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43.涙

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「ああ……すまない。それで、どうしたのかな?」

「はい、その女の子は、これと同じ花をくれた人に伝えたいことがあるんだと言っていました」

 ロゼッタはそう言って、窓辺に置いてある花を指し示す。
 それは、かつてニーナが好きだと言い、コーネリアスが贈ってくれたものと同じ白い百合だった。

「な……っ……!?」

 コーネリアスが目を見開いたまま絶句する。
 今度は取り繕う余裕もないようで、見るからに狼狽していた。
 予想どおりではあるが、彼がここまで驚愕するところを初めて見たロゼッタは内心驚いてしまう。
 だが、同時に胸を撫で下ろす。
 コーネリアスは覚えていてくれたのだ。自分がこの花を、かつての婚約者に贈ったことを。

 これは、ブリジットからボールド王家には時折、不思議な力を持った姫が生まれることがあると聞いたとき、思いついた作戦だった。
 死者と会話することができた者がいるというなら、それを利用すればよいのではないか、と。
 ニーナの声を聞いたことにして、彼女からの伝言だと告げれば、あるいは信じてもらえるかもと思ったのだ。

「そ……それで、その女の子は何を伝えたいと言っていたのかな?」

 必死に冷静さを装った様子で、コーネリアスは尋ねてくる。

「……『ありがとう、そしてごめんなさい。あなたと共に歩む方を大切にしてください』だそうです」

「…………」

 ロゼッタの言葉を聞いて、コーネリアスはひどく複雑そうな表情をする。
 それは、今にも泣き出しそうにすら見えた。

「おとう……さま?」

「……その女の子は、どんな表情をしていたか、わかるかい? 苦しんではいなかったか……?」

「いいえ、優しく微笑んでいましたよ。もう行かなければいけないからと、手を振られました」

「……そう、なのか……」

 安堵の息を吐きながらコーネリアスは俯く。
 何かを耐えるように固く握られた拳が痛々しくて、ロゼッタは思わずそこに自分の手を重ねる。

「おとうさま……もしかして、彼女の伝えたい人とは、おとうさまだったのでしょうか?」

「ああ……きっと、そうだ……間違いない……。私のせいなのだよ、ロゼッタ……」

 震える声で呟き、そのままコーネリアスは黙り込んでしまった。
 ロゼッタの手の上に涙が落ちてきたのを感じたため、そちらを見ることができなかった。
 彼は泣いている。それは安堵の涙なのか、それとも後悔の涙なのか。
 しばらく無言の時間が流れた後、不意にコーネリアスが大きなため息を漏らす。
 ようやく顔を上げた彼の目は赤くなっていたものの、そこには普段の落ち着きと聡明さを取り戻しつつあった。
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