整った美貌は、成長しても損なわれることはなく、むしろさらに磨かれていた。
精悍さと繊細さを兼ね備えた容貌に、セシールは目を奪われる。
しかし次の瞬間、今の自分の姿を思い出して、慌てて顔を伏せた。
目の前の美しい青年に、こんな惨めな姿を見られたくなかった。
「……失礼します」
セシールは震える声で言い、慌てて彼に背を向けて歩き出す。
「待ってくれ!」
青年の切羽詰まったような声に、セシールはびくりと肩を震わせる。
しかし、足を止めることはできない。
セシールは必死に足を動かし、城の外を目指した。
「……まあ、ヴァンクール辺境伯令息! こんなに早くいらしてくださったのですね!」
後ろから、ウージェニー王女の弾んだ声が聞こえる。
セシールは振り返らずに、前へ前へと歩き続けた。
ウージェニー王女が上機嫌で説明する。
「そんな……私は……」
セシールはうろたえる。
王女付きの侍女を辞めたいとは、ずっと思っていたことだ。
だが、このような形は違う。
「さあ、そのペンダントをジャクリーンに渡しなさい。そして、この部屋から出ていくのよ」
「で、でも……私は王女殿下付きの侍女として……」
セシールは震える声で懇願しようとする。
「あら? まだわからないの? あなたはクビなのよ。だから早くペンダントを渡して出て行きなさい!」
ウージェニー王女が苛ついた様子でセシールを睨む。
「王女殿下は、ヴァンクール辺境伯令息とご結婚されるのよ! あなたみたいな醜い豚がいると、邪魔なの! 身の程を知りなさい!」
ジャクリーンも声を荒げる。
「ヴァンクール辺境伯令息……?」
セシールは小さく呟く。
どこかで聞いたことのある名前だ。
「そうよ! 私にふさわしい美しい方よ! 私はあの方に嫁ぐのよ!」
ウージェニー王女は誇らしげに言う。
「さあ、さっさと出て行って! 目障りよ!」
ジャクリーンはセシールのペンダントを強引に奪い取る。そして、そのまま部屋の外へと押し出した。
「あっ……」
セシールはバランスを崩し、床に倒れ込む。
「ふんっ! いい気味だわ!」
ジャクリーンは吐き捨てるように言うと、扉を閉めた。
「あ……あぁ……」
セシールは絶望に打ちひしがれながら立ち上がる。
閉じられた扉に背を向け、セシールはゆっくりと歩き出す。
「うっ……ううっ……」
涙がとめどなく溢れてくる。
だが、泣いている場合ではない。
セシールは震える足を前へと進める。
王女付きの侍女を解雇された以上、もうこの城に居場所はない。
一刻も早く出て行かなければならないのだ。
「きみは……」
小さな呟きが聞こえ、セシールは立ち止まった。
振り返ると、そこには銀髪の青年が佇んでいた。赤い瞳が驚きに染まっている。
「あ……」
セシールは小さく声を上げた。
この青年は、あの時にハンカチをくれた少年だと、すぐにわかった。
整った美貌は、成長しても損なわれることはなく、むしろさらに磨かれていた。
精悍さと繊細さを兼ね備えた容貌に、セシールは目を奪われる。
しかし次の瞬間、今の自分の姿を思い出して、慌てて顔を伏せた。
目の前の美しい青年に、こんな惨めな姿を見られたくなかった。
「……失礼します」
セシールは震える声で言い、慌てて彼に背を向けて歩き出す。
「待ってくれ!」
青年の切羽詰まったような声に、セシールはびくりと肩を震わせる。
しかし、足を止めることはできない。
セシールは必死に足を動かし、城の外を目指した。
「……まあ、ヴァンクール辺境伯令息! こんなに早くいらしてくださったのですね!」
後ろから、ウージェニー王女の弾んだ声が聞こえる。
セシールは振り返らずに、前へ前へと歩き続けた。
174
お気に入りに追加
721
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

ループ中の不遇令嬢は三分間で荷造りをする
矢口愛留
恋愛
アンリエッタ・ベルモンドは、ループを繰り返していた。
三分後に訪れる追放劇を回避して自由を掴むため、アンリエッタは令嬢らしからぬ力技で実家を脱出する。
「今度こそ無事に逃げ出して、自由になりたい。生き延びたい」
そう意気込んでいたアンリエッタだったが、予想外のタイミングで婚約者エドワードと遭遇してしまった。
このままではまた捕まってしまう――そう思い警戒するも、義姉マリアンヌの虜になっていたはずのエドワードは、なぜか自分に執着してきて……?
不遇令嬢が溺愛されて、残念家族がざまぁされるテンプレなお話……だと思います。
*カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。

呪いを受けたせいで婚約破棄された令息が好きな私は、呪いを解いて告白します
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私キャシーは、夜会で友人の侯爵令息サダムが婚約破棄された場面を目撃する。
サダムの元婚約者クノレラは、サダムが何者かの呪いを受けたと説明をしていた。
顔に模様が浮き出たことを醜いと言い、呪いを受けた人とは婚約者でいたくないようだ。
サダムは魔法に秀でていて、同じ実力を持つ私と意気投合していた。
呪いを解けば何も問題はないのに、それだけで婚約破棄したクノレラが理解できない。
私はサダムの呪いを必ず解き、告白しようと決意していた。

次に貴方は、こう言うのでしょう?~婚約破棄を告げられた令嬢は、全て想定済みだった~
キョウキョウ
恋愛
「おまえとの婚約は破棄だ。俺は、彼女と一緒に生きていく」
アンセルム王子から婚約破棄を告げられたが、公爵令嬢のミレイユは微笑んだ。
睨むような視線を向けてくる婚約相手、彼の腕の中で震える子爵令嬢のディアヌ。怒りと軽蔑の視線を向けてくる王子の取り巻き達。
婚約者の座を奪われ、冤罪をかけられようとしているミレイユ。だけど彼女は、全く慌てていなかった。
なぜなら、かつて愛していたアンセルム王子の考えを正しく理解して、こうなることを予測していたから。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

義姉でも妻になれますか? 第一王子の婚約者として育てられたのに、候補から外されました
甘い秋空
恋愛
第一王子の婚約者として育てられ、同級生の第二王子のお義姉様だったのに、候補から外されました! え? 私、今度は第二王子の義妹ちゃんになったのですか! ひと風呂浴びてスッキリしたら…… (全4巻で完結します。サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。)

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。

恋愛に興味がない私は王子に愛人を充てがう。そんな彼は、私に本当の愛を知るべきだと言って婚約破棄を告げてきた
キョウキョウ
恋愛
恋愛が面倒だった。自分よりも、恋愛したいと求める女性を身代わりとして王子の相手に充てがった。
彼は、恋愛上手でモテる人間だと勘違いしたようだった。愛に溺れていた。
そんな彼から婚約破棄を告げられる。
決定事項のようなタイミングで、私に拒否権はないようだ。
仕方がないから、私は面倒の少ない別の相手を探すことにした。

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる