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22.側妃の娘

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「さあ、いらっしゃい」

 ブリジットの言葉に、ロゼッタはおずおずとその手を取った。
 そのまま手を引かれて椅子に腰掛けると、それを確認したかのように侍女たちが部屋から出ていく。
 部屋の中は二人きりになった。
 ロゼッタはブリジットと向かい合い、互いに見つめ合う形になる。
 しばらく沈黙が流れたが、先に口を開いたのはブリジットだった。

「ロゼッタ、何か不自由はしていないかしら」

 唐突に問いかけられて、ロゼッタは思わず目を瞬かせた。

「はい? あ、ええと……いいえ……」

 わけがわからないまま答えると、ブリジットは微笑を浮かべる。そして、諭すように言葉を続けた。

「遠慮することはないわ。国王陛下の宮殿にいるとはいえ、殿方には気の回らないところもあるでしょう。何かあれば、わたくしに言うのですよ」

「はい、ありがとうございます……」

 ロゼッタは戸惑いながらも、なんとか感謝の言葉を述べる。しかし、内心ではひどく混乱していた。
 王妃は冷酷で、己の立場を守るためには手段を選ばないという話だったはずだ。それなのに、彼女はなぜ自分に親切にするのだろう。
 その疑問が顔に出ていたのか、ブリジットは困ったような顔をしながら口を開く。

「どうしたの? 何か不安なことでもあるのかしら」

「いえ、そういうわけではないのですが……」

 ロゼッタは口ごもりながらも答える。
 すると、ブリジットは少し思案した素振りを見せたあと、おもむろに口を開いた。

「もしかして、わたくしがあなたをいじめるのではないかと心配しているの?」

「え……」

 図星を指されて、ロゼッタは思わず息をのんだ。どうやら表情に出てしまっていたらしい。
 その反応を見て、ブリジットは笑いながら言葉を続ける。

「大丈夫よ、ロゼッタのことをいじめなどしないわ」

「では……あの、王妃陛下はわたしを嫌っているのではありませんか?」

 ロゼッタは思い切って問いかけた。
 すると、ブリジットは一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに微笑むと口を開く。

「どうしてそう思うのかしら?」

「だって、わたしは側妃の娘だから……」

 王妃に嫌われていると聞いていたので、ロゼッタはそう答えるしかなかった。
 すると、ブリジットは困ったような表情になる。

「確かにあなたは側妃の娘ね。でも、だからといってあなたを憎んでいるわけではないのよ」

 そう言うと、ブリジットは再び微笑んだ。
 その表情からは、最初に感じたような冷たさは見当たらない。むしろ、どこか慈愛に満ちた眼差しを向けられているような気さえした。

「本当ですか?」

 ロゼッタが尋ねると、ブリジットは頷く。

「ええ、本当よ。むしろわたくしは、あなたが良い扱いを受けていないと知りながら何もできず、つらい思いをさせてしまったことを申し訳なく思っているのよ。ごめんなさいね、ロゼッタ」

「い、いえ……そんな……」

 ブリジットから謝罪を受けて、ロゼッタは恐縮してしまう。まさか謝られるとは思っていなかったのだ。
 思わず口ごもってしまうが、ブリジットはさらに言葉を重ねる。

「いっそ、わたくしがあなたを引き取りたいと願ったこともあったのよ。でも、あなたの実の母である側妃が健在だった以上、わたくしがしゃしゃり出るわけにはいかなかったの」

「そうだったのですか……」

 ロゼッタは呆然とした様子で呟く。
 まさか自分が王妃に気にかけられていたとは思わなかったのだ。その事実を知り、ロゼッタの胸は熱くなる。
 ブリジットは椅子から立ち上がると、ロゼッタに近づいてくる。そして優しく頭を撫でたあと、そっと抱き寄せた。
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